いま必要なのは・・・

 混迷の度合いが濃くなりつつある今の時代にこそ、学びに立ち返るということが重要になっています。深い霧を打ち払って、新しい時代を切り開いていくのは、この学び力以外にないといっていいでしょう。

学び力を身に付け.ることによって、いかにさまざまな可能性が広がっていきます。学び力という武器を持っているだけで、新しい世界の扉が開けていきます。

学びこそ、人間にとって最大の喜びであり、人生の目的でもあり、生きていくうえでの大きな武器にもなるものです。 「学び力」は稽古ごとのイメージとは違います。もっと私たちの実存にかかわる根源的な力、生への姿勢のことです。

人生の追い風は、学び力という内なる力を吹かせるものです。少しでも多くの人が、学びから得られる効力の大きさに気づき、日々、学び力を伸ばすべく実践に励んでいただければ、豊かな人生になることを確信しています。

◆◇◆◇◆      ◆◇◆◇◆      ◆◇◆◇◆

学びの蓄積が作り上げる戦略的思考

学び力の具体的な効力を 社会人の方からは、「ただの一般的な知識がたくさん増えるだけで、あまり魅力を感じない」 また、 「学んだことが仕事をするうえで実際に生きてこなければ、何の意味もない」という人もいらっしゃるかもしれません。

 その点、心配には及びません。学び力を身に付けることは、すなわち自分の懐に大きな武器を持つことにつながります。  学び力によって携えることができるその能力とは、ズバリ「戦略的思考」です。

 学びを蓄積させ、学び力を伸ばしていくことによって、仕事や生活の上での課題にいつも前向きに対じすることができるようになります。

そして、物事の全体像をつかむこともでき、結果的に人に先んじたり、少ない行動でよりたくさんの効果をあげることができるようになります。

将棋の棋士の一手

たとえば、将棋の棋士が相手の次の一手を予測し、自分の指し手を創造していくのは、どんな頭の働きによるものなのでしょうか。

スーパーなひらめきによって、一手ずつが生みだされていくと考えてしまいがちですが、そうではありません。  棋士は、序盤戦の指し方を、頭の中に、長年、対局を繰り返していくなかで覚えていく経験と過去に他の棋士が対局した記録として残されている  「棋譜」を膨大に蓄積させています。

 つまり、強い棋士なら、一般の人が想像もつかないほど大量に、駒の動かし方のパターン(型)を、頭の中に蓄積させているわけです。  いざ自分が対局するときには、その巨大なデータベースを瞬時に検索して、現在の状況に最も適した手を探しだしてくる。一手ずつ、そうした作業を繰り返すのです。

 それでこそ、まるで未来を予見できているのではないだろうか?と、いうような、相手の先を行く見事な一手が指せるようになります。  魔法のごときひらめきは、実は学びの蓄積から生じているのです。

未来を予測するチカラ

未来を予測する力とは、何もないところから勝手な想像をめぐらせるということではありません。 起こり得るパターンを自分のデータベースから検索していくことによって、予測が成り立つのです。

 学び力が身に付いていくと、この先どんな展開になる確率が高いかわかるようになる。  それを傍から見ると、未来が予測できているように見えるかもしれませんが。

だから本来、これまでのデータがまったく当てはまらないような、想像のつかない新奇な事態というのはだれもが予測が不可能です。  一方で、過去の延長にある事態ならば、ものごとについて学びを蓄積させてきた人には予測できる。

 素人にはわからなくても、学んできた人には、先が「見える」わけです。先が読める人は、社会においては「気が利く人」と評されることが多いものです。  また、大きなプロジェクトなど、長期的な仕事を任せられる人材と見られることでしょう。

概念化力 知識や体験から「型」を抽出は

  いままで得てきたいろんな知識や体験は、そのままバラバラの形にしておけばそれ以上の意味を持ちません。 それらを整理し、取捨選択し、自分のなかで体系化したりして、エッセンスを抽出します。

そうして、何らかのルールとして確立させ、いつでも取り出して応用できるようにしておきます。エネルギーを費やして得た知識や体験を、 「自分の型」に加工して所有する力を概念化力といいます。これが身に付くとどんないいことがあるのでしょうか。

体験をぎゅっと一つにまとめたものをレンズの形と考えてみます。そのレンズを一つ持っていれば、他のものをレンズを使って見ることができます。 体験を、いろんな場面で応用できるようになるわけです。

応用のしかたには、二つのパターンが考えられます。一つは、得た知識を応用して現実に当てはめます。数学で習った原理(座標軸や集合など)を、 仕事の段取りを整理するときに役立てるといった形です。これはわかりやすい使い方だと思います。

もう一つは、その得た知識を他の状況において使うというパターンです。たとえば、数学を基礎からはじめて、難解な問題が解けるようになるまで習熟したとします。実生活で、 そんな難解な数式を使うという場面はあまりないかもしれません。

ただ、数学を学ぶ過程で得たものを概念化させておけば、他の場面で応用が可能になります。

数学の問題を解いていく行為は、とにかく無駄なものを省いていく作業と考えることができます。数学の世界では、シンプルな数式ほどよりよく、 美しいというごとになっていますから、すべて問題はシンプルな形に還元して考えます。

そういう方法を抽出できていれば、仕事のプロジェクトで事態が錯綜したときに、数学で覚えた方法論を思い出し。数学で得た問題解決の概念を当てはめれば、 目の前の厄介ごとを揉みほぐすことができるでしょう。

学び力がもたらす勝負強さ

学ぶことによって、ビジネスの実践の場で役に立つ、「戦略的思考」の数々を身に付けることができるのだということを述べてきました。 さらに加えるなら、学びは、あなたに「勝負強さ」をもたらしてくれます。

「勝負強い」とは、決して、運がいいということではありません。もちろん誰もが人生に一度や二度、思わぬ勝ちを手にすることがあります。

しかしこれは、偶然に良い状況が揃ったから起こった突発的な出来事であり、あなた自身が「勝負強い人である」ということではありません。

本当の「勝負強さ」とは、前向きな継続で得た実力と、大きな壁にひるまない夕フな精神と、良い状況を一緒に作ってくれるたくさんの味方を、 得てこそ生まれるものなのです。それらは、学び力の蓄積とともに獲得していくことができます。

参考文献:『学び力』 齋藤 孝 著 宝島社    

 ◆ エッセーの目次へ戻る ◆ 
 ◆ トップページへ戻る ◆