■悲観的に計画し、楽観的に・・
さて、ポジティブ思考がモチベーションを高めると言われています。
そこで、積極果敢に「たとえ失敗しても、やらないで諦めるよりマシだ」「ダメ元でやってみよう」「結果はやってみなければわからない」[結果はともあれ、全力を尽くしてみよう]などと、ポジティブな心構えをとるのが一般的です。
しかし、ここでポジティブになりすぎて勢いだけでやみくもに突っ走っても、うまくいかないことが起こることがあります。ポジティブだと気が緩み、慎重さが足りなくなりがちになります。
そこで、自分を過信せずに、先を見通し、あらゆる可能性を想定し、起こり得るネガィブな事態をシミュレーションし、細心の注意を払って準備を進め、万一の場合への対処法も考えておく必要があります。それを踏まえて、ネガティプな心の構えも重要です。
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仕事のできる人なのに、なぜかいつも不安が強い
世の中に、ポジティブで自信満々なのに仕事ができない人がいます。 逆に、他の人たちと比べて仕事ができるのに、なぜかいつも不安が強い人もいます。
仕事ができるので、もっと自信をもっていいのに、なぜもっとポジティブになれないんだろうと周囲が不思議に思うタイプもいます。
そこを踏まえずに、ポジティブ信仰にはまって無理やりポジティブな心理状態にさせたりすると、かえって仕事ができなくなってしまうかもしれません。
心理学の厳密な研究によりますと、ポジティブな気分は思慮の浅さを招き、ヒューリスティック(経験則や先入観に基づいた直感で、ある程度正解に近い答えを導き出す思考)に考えがちであることが証明されています。
私たちの頭の中の情報処理プロセスは、システマティック処理とヒューリスティック処理に区別しています。 システマティック処理は、入手可能な情報を慎重に考慮し、あらゆる角度からじっくり検討して判断する情報処理スタイルのことです。
一方、ヒューリスティック処理は、簡便な情報処理法を意味し、断片的な情報や特定の情報に反応して直感的にすばやく判断する情報処理スタイルを指します。
ものごとを判断する際、本来はシステマティック処理を用いて慎重に判断するのが望ましいわけですが、つい労力を節約しようとして、無意識のうちにヒューリスティック処理を用い、偏見に満ちた判断をしてしまうことがあります。
本人はちゃんと判断したつもりでありながら、じっくり検討することを忘れて、一部の情報のみに反応し、安易な判断をしてしまいます。
たとえば、予算に余裕があるときなど、「高価な方は性能が良いに違いない」と思い、高い方を購入してしまうというのも、典型的なヒューリスティック処理と言えます。
本来なら、値段の違いに見合った機能の差異をじっくり検討すべきですが、それを省略してしまいます。
ある商品を扱ってほしいと営業を受けたとき、「あの百貨店でも扱っているというから大丈夫だろう」と考え、その商品を扱うことに決めるというのも、ヒューリスティック処理と言えます。
このように、ものごとを判断する際には、本来はシステマティック処理を行うべきなのですが、ポジティブな気分のときは、ついヒューリスティック処理を行ってしまいがちになることが、多くの心理学の実験により証明されています。
ヒューリスティック処理の一例として、ステレオタイプで人を判断するというごとがあります。そして、個人を判断する際に、ネガティブ気分のときは、細かなところまで注意深く考え、ヒューリスティックに陥らないようにします。
ポジティブな気分のときは社会集団について、ステレオタイプを使いがちであることがわかっています。
たとえば、特定の個人の実績をじっくり検討することなく、名門校の出身者だから仕事ができるに違いないと判断するのも、「名門校の出身者はできる人」といったステレオタイプを無意識のうちに使っていることになります。
目の前の人物の人柄や能力をじっくり検討することなく、今回は人に気配りができる人物を採用したいから、女性の方を採用します。「女性の方が男性よりも繊細で気配りができる」といったステレオタイプを無意識のうちに使って判断しているのです。
ネガティブ気分はモチベーションを高める
意外に思うかもしれませんが、昨今の研究によれば、ネガティブ気分がモチベーションを高めることがわかってきています。気分の良いときの方がモチベーションは高いと思われています。
だが、ポジティブ気分のときには気が緩みやすいというのは、想像できるのではないかと思います。良い気分のときは、つい気が緩んでのんびり構えてしまうようなところがあります。
一方、ネガティブ気分のときは切羽詰まった感じがあり、何とか少しでもマシな気分状態に回復させようと必死になるようなところがあります。 そう考えると、ネガティブ気分がモチベーションを高めるというのも納得できます。
ネガティブ気分は説得力を高める
ネガティブ気分のときは、さまざまな情報を注意深く考慮する傾向がみられ、説得力が高まるということもわかってきています。これらが説得力のアップへとつながっていると思います。
つまりネガティブ気分のときは、ポジティブ気分のときよりも、システマティック処理を用いる傾向かあります。システマティック処理は、入手可能な情報を慎重に考慮し、あらゆる角度からじっくり検討して判断する情報処理スタイルであります。
ゆえに、ネガティブ気分のときの方が、あらゆる情報を考慮しながら論理構成を慎重に行うことになります。
ネガティブ気分の人が書いた説得文の方が、より具体的でリアルな情報が盛り込まれており、調和の取れた内容構成になっている様です。 これはまさにシステマティック処理を用いていることの証拠と言えます。
さらに、書かれた文章に他人の考え方に影響を与えるほどの説得力があるかどうかを確認したところ、ネガティプ気分の人たちの説得的メッセージの方が、実際に相手の態度変化を引き起こすのに有効だったのです。
ポジティブ気分のときは、ヒューリスティック処理を用いがちであり、ごく一部の情報に単純に反応するが、論理構成が甘くなり、あまり説得力がないということになる傾向になるようです。
こうして、ポジティブ気分のときよりもネガティブ気分のときの方が説得力を発揮できるということが確認されています。
ここから言えるのは、相手を説得しようという際には、多少ネガティブになって慎重に論理構成をすることも重要だといえます。
参考文献:『ネガティブ思考力』 榎本 博明 著 幻冬舎