運動で自律神経を整える

自律神経には、それぞれ異なる働きをする「交感神経」と「副交感神経」があります。私たちが心身ともに元気に過ごせるのは、この2つが"バランスよく"働いているからです。

睡眠不足や不規則な食事、ストレスなどで生活が乱れると、自律神経のバランスは簡単に崩れてしまいます。全ての臓器は交感神経と副交感神経の支配を受けており、2つの神経が交互に働くことで体を調整しています。

つまり、心身ともに良いコンディションで過ごすためには、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが整っていることが大切です。

 緊張状態が続く場面では交感神経が高くなり、疲れて何もしたくないような状態が続くと副交感神経が高くなるなど、その時々の周りの環境や体調などによって、自律神経のバランスは変化するのです。

理想的な自律神経の働きは、"緊張状態が続いて交感神経の働きが高まった後には、副交感神経の働きが高まってリラックスした状態へとスムーズに切り替えられる"状態です。 

◆◇◆◇◆      ◆◇◆◇◆      ◆◇◆◇◆

なぜ仕事か忙しい人ほど、運動をしているのか?

会社の経営者やコンサルタントなど、常に結果を求められる精神的にハードな仕事をしている人は、運動をされている傾向にあるようです。

 精神的なプレッシャーが強い職業の人は、交感神経活動が高まり興奮する場面が多いです。

過度に集中し、急な事態に対応するために急激に集中を高めることを繰り返していると、休んでいても交感神経活動は低下しません。そのため、仕事のことが頭の中をぐるぐる回って、気分が高揚して眠れなくなるようです。

運動をすると心拍や血圧が高まり、酸素の運搬量が増えてエネルギー効率が上がり、交感神経の働きが活発になります。

実際にエネルギーを消費しているので、派手に高まった交感神経活動は抑制されます。 精神的なプレッシャーで交感神経活動が過剰に高められ、運動をすることで頭と体のバランスを保ち、交感神経活動をうまく抑制することができます。

 運動を始めると、気持ち良いと感じる仕組み

運動が自律神経に与える影響を知るためには、実際に体を動かしてみるとよく分かります。 過去に体を動かしたときの感覚を思い出してみましょう。

たとえば、水泳やスキーなどの全身運動をしたあと、体はすごく疲れているのに、爽やかな気持ちになった経験がないでしょうか。もう動けないと思いつつも、体は動きたがっているような感じになったことも。

 長距離のランニングなど、きつい運動を続けていると、あるところできつさが気持ち良さに変わることがあります。高まりすぎた交感神経活動が抑制されたタイミングです。

 運動によって心拍数が上がると、心臓がドキドキします。ここで運動を止めずに、さらに運動をし続けると、心拍数が上がりすぎて体にとって危険な状態になります。そこで、ホメオスタシスが交感神経の働きを抑制します。 この反応は、運動する機会を増やすほど、早い段階で現れるようになります。

 運動習慣がある人は、動けば動くほど、なんだか元気になっていくような感じになります。動き始めの早い段階で交感神経が抑制され、副交感神経活動が高まり、リラックスした状態になります。

 逆に、運動習慣がない人が突然きつい運動をすると、ホメオスタシスが機能するのが遅いので、きつくてつらい思いがより強くなります。ここで運動を止めてしまうと、残念ながら、運動がつらいという記憶だけが残されて、ますます運動嫌いになってしまいます。

「これだけ」で、あなたも運動好きになれる

運動習慣がある人とない人では、まるで別の細胞が身体を形づくっているようなイメージを持つかもしれません。 しかし、運動習慣を変えれば、身体が変わり、それにつれて思考も変わっていきます。

一線を越えて、運動習慣がある人側に行くためには、「これだけ」を意識していればよいというポイントがあります。それは、体を動かした翌日にも動くことです。

 体を動かすと、筋肉は繊維が伸び縮みを繰り返して負担がかかり細かく切れます。この繊維が修復するときこそが、筋肉が大きく成長するタイミングです。

 用事があってたくさん歩いた日や、イベントがあって体を動かさざるを得なかった日の翌日には、普段使っていなかった体が痛く、だるく感じます。

ここで休むと、「運動習慣がない人」になります。頑張って運動すると「運動習慣がある人」になります。 

体が痛い、だるいときは、筋肉を始め心臓や肺などの自律神経が再構成される絶好の機会です。翌日は簡単な筋トレをしたり、一駅歩いて帰るなど、少しでも運動をしてみましょう。

