逆境とは・・・

さて、常日頃、天災や自分のまわりに起こった出来事をどのように捉えてどのように意味づけするか? 思考してみる価値はあります。 過去に起こった出来事は変わりませんが、解釈によって感じ方や捉え方は変わります。

解釈力が大切だというのは良く見聞きします。解釈の方法が大事なのはわかっていても、どのように解釈をすればよいのか? 「無理やりにでも前向きに捉えよう」という短絡的な考えにつながってしまいます。

それでも効果を発揮する場面もあるのでしょうが、このような表層的なやり方ではどこかで躓きそうです。

自身で腑に落ない、借り物の方法はもろいです。「分かっているつもり」こそ危ないのです。それまで何となくうまくいっていたものが、いざというときに、大事な時に実践できない、効き目がない。そういう事態をもたらしてしまいかねません。

そこで、「過去と他人は変えられない」「自分と未来は変えられる」と、心理学の格言がヒントになれば幸いです。

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成長する人は逆境を「逆境観」に

「逆境観」とは、人生において、苦労や困難、失敗や敗北、挫折や喪失、病気や事故、といった「逆境」をどう捉えるかという人生観のことです。

 現代に生きる我々の多くは、世に溢れる享楽的な人生観の影響を受け、「逆境とは、悪しきもの、不幸なもの、不運なものであり、それをいかに避けるかが人生において大切だ」という人生観を、心に抱く傾向があります。

しかし、真に求められるのは、「いかにして、逆境を避けるか」ということではなく、「逆境に向き合い、どのようにして、越えるか」また、逆境を越える強さを身につけることができるかであります。

 自分に直接的な原因や責任があるかどうかにかかわらず、失敗やトラブルが起こったことを全て 「自分の問題」 として引き受けることです。

それを心して、実践することができるならば、どのような逆境であっても、その逆境を越える大きな力を得ることができます。  しかし、この技法を実践するためには、まず、心に抱いている「逆境観」を、大きく転換する必要があります。

 「逆境」とは、大いなる何かが我々を成長させ、そして、人生を導こうとして与えるものであるという「逆境観」を心に定めることが重要です。

 もとより、それは、必ずしも容易なことではありません。 もし、それができたならば、その瞬間に、目の前の失敗やトラブルは人生や仕事に問いかけであるとの問題の意味が、全く違って見てくるでしょう。

つまり、「逆境」こそが「飛躍のチャンス」であると言えます。  こう述べると、あなたは、さらに疑問を抱かれるかもしれません。

我々を導く『大いなる何か』など存在するのか? たしかに、この問いに対して、その「存在」を証明することはできません。  いや、そもそも、人類数千年の歴史の中で、誰も、それを証明した人間はいません。

 さらに、現在の最先端科学をもってしても、そうしたものが存在するか否かは、証明されていないのです。しかし、一つだけ言えることがあります。

 人類の歴史を振り返ると、優れた仕事を成し遂げた人々、見事な人生を拓いた人々の多くは、その存在を信じていた思われます。

「逆境」とは、大いなる何かが我々を成長させようとして与えるものであり、我々の人生を導こうとして与えるものであるという「逆境観」を抱いて、人生を歩んでいます。

イチロー選手の解釈力

近年、こうした「逆境観」は、あまり語られなくなったように見受けられますが、日本人の深い精神性に基づく、この「逆境観」は、決して消えることなく、受け継がれています。

なぜなら、現代、分野を問わず、職業を問わず、一流のプロフェッショナルは、誰もが、同様の肯定的な「逆境観」を抱いているからです。

 例えば、米国のメジャーワークで年間262安打の記録を打ち立てた、イチロー選手は、その記録を達成する前年、アスレチックスのハドソンという投手に、何試合も抑え込まれていました。

 その時期、あるインタビュアーから、この投手について、こう聞かれました。 「イチローさん、あのハドソンという投手は、あなたにとって、できれば対戦したくない苦手のピッチャーですか」            この問いに対して、イチロー選手は答えました。

「いえ、そうではありません。彼は、私というバッターの可能性を引き出してくれる素晴らしいピッチャーです。だから、私も修練して、彼の可能性を引き出せるバッターになりたいです」 このイチロー選手の言葉は、何を言おうとしているのか。

それは、人生において与えられる「逆境」とは我々の可能性を引き出してくれる素晴らしい「機会」であると語っておられるのです。

今一度、目の前のトラブルの「外」に出て、それが持つ「意味」を深く考え、何が違ってるのか、何が問題なのか? 

自分の可能性を引き出し、自分を成長させるための「深い意味」を感じとり、模索してみましょう。 すると、次の様な問いが心に浮かび、与えられた「逆境」の意味を考える力が湧き上がってくるでしょう。

この苦労や困難は、自分に何を教えようとしているのか。

この失敗や敗北は、自分に何を学ばせようとしているのか。

この挫折や喪失は、自分に何を掴ませようとしているのか。

この病気や事故は、自分に何を気づかせようとしているのか。

 こうした問いを通じて、与えられた逆境の「意味」を洞察する力こそが、「解釈力」と呼ぶべき力です。それは、人生の逆境を越えていくために、極めて大切な力でもあります。

「逆境観』の転換による「引き受け技法」 

極め付きの「引き受け技法」とは、辛く、悲しい出来事を招き寄せたのは、自分の心の姿勢のどこに問題があったのか。自分の心の姿勢を、どう改めるべきか? と考える技法のことです。

 こう述べると、難しい技法と思われるかもしれませんが、ひとたび、この『逆境観』の転換を行えば、以上のように謙虚な受け止め方ができるようになります。

 そして、この「引き受けの技法」は、我々が身につけ得る、最も高度な「成長の技法」でもあります。

参考文献:『なぜ、優秀な人ほど成長が止まるのか』田坂 広志 著 ダイモンド社    

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