脳、活性へ

 脳はさまざまな場面で活性化しますが、そのために大事なポイントがいくつかあります。 

1)有酸素運動: 神経細胞の栄養源が体内で作られ、それによって記憶をつかさどる海馬も発達します。

2)好奇心:「楽しい」と感じることはストレスを軽減し、脳の健康状態を保つのに寄与します。

感情をつかさどる扁桃体と記憶をつかさどる海馬が密接にかかわっているため、楽しい、わくわくするということは結果的に記憶力の向上につながります。  3)会話: 相手の表情を読みとったり、声の抑揚を感じとったりと言葉以外の情報の伝達をすることで、相手の気持ちや感情を理解しようと脳がフル回転します。

  4)食生活を工夫: 脳の健康維持に役立つ食べ物はたくさんありますが、特定の品目だけではなくバランスよく食べることが大事です。

  5)睡眠: 眠ることで記憶を形成し、保持することができます。 もう一つは老廃物を洗い流すこと。

脳神経細胞の周辺に蓄積し、認知症の原因にもなるたんぱく質のゴミが、眠ることによって洗い流されるといわれています。 そのため、しっかり眠ることが脳にとって大切な役割を果たすのです。 

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賢さは後天的に作られる

頭のよさとは、生まれ持った頭のよさなのでしょうか。頭のよさは、後天的に決まります。生まれたときは皆、同じ土俵にいます。 賢い人とは、まず、知識量が豊富な人。人から「生き字引」と言われるタイプです。

  将棋棋士の藤井聡太さんのような、ある専門分野に特化して優れているタイプです。では、藤井さんが生まれつき将棋の天才脳を持っていたかというと、それは違います。

人並み外れた研究とトレーニングを積んだ結果、まるで生まれ持った才能のように、将棋の駒を操れる能力が備わったのです。賢い人たちは瞬時に物事を判断するため直感で選択しているように見えますが、それは日々の学習とトレーニングによって脳にインプットされ、ルーティン化できているのです。

 新人とベテラン社員では、同じ業務をしても作業効率が違いますよね。それと同じです。これらの賢さは、生まれたときから脳にプログラミングされているのではなく、後天的につくられるものなのです。

脳の負担を下げることで、集中力を研ぎ澄ます

朝、7つ以上の動作、たとえばトイレに行く、顔を洗う等、いちいち思い出しながらやる人は少ないでしよう。ルーティン化して1つにまとめ、無意識にこなしているはずです。その分、脳に余白がうまれることになり、新たな情報を蓄積できます。

いかに余白を増やして脳を軽量化するか。 これが賢い脳をつくるコツの一つといえます。極端な例ですが、アップル創業者のスティーブージョブズは、毎日同じデザインの服を着ていましたよね。

あれを、ルーティン化して脳の負担を減らししているのだと思います。新しい取り組みに集中したいときは、不要になった情報を消して脳に余白をつくることが大切なのです。

集中力を高めるには、マルチタスクにしないこともポイントです。マルチタスクとは、複数のことを同時進行でこなすことです。たくさんの情報や業務を処理しなければならないので、脳の効率を落としてしまいます。   

 朝の運動で午後の脳が冴える

人間には約60兆個の細胞があり、すべてに時計遺伝子が付いています。時計遺伝子は朝から1個ずつ起きていき、午後には覚醒する細胞の数はどんどん増えていきます。スポーツの試合は午後に行われることが多いですが、記録を出したい場合、午後のほうがよい成果が出やすい傾向にあるからです。

 朝起きて朝食をとると、食べ物が胃に入り胃の中の消化管が目を覚まします。次々に体中の細胞が起きてきますが、午前中にすべてが動き出すとは限りません。午後のほうが覚醒している細胞は多いのです。

これに合わせて、午前中はメールチェック、データ整理などの簡単な作業がおすすめです。重要な会議や商談、クリエーティブな作業など、脳をフル活用する仕事は、午後にするほうがよい成果を出せます。

脳を活性化するには運動をすれば、脳へ血液が送られます。カナダの脳神経外科医、ワイルダー・グレイヴス・ペンフィールドによると、脳の大脳新皮質運動野というエリアには運動神経細胞があり、頭頂部から耳の穴へ向かって、足、腰、体幹、腰と体の下部位から上部位の順に司るエリアが並んでいます。

つまり歩けば歩くほど、動けば動くほど、足先まで血流が行きわたり脳が活性化するそうです。 朝の運動は、脳に対する作業興奮として効果的らしいです。これは運動による作業興奮の結果、脳全体が活動してくるためです。