自律神経のリズムに合わせて生活する

起床を促すホルモンであるコルチゾールによって、起床時間に向かって心拍数が上がり、起床直後に動ける体がつくられています。

 起床から2時間までの時間帯には、血管が詰まったり、破裂するリスクも高まります。 自然と血液を固める血小板が最大になり、粘着性が高まります。

 脳卒中や心筋梗塞が起こりやすいのもこの時間帯です。自律精神を中心に据えて生活を組み立てれば、自然に余裕が出て、望ましいライフスタイルになります。

朝イチには内臓の温度を上げる

運動は確かに交感神経活動を高めるのに有効ですが、体にとって負担が大きいです。心拍数が上がり、深部体温が上がり始める朝に、負担の大きい運動を行うと、気分が悪くなり1日中身体がだるくなってしまうこともあります。

朝にいきなりランニングをしたことで、脳卒中や心筋梗塞を起こしてしまう例もあります。 まずは、目覚めたら温かい飲み物で直接内臓の温度を上げましょう。温かい飲み物ならばどんなものでもいいです。

出勤後は、最初に決めたことをひとつだけやる

出勤後は、まずメールチェックするのをやめてみましょう。メールを開くと、自分の都合とは関係なく仕事が発生します。

これは自律神経にとって、急な集中を要求されることになります。交感神経の働きに負担をかけずにしっかり高めるには、予定していた作業をひとつだけ片づけましょう。

 通勤中に、今日やるべきことを頭の中で整理することもあると思います。

急な集中を避けるためには、予定どおりに行動することが大切ですが、何も1日の行動計画をすべて予定どおりに行う必要はありません。

最初のひとつだけを守ってみましょう。出勤したら、たとえ何か興味を引くようなことや、片づけようと思っていたことが頭に浮かんでも、最初のひとつだけは予定どおりに実践しましょう。

夕方にはあえて階段を使い汗をかく

夕方の時間帯には、深部体温が最高になります。そのリズムを助けるために、あえて体を動かしましょう。

仕事場と家を往復するような生活だけではなく、汗をかくほどの運動を意識し、たとえば階段を使う、一駅歩く、ジムに通うなど、普段やっていること、手軽にできることを夕方に移すことをお勧めします。

交感神経が身体活動によって高められれば、ホメオスタシスによって交感神経は抑制されます。交感神経が抑制されると心地よさを感じ、また夜には速やかに神経活動が鎮静して眠くなります。 

夜に自律神経活動を鎮めることも仕事の技術

迷走神経という代表的な副交感神経があります。迷走神経は、心臓や肺、内臓に分布しています。心臓のペースメーカー細胞を支配して心拍数を減少させ、呼吸をゆっくりする働きをしています。

 筋肉をしっかりストレッチすると、交感神経が活発になり心拍数や血圧が上がります。 すると、迷走神経の働きは抑制されて、さらに心拍数が上がります。

いったん上げられた交感神経活動は、その後抑制されて、迷走神経によって心拍や呼吸がゆっくりになっていきます。また、軽くストレッチするだけでも、心拍数が上がりますが、これは交感神経が高まったわけではありません。

副交感神経である迷走神経の活動が抑制されたから心拍数が上がったのです。心拍数を下げる働きをする神経の活動が低下した結果、心拍数が上がったということです。

 このような現象も、いかにも二重支配の自律神経らしい働きです。つまり、眠る前にストレッチを行うと、その強度にかかわらず自律神経の反動がついて、よりリラックスした状態になるのです。仕組みを理解して実行すれば、さらに自律神経との協業する姿勢がつくられるはずです。

自律神経にとっては体を横たえていることだけが休むことではありません。「二重支配」、「ホメオスタシス」、「フィードバック(ここが良い、悪い)とフィードフォワード(次はこうしよう)」の機能を高めること。これが、自律神経と協業したうえでの休む技術です。

参考文献:『自律神経はどこまでコントロールできるか?』 菅原洋平 著 KKベストセラーズ    

 ◆ エッセーの目次へ戻る ◆ 
 ◆ トップページへ戻る ◆