■コンフォートゾーンから抜け出す
コンフォートゾーンとは、ストレスのない居心地の良い環境や精神状態のことです。コンフォートゾーンの他に2つのゾーンが存在します。
「ラーニングゾーン」と「パニックゾーン」です。ラーニングゾーンとは、自分が経験したことのないことや、自分の経験値よりも少しハイレベルな要求があるゾーンです。決して居心地の良い環境や精神状態ではなく、適応するための努力を必要とします。
パニックゾーンとは、過去の経験が全く通用しない、思考が追い付かず、何から手を付ければ良いかも分からない危険な状態です。 誰でも達成できそうな低い目標設定の中で働くことや、工夫をせずに何年も同じ業務を繰り返すことも、ビジネスにおけるコンフォートゾーンと言えます。
コンフォートゾーンのようなプレッシャーのない環境は居心地が良いと感じるかもしれませんが、居続けることで成長を止めてしまう要因になります。
コンフォートゾーンが狭いまま、ラーニングゾーンとの距離が広がってしまうのです。ここに慣れてしまうと、ラーニングゾーンへ1歩踏み出す勇気がなくなり、成長のきっかけを逃してしまいます。
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「行動」なしに自己成長はない
一般的に人はなぜ、なかなか行動に移せないのでしょうか。行動しない人、行動できない人は、とても多いと思います。 それは、生物学的に人間が「快適領域(コンフォートソーン)」を出ることを恐れるように、プログラミングされているからです。
快適領域とは何かというと、[なわばり]のようなものです。日々あなたが活動する職場、日々あなたが集う趣味仲間、同僚たち等で、居心地がいい安住の場です。
人間は本来「現状維持」がもっとも心地よいようにできています。「なわばり」から抜け出して自分の知らない世界に踏み出すことに感じる不安や恐怖は、生物的な本能なのです。しかしながら、この快適領域にいる限り、変化も自己成長は難しいです。
人は新しいことにチャレンジすると、脳内物質のドーパミンが分泌されます。ドーパミンは「楽しい」という感情を引き起こす物質ですが、それと同時に「新しいことを学習する」ことをサポートする物質でもあります。 ドーパミンが分泌されると、集中力、やる気、記憶力、学習機能などが高まります。
人間は進化とともに大脳新皮質を発達させ、その発達によって「言語」を獲得した結果、「言葉」でコミュニケーションできるようになりました。
大脳新皮質が発達したからこそ、数えきれないほどのチャレンジに挑み続け、これほどの文明を築くことができたのです。
私たち人間は進化の過程で「チャレンジする力」や「考える力」を獲得しました。そうした力をうまく使うことで、本能的な不安や恐怖に打ち克ち、新しいチャレンジに立ち向かうことができるようになりました。
「ちょい難」にチャレンジする
不慣れな行動やチャレンジが自己成長につながるとはいっても、恐怖や不安の方が強い人もいるでしょう。先ほども述べたように、快適な領域から出るときに恐怖や不安を感じるのは生物としては当然ですし、無謀な挑戦をしたら何かを失うリスクもあります。
そこで、提案したいのが、「ちょっと難しいこと(ちょい難)」にチャレンジすることです。
いきなり難しいことにチャレンジすると恐怖や不安を増長しますから、「少しがんばれば、できそうなこと」に挑戦するのです。
心の中には「快適領域」の他に「学習領域」と「危険領域」という領域があります。 「快適領域」のすぐ外には、「学習領域」があり、その外側に「危険領域」が広がっています。
「学習領域(ラーニングソーン)」は、軽いストレスは感じても、恐怖や不安、危険までは感じません。むしろ、新しい体験にワクワクし、意欲的に挑戦してみようという気持ちになる領域です。 その外側に大変な挑戦する「危険領域(デンジヤーソーン)」があります。
