問題発見力を・・・

 ビジネスに必要なスキルが確実に変わってきています。「言われたことを着実にこなす」から「自ら能動的に問題を発見し、解決する」人材が求められています。

顧客視点に立った課題解決型を思考し、他社への対抗商品ばかりでなく、競合がない新商品を提案していくことが肝要になってきています。重要なポイントは下流から上流へシフトしているということです。

仕事というのは、営業であれ企画であれ開発であれ、まずは「何をしなければいけないのか?」という曖昧な状態から始まって、コンセプトや方向性を決め、具体化する方策を明確にします。

そして、目に見える商品やサービスという形になっていくというプロセスを取ります。「何をやるかを決める」までが上流の仕事、問題の発見と定義で、何をやるかを決まった後で「どうやるか?」を追求して実行するのが下流の仕事になります。

日々の仕事における問題解決というのは上流の問題発見と下流の問題解決に分かれることになります。重要なことは問題解決は上流の問題発見にシフトしているのです。

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デジタル革命のインパクト

電車の中で周りを見渡せば、ほとんどの人が新聞ではなくスマホに目を向けています。また、買い物やさまざまな予約は店舗に行かずに「いつでもどこでも」スマホで決済できるようになりました。

以上のような変化は、日本が圧倒的な優位性を築いてきた『ものづくり』中心の考え方を根本的に変化させる必要性へとつながっています。

このように変化が大きく先の予測が難しい時代はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と言われています。

問題解決と問題発見は正反対

今後は問題解決から問題発見にその重要性がシフトしていくでしょう。しかし、ここでのポイントは、問題発見という、いわば「上流」側のプロセスと問題解決という「下流」側のプロセスではある意味で全く逆の思考回路が必要になります。

たとえば、問題をある「枠の中」で勝負するのか、(いろいろな意味で)枠を破ったり枠の外まで考えたうえで新たに「枠」を定義しなおすのか? そのために視点を発散させる方向を重視するのか。収束する方向を重視するのか、 アウトプットが「答え」なのか、「問い」なのか。抽象化を重視するのか? 具体化を重視するのか。

HOW(実現手段)が重要なのか、Why(そもそもなぜ?)が重要なのか。正解がある世界なのか、正解はない世界なのか。「知っていること」が起点になるのか、「知らないこと」が起点になるのか、といった違いです。

「獲物」を見つける力が必要な時代に真っ先に考えるべきこと

「与えられる」から「自ら探しに行く」。『いままで「問題を与えてくれた人」(顧客、上司、親会社等)から「何か考えて提案して下さ」と言われる場面が多くなっているとすればそれはなぜでしょうか?』考えてみましょう。

山における狩りでも、海における漁のようなものでもよい、何か獲物をたくさん取りたいときに大事なことは何でしょうか? 大きく2通りの状況が想定されます。

一つ目は、獲物が十分いる場合です。いかにうまく獲物を取るか?に集中します。獲物はたくさんいるわけですから、あとはそれをいかに効率的に最低限の労力でつかまえるかが成功のキーとなります。

もう一つの状況というのは、獲物が十分にいない場合です。まずは「獲物がいる場所を探す」ことが重要になります。獲物の現在地を特定するための情報も少なく、獲物の位置が流動的で、確実に獲物を捕まえることが難しくなってきたことがいまの時代の特徴です。

本当に解くべき問題は何か?「疑う力」で、真の問題を発見する

誰かに「自動運転の最新情報について調べて教えてくれないかなあ」と言われたとします。問題解決の得意な人は、すぐに最善のやり方で解きにいきます。これはまさに問題解決型の人の強みであるとともに、問題発見に対しての弱みになります。

一見「問題」が与えられたように見えますが、ここからさらに問題を発見するとすれば、どのようなことが考えられるかを考察してみてください。

そもそも「なぜ」その情報を調べるのか?

ここで思考回路が2つにわかれます。依頼された問題そのものは疑わずに、「ではどうやってやろうか?」と考えるのがおそらく多数派であり、ある意味自然な思考回路です。

試験問題というのは、基本的に「そもそも解くべき問題か?」に関して疑う必要がないために、とにかく問題が与えられたらそれを解きにいくという姿勢が求められています。

 これに対して、違う思考回路を起動する人もいます。「そもそもなぜ」その情報を調べる必要があるのだろうか? これは明らかに問題そのものへの疑問を呈して、改めて問題を定義しなおす、つまり「真の問題は何か?」を見つけにいこうとする問題発見型の思考回路なのです。

問題解決から問題発見へ

ある問題が与えられたときに、それを「How」を問うことで具体化し、絞り込んでいくのが問題解決であり、反対に「Why」を問うことで視野を広げて新たな問題を見つけに行くのが問題発見です。「なぜ?」という疑いで新たな問題が見つかる。

[ではどうやって調べよう?]と問題を解決しにいくのではなく、その前に歩立ち止まって問題そのものに疑いを向けてみるのです。

「なぜ?」という問いを発することによって、与えられた問題の「上位目的」(さらにその上の目的)を考えてみることなのです。たとえば「自動運転の最新情報を調べる」ことの目的は何でしょうか? 私たちは日常的になにげなくさまざまな情報を集めていますが、全ての情報収集には必ずその「上位目的」があります。

つまり私たちは集めた情報を、なにかに利用するために情報収集をしているのです。 たとえば、鉄道会社の人が今後の人の移動方法や乗降を考えるために、また物流会社の人であれば、無人配送によるコストダウンの可能性を考えるためかも知れません。

自動車業界の人であれば、そもそも従来型の自動車の需要が激減するリスクを考えて「長期的な投資をしなければいけない」とか、営業担当であれば、最新のトレンド情報で顧客に雑談のネタに『面白いやつだ』と思わせて面会の機会を増やしてもらうためなのかも知れません。

このようにあらゆる情報収集には必ず目的があるのですが、ここで重要なことは、そのような上位目的を考えることで、仕事の依頼主(顧客や上司)にとって「さらに重要な問題」を見つけることが可能になります。

このように、目先の問題をいきなり解決しようとするのではなく、「そもそもなぜ?」という疑問を既存の問題にぶつけてみることが本来の問題発見のきっかけになるのです。

参考文献:『問題発見力を鍛える』 細谷 功 著 講談社現代新書   

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