■人間力とは・・
年齢を重ねるにつれ、若い頃のような体力を維持することは難しくなります。では人生の中盤以降が下り坂一辺倒なのかというと、けっしてそうではありません。
なぜなら、むしろ年齢を重ねないとたどり着けない広大なフロンティアが残されているからです。それを「深み」と言います。
「深みがある人」[深い話ができる人]「洞察が深い人」「ピンチに立っても思慮深く対処できる人」は周囲から一目置かれます。年齢相応に、そう思われるに越したことはありません。
しかし、自分自身の深みはわかりにくいです。深みをわかる力と、深みのある人間になることは連動しています。世の中にある「深み」の価値をよく理解することが、日常会話やビジネス上の判断などにおいても需要です。
若い人より長く生きている分、経験や知識の量は豊富なはずです。世の中の何たるか、酸いも甘いも、「深み」の価値も、ある程度は分かっているでしょう。
だからこそ、「人生の年輪」を大切に育て、この「深み」を知ること自体、人生最大の喜びになり得ます。イギリスの哲学者・数学者で「20世紀最高の知性」とも称されるパートランドーラッセルは、有名な『幸福論』の中で、世の中に興味・関心を持ち続けることが幸福への道であると説いています。
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深みとは引き出しが多い事
「あの人には深みがある」とは、たいてい褒め言葉として使われます。「深い話ができる」「読みが深い」なども同様で、「引き出しが多い」とも言えます。
ではどうすれば引き出しを増すことができるのでしょうか。それはいくつもの修羅場をくぐり抜け、自ら何かにチャレンジすることです。失敗や敗北の経験は、得られるものは多いでしょう。
どこに敗因があったのかを検証し、ならば次はこうしてみようという目処が立ち、その一つ一つが、貴重な引き出しになるわけです。
その経験を重ねることで、さまざまな事例が頭に入いり、どんな事態に直面しても、パターン的に捉えて、要領よく思考が整理されます。 言い換えると、引き出しの数を増やしていくことが、「深み」のある人間になることでもあります。
例えば、プロ将棋の世界には感想戦というものがあります。勝敗が決した後で対局を振り返り、どの場面でどう指せばその後の展開はどう変わったか、お互いに意見を出し合いながら検証します。
死力を尽くして戦った直後で疲れているでしょうし、しかも敗者にとっては屈辱の時間のようにも思える事でしょうが、実はそうではないらしいです。
感想戦は、敗者がなぜ負けたのかを納得するために行うもので、勝者はそれにとことんつき合うのが礼儀なのだそうです。その検証の成果が引き出しの一つに加えられることは間違いないでしょう。またすべての棋士がこれを行うことにより、将棋界全体の底上げにもつながっているのだと思います。
非情の世界ですが、どれほど研究を深化させても、対局のたびにかならず一方が敗者になってしまいます。その厳しさに耐えることが、プロ棋士の条件なのでしょう。
一般的な仕事の場合、勝敗がさほど明確に決まることはありません。前例どおりにこなしていれば、なんとなく丸く収まることが多いようです。
しかしそれでは引き出しは増えません。したがって深みもにじみ出ません。残念なことに、変化の激しい昨今にあって、いつの間にか時代に取り残されることにもなりかねません。
恥や悔しさが人間を成長させる
浅い知識をひけらかしていたら、相手のほうが詳しくて恥をかいた。また、アイデアを出したら全否定されて悔しい思いをした。緊張する場面でつい失言をして相手を怒らせてしまった。こういう苦い経験は、誰でも少なからずあるでしょう。
しかし、この恥や悔しさの緊張感をきっかけとして、勉強し直したり考えを練り直したりすることも多いと思います。これらはメンタルをもさらに鍛えてくれます。
つまり、この経験が多いほど、引き出しが増えて自分の成長につながるでしょう。結果的に「深み」が増すわけで、けっしてムダなプロセスとは言えません。
目指すべきは上機嫌な日々
「豊富な経験が深みを生む」。 もちろん、特異な経験でなければダメ、というわけではありません。平々凡々な暮らしの中にでも「深み」はあります。
だとすれば、中高年なら誰でも「深み」を持てるわけです。ふつうに働き、家庭を築き、子どもを育てることも需要な経験でしょう。
そして、単純に老いること自体が若者にはできない人生経験です。人生の秋・冬を過ごすことが味わい深さをもたらします。一見すると平坦でも、人それぞれに。ドラマがあるはずです。
ただし、それだけでは足りず、プラスアルファとして、自身の来し方を振り返りつつ、いつくしみの心を抱き、今を楽しみ、将来に希望を持ち続けることこそ、「深み」が増すのだと思います。
年齢的にいろいろあきらめたり、世の中の動きに不満を持ち、将来を悲観したりしていないか。そうなる気持ちになるときもあるでしょう。
しかし、高齢で体が不自由でありながら上機嫌な人もいます。それは私の知るかぎり、地位やお金や家族関係などとは関係なく、上機嫌になる方法を知っているからです。
さしあたり自問すべきは、「上機嫌かどうか」。年齢を重ねるにつれて気持ちが塞ぎ、周囲から不機嫌に見えていないか?
二刀流大谷翔平の夢を現実に変える深み
大谷翔平選手の活躍については、もはやどのような紹介も賛辞を越えています。注目すべきは、その土台となっているものの考え方です。
高校時代から、メジャーリーグへ行き、WBCに出場することなど、詳細な人生設計ノートは有名です。そこに記した以下の言葉『人生が夢を作るんじゃない。夢が人生をつくるんだ。』
はじめに目標ありき、ということでしょう。 「夢が人生をつくる」はけっして大言壮語ではなく、そういう将来をしっかり見据えていたということです。
10代でそこまで考え、20代でそれを貫いて現実を掴んでいること自体に[深み]を感じます。しかも、野球のトレーニングのことばかり考えていたわけでもありません。
その形状から「マンダラチャート」とも呼ばれています。 それを見ると、かならずしも野球の技術や体力についてばかりではなく、「運」や「人間性」も条件として挙げています。さらにその要素には、「感謝」「思いやり」「あいさつ」「本を読む」など。
一見すると野球とは関係なさそうですが、トータルで優れた野球選手になるには、道徳性も欠かせないと考えたのでしょう。
そして今なお、その一つ一つをきちんと積み上げています。この土台があってこそ、今日の活躍につながっているのだと思います。 この若さでの「深み」 素晴らしい!!
参考文献:『深みのある人がやっていること』 齋藤 孝 著 朝日新聞出版