「危険領域」に入ると難易度が高すぎて(ワクワク感よりも恐怖や不安の方が強くなってしまい、「できればやりたくない」「逃げ出したい」気持ちになります。
例として、[跳び箱]を考えてみましょう。5段は跳べるとします。最終的に8段を目標とします。その場合、いきなり8段に挑戦しますか? 高すぎて足がすくみます。
「絶対に無理!」と拒否反応を起こしてしまうかもしれません。では、6段だとどうでしょう? 5段よりは少しは高いけど、「何度か練習したら跳べるかもしれない]という気持ちになるのではないでしょうか。
では、4段だとどうでしょう? 5段を跳べるあなたにとっては、楽勝。むしろ、「つまらない」と思うでしょう。
このときの8段が危険領域、6段が学習領域、5段以下が快適領域になります。ですから、6段を練習して6段を跳べるようになったら、7段に挑戦します。7段を跳べるようになったら、次はようやく8段へ挑戦します。
大事なのは、自分のレベルよりちょっとだけ上の目標を立てることです。目標の難易度が高すぎると、不安や恐怖の原因となるノルアドレナリンが過剰に分泌され、「やめたい」「逃げ出したい」という衝動に駆られます。
以上のように、少しがんばれば達成できそうなプチ目標を設定し、「少しがんばってみたら、できた!」を繰り返します。 小さなチャレンジの積み重ねが、結果として大きな自己成長に結びつきます。
目標を小さく設定し、少しがんばればできる「ちょい難」の目標を設定すれば、不安や恐怖は出ません。出るのはワクワクとドーパミンで、楽しく自己成長できます。
フィードバックで失敗を経験に変える
しかし残念なことに、せっかく勇気を出して行動しても、ほとんどの人は「行動しただけ」「アウトプットしただけ」で終わっています。「行動」する際に欠かせないのがフィードバックです。
何かにチャレンジしてうまくいかなかったときは、行動を振り返って『TODO(すべきこと)」を書き出します。 つまり、失敗から経験値を得ます。 これをしない限り、人は自己成長していくことができません。
フィードバックしないということは、「失敗した」「うまくいかなかった」、その原因がわからず、失敗の原因がそのまま放置されるわけです。当然、同じ失敗を何度も何度も繰り返します。 「なんて自分はダメな人間なんだ」と自己肯定感が下がり、「もう失敗をしたくない」とチャレンジしなくなりかねません。
行けない道を一つずつ消していって、最後に正しい道を見つけるように、失敗し、その過程で必要な情報を得るようになります。つまり、「エラー」は失敗ではなく、「小さな成功」なのです。
レジリェンスの強化
行動して、失敗して、フィードバックするというサイクルを繰り返していくことによって、経験値は間違いなく蓄積され、ライフステージのレベルが確実に上がっていきます。そう考えれば、2~3回失敗したくらいで諦めず、チャレンジし続けることができるのではないでしょうか。
さらに、失敗やエラーには、もう一つ、非常に大きなメリットがあります。エラーによって「精神的な強さ」が得られます。 多少のストレスがあったとしても、それを「受け流す」ことができれば、心が折れることはありません。
この「受け流す力」のことを、レジリェンスといいます。 レジリェンスは、直訳すると「回復力」、「(逆境や困難から)立ち直る力」や「心のしなやかさ」とも呼ばれます。ストレスをすっと受け流し、失敗しても、すぐに立ち直ることができる力のことです。
レジリェンスを高めるには、たくさん失敗すればいいのです。子どもの頃の失敗経験が少ない人は、大人になってからのメンタルが弱いようです。失敗は人生に必要です。特に若いころには、失敗しておいたほうがいいのです。
成功も失敗も含めて、さまざまな経験を数多く積み重ねていくことによって、自己成長し、私たちのレジリェンスは鍛えられます。失敗は決して無駄にはなりません。
参考文献:『極アウトプット 伝える力で人生が決まる』 樺沢紫苑 著小学館