運動、脳を活性へ・・

 近年、脳科学の研究が急速に発展し、運動は集中力や記憶力を高め、勉強や仕事のパフォーマンスを上げるということが分かってきました。

太古の昔、狩猟生活をしていた原始人は獲物の草食動物を1日50~100㎞以上走り、体力切れになるまで、追いかけたそうです。しかも、どんなに遠くまで獲物を追いかけてもきちんと家族のもとに帰ることができたそうです。

  走ることによって脳が活性化し、帰り道やどの場所が危険かといったことを覚えておくことができたからです。つまり運動はメリットというより、生きることそのものだったそうです。

脳は網の目状のネットワークを広げて他の神経とシナプス(神経と神経のつなぎ目)によって繋がり、どんどん複雑化して頭がよくなっていきます。  その進化を促進するのがBDNF(脳由来神経栄養因子)です。

こうした物質が出ることが分かるようになったのは、ここ20年ほどの間に脳科学の研究が飛躍的に進んだからです。日々、運動をしていると脳は育ち、進化するということが、最新の脳科学研究で証明されるようになりました。

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活発に動くことで、脳は敏感に反応

「脳のアップグレード」実現可能な科学的根拠。 これは、60歳の被験者およそ100人の脳をMRI(磁気共鳴断層撮影装置)で調べた研究について書かれたものだ。MRIは、別世界に足を踏み入れるための扉を開けてくれた。

皮膚や心臓や肺と同じく、脳も老化する。では、どのように老化するのだろうか。老化を遅らせる手立てはないのだろうか。 研究者たちがこうした疑問を抱いたのは、ある動物実験がきっかけだった。

ゲージで飼育されているマウスのうち、回し車をこいだマウスは脳の老化が遅いことがわかった。

これらの疑問に答えを出すため、研究者は60歳の被験者たちをA、Bの2つのグループを作った。Aは週に数回の頻度でウォーキングを1年間続ける。Bは、同じ頻度で心拍数が増えない程度の軽い運動を続ける。

実験に先立ち、A、B共どちらもMRIによる脳の検査を行い、1年後にもう一度検査をした。

その画像によって、脳の領域が個別に活動することや、側頭葉が後頭葉、前頭葉と複雑に連携しながら活動していることが明らかになった。 だが何より大きな発見は、A,Bのグループがまったく異なる結果を示したことである。

 ウォーキングを1年間続けた被験者たちは健康になったばかりでなく、脳の働きも改善していた。MRIの画像は、脳葉の連携、とくに側頭葉と前頭葉、また側頭葉と後頭葉の連携が強化されたことを示していた。

ウォーキングで「認知機能」が向上した 

定期的なウォーキングが、実生活にもプラスの効果をおよぼす脳の変化をもたらした。1年間、加齢がまったく進んでおらず、それどころか生物学的にも強化されており、とりわけ前頭葉と側頭葉が強く連携していた。

心理テストの結果、「実行制御」と呼ばれる認知機能(自発的に行動する、計画を立てる、注意力を制御するといった重要な機能)が、ウォーキングのグループにおいて向上していたことがわかったのである。

 要するに、身体を活発に動かした人の脳は機能が向上し、加齢による悪影響が抑制され、むしろ脳が若返ると判明したのだ。

脳がスムーズに機能する条件

少し難しくなるが、脳科学的にいうと「同時に発火した神経細胞(ニューロン)同士が結合する]ことにより、新たな回路が生まれる。

私たちが様々な動作(自転車に乗ったり、本を読んだり、夕飯に何を食べようかと考えていたりするとき)に機能ネットワーク"と呼ばれる「プログラム」を脳が動かしている。

同じ動作を繰り返すほど滑らかになる理由

あなたがピアノで簡単な曲を弾くとしよう。そのためには、脳のたくさんの領域が協調して働かなくてはならない。 まず、あなたはピアノの鍵盤を見る。

すると、電気信号が目から視神経へと伝わって、後頭葉の一次視覚野と呼ばれる部分に運ばれる。それと同時に運動皮質が指令を出して、手と指を動かす。。

ピアノの音が鳴ると、今度は聴覚皮質が音の情報を処理して、側頭葉と頭頂葉にある連合野へと信号を伝える。そして、信号が最後に届くのは、意識と高次脳機能をつかさどる場所「前頭葉」だ。。

 つまり、簡単な曲を弾くだけでも、これだけのことが必要なのだ!  最初のうちは、弾いてもつかえてばかりで四苦八苦するだろう。プログラムの流れがぎこちなく、情報をすんなり処理できないため、脳の各領域は全力で目の前の作業に取り組まなくてはならない。。

練習したてのころ、鍵盤を弾くために苦労しながら極限まで意識を集中させる必要があるのは、そのためだ。

あなたの頭脳は「プラス」か「マイナス」か

数百人の被験者の脳を最先端の技術によって検査した結果、プラスの特質。たとえば「記憶力がすぐれている」「集中力がある」「教育水準が高い」[飲酒や喫煙に対する自制心が強い]などの特質を備えた被験者は、脳の各領域がしっかりと連携していた。

いっぽう、「かっとなりやすい」「過剰な喫煙」「アルコールや薬物への依存」など、マイナスの特質を持つ人々には正反対のパターンが見られた。脳内の連携がよくなかったのである。

大人の脳が持つ可塑性にして柔軟で変形する

「子どものころに楽器を習っていればよかった。今からじゃもう遅すぎる」 多くの人が一度や二度、こんな思いを抱いたことがあるのではないだろうか。 事実、子どもの脳は驚くほど柔軟でご言葉でも運動技能でも、あらゆるものをたちどころに身につける。

とはいえ、なぜ子どもの脳は短期間でこれほどまでに多くのことを、しかも一見大した努力もせずに習得できるのだろうか。

子どもは、この世界で生きる術をすばやく身につける必要がある。そのとき脳内で見られるのは、脳細胞か互いに結合するだけでなく、それを切り離す「刈り込み」という驚異的な能力が行なわれている。

そしてお気づきのとおり、のちの人生では決して戻らないような速さで、起きている。 変化という脳の特性は、脳科学の専門用語で[神経可塑性]という。これは脳のその特質が完全に失われてしまうことはない。

子どものころほどに柔軟ではないにしても、 大人になっても脳は柔軟で変化できる。大人になって、80歳になっても、最も重要な特質である。

あなたが考え、行うことで脳を作る

重要なことは、生まれ持った性質で脳の連携パターンや、軸のどちら側に属するかが決まるわけではない。

それを決めるのはあくまで生活習慣だ。私たちはみずからの選択によって、これまで考えられていたよりもはるかに基本的なレベルで脳の機能を変えることができるのだ。

脳が一方的に、何を考え、何を行うかを決めるのではない。私たちが考え、行うことで脳が変化し、その機能を変えるということだ。 脳の各領域の連携を強化するには、脳の仕組みを理解したうえで、定期的に運動することが何より重要なのだ。

参考文献:『運動脳』 アンデシュ・ハンセン 著 サンマーク出版    

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