■バランス・スコアカードは経営戦略を見える化へ

  従来型の問題解決の多くは、ある程度外部環境が安定していて、先が読める状態で意思決定してきたものが多い。そのため、一種の思いつきや情熱で、これしかないと一生懸命努力して、問題解決をし、 ある程度の成果に結びついた。
しかし、時代は供給が需要を上回り、消費者がいとも簡単に商品情報を獲得でき、多様な趣向で他の人と一味違ったものを求めるようになってきた。

将来は必ずしも過去の延長線上にあるとは限らず、将来を予測することが難しい時代である。 情報化時代は、バスの運転手の時代からタクシーの運転手の時代に変わったのである。バスの運転手の時代は、乗客がバス停で待っていてくれ、走行ルートとスケジュールも予め決まっており、これに沿って安全に運転すれば良かった時代である。

企業経営で言えば、各年度に企業予算を編成し、この企業予算を目標に「過去の経験」を生かし、「勘と度胸と頑張ろう」に代表される「精神論的経営」ないし有視界経営でも、充分に初期の目的を達成することができた時代である。

ところが、タクシーの運転手の時代は、乗客を捜し求めるとともに、探し求めた乗客の希望する行き先が毎回異なり、換言すると、走行ルートもスケジュールも毎回異なるのである。したがって、タクシーの運転手の時代は、乗客の希望に応じてナビゲーターに基づき走行ルートを決め、安全かつ迅速に目的地に向かって運転しなければならない時代である。

企業経営で言えばビジヨンと戦略を明確にし、それらを実現するための戦略マップを予め作成し、視界が悪い状況でもしっかり機能するナビゲーターを備える。
そして、 ビジョンと戦略を経営トップから組織の末端まで浸透させ、自分たちの夢であり目標であるビジョンと戦略の実現に向けた合理的経営が要求されている。

そこで、バランス・スコアカード(BSC)は、企業のビジョンや経営戦略と、各部門や社員がすべき活動を結びつける。
例えば、経営戦略において、ある事業の売上を3年後に1.5倍にするという目標をたてたとしょう。おそらくこれだけの方針では、事業を担当する部門やその部門に所属する社員たちはどのようにすればいいのかわからない。

目標を達成するために具体的にどのような行動を取ったらいいのか見当がつけづらい。 そこで、ビジョンや経営戦略をかみくだいて、部門や社員の具体的な行動にまで落とし込む。BSCはそのためのツールである。

バランス・スコアカードは「スコアカード」という表と「戦略マップ」と呼ばれる図の2つ(ITC ケース研修資料)で構成される。

スコアカードは、経営戦略を実行するために、部門や個々の社員がクリアしなければならないチェックポイントをまとめたものだ。今日の企業経営では、売上高や利益といった財務上の目標だけでなく、社員や顧客といったステークホルダー(利害関係者)の利害まで考慮することが求められる。
そこで、財務に「顧客」、「社内ビジネスプロセス」、「社員の学習と成長」の3つの視点が加わっている。

まず4つの視点それぞれに、「Key Performance Indicator(重要業績評価指標、以下KPI)」を設定する。そして、KPIごとに数値目標を定める。この数値目標を達成できたかどうかを定期的に評価することによって、経営戦略の進捗状況を点検する仕組みだ。

BSCではさらに、各KPIの相関関係を1枚の図に表した「戦略マップ」を作成します。あるKPIの目標が実現すれば、別のKPIの目標の実現につながるという因果関係があれば、矢印線で結んでいくのです。

例えば、顧客の視点では新規顧客獲得率、顧客定着率、市場占有率、納期の厳守などがKPIとして使用されるケースがある。 そのKPIを設定した目標数値どうりに活動できているかを検証するためには営業支援システムなどのツールを利用すると便利である。

バランス・スコアカードは戦略マップ、ビジョンや経営戦略で掲げた目標という最終ゴールに至る道筋を明示した地図になっている。 この地図の上に配置された個々の戦略について、その進捗を管理するのに適切な指標は何かを決めることが重要なキーになる。
それを考えてKPIを決定し、スコアカードに記入する。 マップの一番上には通常、最終のゴールを置く。企業の場合、それは売上高や利益といった財務上の目標になることが多い。

経営戦略と社員の計画をつなげるこの手法の特徴は、利益率といった「財務」の視点だけでなく、財務以外の視点からも、経営戦略を正確にチェックする点にある。
すなわち、バランス・スコアカードは、ビジョンと戦略を明確にし、それらを経営トップのものだけにすることなく、組織の末端まで浸透させ、部門や個人の目標と、ビジョンおよび戦略との整合性をとる。

経営トップから従業員1人ひとりに至るまで組織のチーム・ワークと結束を強化し、自分たちの夢であり目標であるビジョンと戦略の実現に向けて、果敢に挑戦させる新時代の戦略的マネジメント・システムである。
参考文献 バランス・スコアカード構築 著 吉川武男 生産性出版