夜、就寝2時間前くらいのジョギングやストレッチは、心地よく眠るために効果的です。

記憶を効果的に蓄積するために必要な行動3つ、感情、出力、休息

①感情は、脳に「この情報は大切だ」と認識させる作業です。脳には、感情を司る「扁桃体」という部位があります。

扁桃体は、感覚情報と、記憶を司る「海馬」からの情報を受け、これまでの記憶と照らし合わせて、快、不快、好き、嫌いを判別します。扁桃体で必要な記憶を取捨選択し、海馬に送信します。

例えば「勉強したくない」とネガティブな感情を持ちながら勉強すると、扁桃体は「この勉強は大切じゃない」と海馬に知らせるため、結果として覚えにくくなります。

逆に、「○○合格!」と目標を壁に貼り出す人がいますが、これは非常に効果的です。目にするたび、脳が「重要な情報だ」と思い、積極的に記憶しようとします。

②出力は、情報を脳から出すことです。記憶は、何かを思い出すときに定着していきます。特に海馬が多く刺激され、定着率が高くなるのは、人に何かを教える行為です。覚えだいことがあったら、誰かに教え、記憶を定着させるとよいでしょう。

③休息も重要なポイントです。脳科学では、休憩を挟まずにまとめて勉強する「集中学習」と、小刻みに休息する「分散学習」とを比べた場合、記憶の定着率は後者のほうが高いことが明らかになっています。

睡眠の質を高める8つのポイントとは

「脳に休息を促す最たるもの」、それは睡眠です。睡眠の目的は、疲労を取るため、組織を修復するため、そして記憶の固定です。

寝ている間に、その日に得たスキルや知識の記憶を固定します。プロ野球選手の大谷翔平さんは「睡眠が趣味」と聴きますが、眠ることでスキルの固定をしているのです。睡眠の質を高めるために、ぜひ実践してほしい8つの項目があります。

①まずは睡眠時間にこだわらないこと。疲労の取れる十分な睡眠時間を確保できればいいのです。ちょうどいい睡眠時間は、年齢やエネルギー消費量などによって異なります。一般に、年を取ると睡眠時間は短くなります。また、季節によっても睡眠時間は変化します。

②寝る前4時間以内のカフェイン摂取や、寝る数時間前の喫煙は避けましょう。
③毎日同じ時刻に起きることも大切です。体内時計に従った規則正しい起床が、早い就寝につながります。
④夜は、過度に明るい場所を避けること。メラトニンは、明暗に依存して分泌されるホルモンです。夜中に明るい照明の中で過ごすと、体内時計の働きが乱れてメラトニンの分泌が抑えられ、睡眠覚醒リズムが乱れてしまいます。
⑤規則正しく朝食をとり、運動習慣を持つのも、よく眠るためには大切です。

⑥昼寝は脳をリセットするのに有効ですが、時間帯は15時前までに30分程度で済ませましょう。昼食後から15時までの時間帯の30分未満の規則正しい昼寝は、夜間の睡眠に悪い影響は与えません。

⑦眠りが浅いときは、積極的に早起きと遅寝をしましょう。休内時計がリセットされ、安定した深い睡眠ができるようになります。
⑧睡眠薬代わりの寝酒は、不眠のもとです。「お酒を飲めばよく眠れる」と思って寝酒をする人がいますが、それは勘違いです。お酒はレム睡眠を抑制する効果があるため、その反動で朝方に嫌な夢を見ることがあります。

規則正しい生活を送り、質の高い睡眠を取ることで、脳が正常に活動し、正しい判断や記憶の蓄積ができるようになります。考え事で行き詰まったときは、いったん考えるのをやめて散歩することをお勧めします。考えが整理されます。 また、思考を整理するために最も効果的なのは、夜の睡眠によるリセットです。

気楽に散歩

日中は、仕事中で睡眠を取れないときは、散歩をお勧めします。できるだけ視覚や聴覚などから余計な情報が入ってこない道を選ぶと、なおいいでしょう。歩きながら雑念を払うと、脳がリセットされます。

頭の中には必要な情報だけが残るので、自ずと、集中したいことだけ考えることができます。脳は本来、忘れるようにできています。余分な情報を溜めないつくりになっているのです。だから感覚的な情報はほとんど忘れてしまいます。

反対に、海馬、扁桃体に繰り返し入ってくる情報に対しては脳が必要だと判断するため、確実に覚えていきます。仕事や勉強法をルーティン化するといいのは、このためです。

参考文献:『PRESIDENT 2022/12/16号』    

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