■実践を通じてのみ
アルフレッドーアドラーは、オーストリア出身の精神科医師で心理学者です。「人は努力と訓練によって、何者にでもなることができる」という楽観主義が、アドラーの基本的な考え方です。
さらにアドラーは、人生をフロイトのような原因論で解釈せず、積極的な目的論を唱えました。私たちは過去(原因)によって縛られた存在ではありません。 自分が選んだ未来(目的)に向かって課題に対処し、向上していく存在なのです。
では、課題とは何でしょうか。「仕事」「交友」「愛」の3つです。 すべては対人関係上の問題です。つまり、人は社会的な生物であり、協力し、補い合うことで限界を超えていけます。それを共同体感覚と言います。アドラー心理学の根底にあるのは、人に対する深い信頼です。
また、アドラーは勇気づけることの大切さを強調しています。親や教師、上司は、子供や生徒、部下を叱ってはなりません。
叱らずに、勇気づけます。人は勇気づけられることで課題対処力をつけ、人生を切り開けるようになります。 大切なのは、人の能力を評論することよりも、すべての人の能力を信じることが大切です。
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行動はすべて目標に確定される
行動には目標が必ずあります。人間は目標を実現するために行動します。たとえば子供が夜一人で寝るときに泣くのも、母親の注目を引くという目標のためです。
意外に、目標の設定は、非常に早い時期から始まります。アドラーが人生の目標を定めたのは5歳のときです。アドラーは、ある冬の日、年長の友人とスケートに出かけて置き去りにされてしまいました。
なんとか家に帰り着いたものの、途中の寒さと不安から、医師に「助かりません」と言われるほど重い肺炎になりました。 幸い回復したとき、将来の仕事を決めたそうです。「私の決心は固まった。私は医師にならなければならない。この決心に私はいつも忠実であり続けた」と。
ウィーン大学医学部に進み、卒業後は眼科医から内科医の道を歩みました。精神医学に進むのはその後のことです。 人生の目標に限らず、人は大なり小なり目標を持つことで物事を成し遂げます。
それをアドラーは「一本の線を引くとき、目標を目にしていなければ、最後まで線を引くことはできない」と表現しています。
「人の行動はすべて目標によって確定される。人が生き、行為し、自分の立場を見出す方法は必ず目標の設定と結びついている」と説かれています。目標が頭になければ、人は何も考えられず、着手することもできません。
困難と格闘することなしには成長することはできない
アドラーは、人生の早い時期に失望と挫折を経験し、いかに克服するかを学ぶことが重要であると考えていました。
多くのベストセラーの一冊である『人間知の心理学』にも、こんな興味深い言葉が書かれています。
「あなたは不安ですか? 臆病ですか? 横柄ですか? 従順ですか? 不運があるのを信じていますか? 自分自身を理解していますか? 一夜を自分自身と共にすごしなさい。自分自身の内側を見つめる冒険をしなさい」と。
あらゆる心理的な病気は、幼少期のなんらかの誤りに基づいています。 たとえば、甘やかされた子供は、人生の課題に対処する力が身につきません。
そのうえ、自分が中心でないと我慢ができません。自分が注目を浴びないことには興味を持ちません。困難と格闘することができません。
しかし、「自分は甘やかされて育った」と諦めることはありません。失望と挫折を経験し、受け止めることによって、共同体感覚を身につければいいでしょう。
勇気は実践においてだけ学ぶことがことでる
勇気は他者との関係の中で学ぶことが重要です。たとえば小学生なら、年齢や能力の近い仲間と共同体感覚を学び、能力や経験を比較しながら勇気を学んでいきます。
アドラーは、ある子供に面白い提案をしています。「他の人がしたくないトイレ掃除といった面倒な作業を2回だけしてごらん」と。
その子供はしたくないだろう。しかし、実際にやってみれば、抱いていたイメージとは異なり、満足感や貢献感を得られるかもしれません。 そこから、子供の行動様式が変わっていく可能性は大いにあります。
アドラーは、行動を通して行動が変わっていくことを予想していたので、少年に提案をしました。
勇気についてただ考えるだけでは、勇気を学ぶことはできないし、仲間から離れて一人で「勇敢になるぞ」と決心することでも勇敢にはなれません。
「勇気は実践においてだけ学ぶことができる。すべての勇気の基礎は社会的な勇気、我々の他者との関係の中における勇気である」と指摘しています。
人生の課題は、対人関係に関わりがあります。対人関係に関わる課題を解決する方法は、対人関係を通した実践でしか学ぶことができません。
アドラーの唱える3つの勇気
勇気はアドラーの心理学を特徴づける言葉の一つです。勇ましさというよりも、[人生のよくある問題に対処することが、いつも勇気があるということです]と定義しています。 アドラーは勇気の最も優れた表現に3つの勇気をあげている。
① 不完全であることを認める勇気 自分は失敗することもある不完全な人間だと認め、行動しなければなりません。つまり、「笑われたくないため」、「あるいは自分は優れた人間だと思いたいため」に行動を回避するのは勇気がないことになります。
② 失敗する勇気 人生は常に成功が約束されているわけではありません。課題に挑んで失敗することもあります。だが、失敗を恐れて人生の課題に対処しないのは、勇気がないことになります。失敗から多くのことを学んで成長することが失敗する勇気です。
③ 誤っていることが明らかにする勇気 失敗したことを自分自身が認めることで、人は成長します。メンツを重んじて失敗を認めないのは、自分にしか関心のない人です。
このような3つの勇気を持つ人は、仕事においてもよい働き手となれるのです。
失敗は勇気をくじくものではなく、課題として取り組むべきもの
私たちは「~である」という静的な存在ではなく、「~になる」という動的な存在です。だから、課題は積極的に克服し、能力の限界は認めつつ、できることはやり通さなければなりません。
それが楽観主義であります。楽観主義に立てば、もし失敗しても、自分には何ができ、何ができないのかがわかります。それを次の課題にすればいいのです。 アドラーは「失敗は決して勇気をくじくものではなく、新しい課題として取り組むべきものである」と。
この反対が悲観主義です。また、こんな面白いたとえ話をしています。私たちの遠い祖先が、樹上で行く末を悩んでいました。
一匹は思い切って木を降りました。一匹は「何を悩むんだ。仕方ないじゃないか。今のままが無難だ」と木の上にとどまりました。
そして絶滅していきました。 悲観主義の人は、努力どおりの成果を上げられないとき、失敗という厳しい現実を突きつけられることを恐れて、あえて努力を怠ります。だが、そうした生き方は楽かもしれませんが、成長の役に立つことはありません。
本田技研工業創業者の本田宗一郎氏も「失敗したからといって、くよくよしている暇はない。間髪を入れず、原因究明の反省をして、次の瞬間にはもう一歩踏み出さなければならないのである」と。
参考文献:『1分間アドラー』 桑原 晃弥 著 SB Creative