健康寿命を延ばすには・・

 日本人の睡眠不足は世界的に見ても極めて深刻なレベルです。権威ある研究機関の発表によれば、推奨される成人の睡眠時間は7~9時間だそうです。 

 睡眠は生活習慣そのものです。そして快眠は規則正しい睡眠習慣から生まれることを忘れてはいけません。

どんなに健康的な運動、バランスの良い食事を心がけても、布団に入る時刻が毎日ばらばらであれば、快眠は得られないようです。

体の中には体内時計があります。睡眠のタイミングを決めるだけではなく、前もってホルモンの分泌や生理的な活動を調節し、睡眠に備えてくれます。

これらの準備は自分の意志ではコントロールできません。規則正しい生活こそが体内時計を整えてくれます。プログラミングされている睡眠を円滑に行う秘訣があります。

睡眠の仕組みを知り、睡眠習慣を見直すことは、健康的な人生を送るうえで不可欠であるばかりでなく、アンチエイジング、老化防止効果も期待できます。

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なぜ睡眠が必要なのか

私たちは眠っている間に脳の中で何が起きているのでしょうか? 実はまだわかっていないことが多く、深い謎に包まれているのが現状です。

眠ると意識がなくなるので外界からの危険を察知できなくなり、非常にリスクがあります。もちろん食事もとれません。それでも、すべての動物は必ず眠るようにできています。

そもそも眠気の正体が何なのか? 脳内でどんな物質がどのように作用することで眠くなるのか、ほとんど分かっておらず、解明できていません。これは大きな謎です。

つまり睡眠研究の世界では、「なぜ眠るのか」と「どのように眠くなるのか」という二つが大きな謎として、私たちの前に立ちはだかっています。眠る理由について言えば、眠っている間に脳の中で何らかのメンテナンス作業が行われていることは確実です。

睡眠中は「脳が休息している」わけではありません。心臓や他の内臓と同じように、脳も24時間活動し続けています。

睡眠中の脳は外部から遮断されていて、情報の入力も出力もありません。覚醒中とは異なる何かしらの活動をしているのは明らかです。ただ、それが具体的にどのようなものかと問われれば、よく分っていません。

ぐっすり眠った後は疲れが取れ、病気や体調不良の場合は回復も早くなります。記憶も整理されて、長期記憶として定着するのに大きな役割を果たすことも分かっていますが、そのメカニズムまでは解明されていないのです。

「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の役割

睡眠中の脳波を調べますと、脳や身体の状態の違いから、睡眠には二つの種類があることが明らかになっています。それがレム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)です。

眠りに入ると、まずノンレム睡眠の状態になり、ステージ1~3と段階を追って眠りは深くなっていきます。その後にレム睡眠の状態が来て、またノンレム睡眠に戻ります。

このノンレム睡眠とレム睡眠のワンセットが、およそ90分周期で繰り返されていると言われています。そして、睡眠の後半になるにつれて、レム睡眠の割合が増えていき、ノンレム睡眠は量も減り深度も浅くなります。そして徐々に目覚めの態勢に入ります。

一方、ノンレム睡眠の時は、大脳皮質の神経細胞の活動がより同期的となり、多くの神経細胞が同時に活動する傾向が強くなります。外見的には、スヤスヤと規則的な寝息を立て、安眠しているように見えるそうです。

レム睡眠は浅い眠りと言われますが、実は感覚遮断の程度はノンレム睡眠のステージ2~3と同じ程度だと分かっています。

多少の音や接触などの刺激では目覚めることはありません。さらに、「レム脱力」と言って、眼球や呼吸筋以外の骨格筋が、完全に脱力した状態になることも知られています。健康にとっては、レム睡眠もノンレム睡眠もどちらも必要なものなのです。

睡眠で健康寿命を延ばす

レム睡眠の不足が、どのような健康リスクに繋がるかについて、いくつか論文が出ています。十分な睡眠時間を確保することが、いかに健康寿命を延ばすことにつながることが記載されています。

2020年に発表されたアメリカの論文によりますと、65歳以上の高齢男性、59,194人を対象に、12年間にわたって睡眠時間と死亡率の関係を追跡調査しました。

その結果、睡眠時間に占めるレム睡眠の時間が5%減るごとに、死亡率が13%も上昇することが分かりました。

この結果からは、わずかなレム睡眠の時間の減少でも、蓄積していくと寿命の長さに直結しているようです。認知症についても似たようなデータがあります。2017年に発表された論文では、平均年齢67歳の男女3211人を対象に、12年間にわたり追跡調査しています。

結果、レム睡眠の割合が1%減るごとに、認知症の発症リスクが9%も上がってきます。不思議なことに、認知症にはレム睡眠だけが関係していて、ノンレム睡眠の割合は関係していませんでした。

レム睡眠の重要性がよく分かる調査ですが、1%というのは、本当にわずかな差です。例えば7時間の睡眠であれば、1%に相当するのは4.2分。この不足分が蓄積するだけで、認知症の発症リスクが高まるわけです。

しかもレム睡眠は、睡眠中の後半になるほど多くなります。もし、就寝して短時間で目覚めてしまったら、レム睡眠の大部分を失ってしまいます。まとめて長い睡眠時間を確保することがいかに重要か、この調査結果は物語っています。

感情のコントロールと睡眠不足

当然のことですが、睡眠不足だと脳の機能が低下するので、仕事のパフォーマンスは確実に下がります。

1997年の「Nature」誌に掲載された論文より、科学的に立証されています。

24時間起きていた人、つまり徹夜した人の脳のパフォーマンスは、アルコールの血中濃度が0.1%の人とほぼ同じという結果が出ています。

0.1%というのは、ほろ酔いを超えて、酩酊する寸前の状態です。睡眠不足では感情のコントロールも困難になり、人間関係や信頼関係も悪化しやすくなります。

パワハラをする上司が社会的に問題になっていますが、これも睡眠不足が要因の一つと考えられます。

究極のアンチエイジング 

睡眠は長さだけでなく、規則正しくとることも大切です。

たとえば、不規則に1週間に10時間眠る日があれば、4時間しか眠れない日も、あるいは日によって遅寝になったり、早寝になったりするような不規則な生活を続けている人は、心臓病や脳卒中などの循環器疾患を発症するリスクが高くなるそうです。

実際に睡眠不足の人の体内では、グレリンという食欲を増進させるホルモンが分泌され、逆にレプチンという食欲を抑えるホルモンが分泌されなくなるので、食べる量が増えてしまうそうです。

さらに、睡眠不足によって、見た目の若々しさが損なわれることも報告されています。睡眠は肌の健康にも大きく関わっており、顔色も悪くなり、目の下に隈がでてきたりします。美容面と睡眠の関係について論文も出ています。

肌の保湿機能やバリア機能などを活性化させるためには、十分な睡眠が重要であることは、間違いありません。

 参考文献:『睡眠は最高のアンチエイジング』 文藝春秋 2024/2 月号    

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