持続的な幸せ

 現在、ウェルビーイングという考え方が注目され、1980年代以来、心理学者を中心としてさまざまな研究が行われております。最近、研究論文の数も急激に増えています。

特にウェルビーイング&ハピネスという研究分野では、米英を筆頭に欧米がこの分野をリードしています。  例えば幸せな人は創造性が3倍高いこと、生産性も1.3倍高いこと、しかも寿命が7年から10年長く健康であることなど、多くのことかわかってきました。

社会的な理由は、時代の変化とともに地位財から非地位財へと価値観が移ってきたことにあります。 地位財とは、カネ、モノ、地位のように、他人と比べられる財です。

これに対して非地位財とは、幸せや健康など、他人と比べるものではなく自分のなかで昇華させる財です。つまり、モノの豊かさから心の豊かさへと時代の要請が変化してきたということです。

これらが社会に広まるにつれ、ウェルビーイングへの注目が集まってきたといえるでしょう。

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 現代社会が求めるウェルビーイング

地球に人間の好き勝手を許す余裕がなくなってきた現在、貧困や飢餓、食料や環境の問題は、それぞれが勝手にやっていたのでは解決できない段階まで来てしまっています。

だから世界中で地球規模の観点から、SDGs目標のゴールを目指そうという機運か高まっています。

先進国に住む多くの人を対象にした幸せと寿命の調査の結果、幸せを感じている人は、そうでない人に比べて7年から10年寿命が長い、ということがわかっています。

また、修道院の修道女180人に対する調査では、修道院に入所したときに幸せと感じていた修道女の寿命は、あまり幸せとは感じていなかった修道女に比べて、やはり7年長いという結果が出ています。幸せを感じていれば健康長寿になるということです。

一般に、スポーツや睡眠、食事面など、身体の健康に気を配っている人は多いですが、心のウェルビーイングである幸せに気をつけているという人はまだ少ないでしょう。

何より「幸せに気をつける」という言い方自体、これまで使われてきませんでした。 世界中でどんな形で生活に介入すれば幸福度を高められるか多くの研究が行われています。

まずは、幸せの4つの因子A(やってみよう)、B(ありがとう)、C(なんとかなる)、D(ありのままに)の解説です。

A(やってみよう)因子

夢や目標を持つことは幸せに通じます。たとえば、夢や目標について語り合うワークショップに参加して、ワクワクするときめき体験で幸福度を高める。効果が抜群です。

ワクワクしない、ときめかない仕事は幸福度につながりにくいので、仕事のなかにワクワク感やときめきを見出すことが大切です。 ピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』に出てくる有名な石切り職人の挿話があります。不幸せな石切り職人は、言います。

「特に自分か欲している仕事ではないんだが、手に職もないし、他に能力もないから、石を切るという単純重労働しかできないんだよ。つまらない仕事だと思いながら石を切っているんだ」と。

気持ちが後ろ向きで、視野も狭く、仕事をやらされている感覚が強い人です。すなわち「やらされ感」「やりたくない」[やる気がない]で働いている人です。

もう一人の石切り職人は、石を上手に切って並べ、ここに教会を建てるという目的にプライドを持っています。「教会の土台を築くことは、孫、子の代まで続く幸せの礎を造る大事な仕事だ」と、やりがいを感じています。

将来を見据える視野の広さを持ち、ワクワクしながら働いている人です。 同じ仕事でも、単純作業でつまらないと思うか、人々のためになる仕事だからとやりがいを感じるか。これは、視野の広さの問題です。

B(ありがとう)因子

つながりと感謝です。対話することが幸福度を高めます。上司と部下か一対一で、仕事の話ではなく軽い相談事や身の上話をするミーテイングは効果的です。もともとワンオンワン・ミーティングはコーチングから生まれた手法で、コーチングはカウンセリングから生まれたものです。

カウンセリングもコーチングもワンオンワン・ミーティングも、とにかく人の話を聞くことが要諦です。傾聴して批判せずにじっくりと会話を行う。相手に自己開示した状態で話をしてもらうことが大切です。

相手の話を聞かずに途中で話をさえぎると、相手は満足感を得られませんから、幸せではなくなります。相手の話に批判せずに聴講することが重要です。

気遣いや思いやりを持って他者と交わり、ボランティア活動をおこない、何事に対しても深く感謝する。利他的な行為を行うよう心がけることも、幸福度を高めるための有効な方法です。

C(なんとかなる)因子

幸せであるように振る舞うことです。無理やりでも口角を上げて笑顔をつくり、上を向いて大股で歩き、胸を張ると幸福度が高まるという研究もあります。

実際に、形から入るだけで幸福度が上がる、という研究結果も多く報告されています。 言葉も重要です。「どうせ私なんか」「私にはできません」「でも、だって」など、ネガティブな言葉か先に出る人かいますが、ネガティブに考える人は幸福度が低い傾向があります。

自分の欠点を気にするよりも、よいところを拡大する。他者の悪口を言うよりも、よいところを評価する。自分に対しても他者に対してもポジティブな見方をすることこそ、幸せに通じる道なのです。

D(ありのままに)因子

独立性と自分らしさを保つこと。自分が他者からどのように見られているかを気にしすぎては、萎縮してしまいます。自分を他者と比較しても仕方かありません。自分は自分、他者は他者です。

友人や知人の相談に乗り、人の悩みや愚痴を聞き、困っている人を助ける、そして、自分らしい強みを見つけ、それを高めていく努力をすることです。自分らしく「ありのままに」「やってみること」をお勧めします。

予定通りに仕事や課題を終えるよう努力する。忙しいときでも予定通りに課題をこなす。勉強する時間を自分でつくった自己決定行動自分らしさ、自分の意見を大切する。

他の人に意見や気持ちを伝えた、周囲と意見が違っても自分の意志に従い、自分から苦手な人に歩み寄る。親切な行動を大切に。苦しい状況の友人を気にかける課題遂行行動、挑戦行動、走る、笑顔、大笑い、また感謝の日記などは短時間で幸せになります。

揺るぎない自分軸を持ち、自己を確立し、自分らしさを自覚することが幸せにつながります。 自己を確立するためには、創造性を発揮するような何かに挑戦するのもよいでしょう。

健康と一緒です。健康を維持するのに、ジョギング、筋トレ、水泳、ヨガ等々自分が楽しめるもの、自分自身に合っている趣味を選ぶことか幸せの一歩です。

企業力向上へ

社員の健康と仕事、職場環境を整えることが、社員のモチベーションアップ、ひいては企業力向上につながります。

企業力がアップすれば、顧客にも還元できるといった好循環を生みだせ、会社を取り巻くすべての人が幸せになる仕組みが作れるでしょう。ぜひ前向きにウェルビーイング導入を検討してみてはいかがでしょうか。

参考文献:『ウェルビーイング』 前野隆司・前野マドカ 著 日本経済新聞出版    

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