どうすればやる気が・・・

  「やる気」とは、前向きに行動する時のエネルギー源のようなものです。似た言葉に「モチベーション」があります。こちらは行動しようとする動機や理由になります。「モチベーション」が高いので「やる気」が出る。逆に「モチベーション」が低いと「やる気」が出ないといえるかもしれません。

好きなことや、自らがやりたい仕事をする時は、モチベーションが高い状態になり、壁にぶつかっても、喜びや楽しみといったポジティブな感情の方が自然に湧き、意欲的に対処します。

行動面から観察すると、普通は「楽しい」から「笑う」という行動が出ると思われていますが、本来的には「笑顔をつくる」ことで「楽しくなる」のです。 まず行動があって、その後感情が芽生えるのです。

同じ原理で、ガッツポーズという「行動」を取ってみてください。達成感という「気分」が生じます。私たちの感情や気分の起点になるのは、脳ではなく身体から無意識に生じています。

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「やる気」

私たちが仕事や勉強,スポーツなど取り組むときには,「やる気」が必要だ。やる気がなければ行動をはじめることはできないし、努力をつづけるのも不可能である。

たとえば,お子様の学習や部下に仕事を指示したりする場合は,本人にやる気を出してもらう必要がある。それがうまくいけば,ものごとは順調に進みやすい。

モチベーションには,大きく分けて「内発的動機づけ」と『外発的動機づけ』があるとされている。内発的動機づけは,ある行動が楽しい,面白いといった理由で自発的に取り組み,行動そのものが目的になっている。

一方,外発的動機づけとは,何らかの報酬を得るために,または罰をさけるために行動する。お金のために仕事をする,落第したくないから勉強する。 その行動は別の目的のための手段になってしまっている。

報酬が逆効果となる場合もある

内発的動機づけと報酬(外発的動機づけの一種)を組み合わせると,どうなるのだろうか。もともとやる気を持っている人間に対して,さらに報酬をあたえるというやり方だ。

素朴に考えると,さらにモチベーションが高まるように思える。意外にも、その答えを示す研究がある。アメリカの心理学者,エドワード・デシは1971年,次のような実験の結果を論文にまとめた。

24人の参加者をグループAとグループBに分けて,立体パズルを組み立てる課題に取り組んでもらった。パズルに取り組むために30分の時間をあたえ,8分間の自由時間をはさんで、再びパズルの組み立ての課題ために30分をあたえた。

このとき,自由時間にはパズルをやってもやらなくてもよいとした。その部屋には雑誌などもあり,暇をもてあますことはないよう設定した。 これを3日間にわたってくりかえし,1日目はただパズルに取り組むよう両グループに指示した。

2日目はグループAだけパズル1つごとに1ドルの報酬をあたえると告げた。3日目はふたたび両グループにただパズルをやるよう指示した。

心理学者デシは,参加者たちが自由時間にどのくらいパズルをやるかによってモチベーションの大きさがわかると考え,その時間を計測した。その結果,グループAでは,パズルに取り組んだ自由時間は1日目より2日目の方が長くなった。しかし3日目に報酬がなくなったことを伝えると。自由時間にパズルをやる時間は,報酬を提示する前の1日目よりも少なくなってしまった。

その結果は当時の常識をくつがえすもので,大きなセンセーションを巻きおこした。いったん報酬をあたえられた参加者たちは,そのあとで報酬がもらえなくなると,当初よりモチベーションが下がってしまったのだ。

もともと参加者たちは多少なりともパズルへの内発的動機づけがあり,そのモチベーションによって取り組んでいたはずだ。

そこで報酬をあたえられると「報酬のためにやっている(やりたいからやると自分で決めたのではなく,やらされている)」という感覚が引きおこされ,外発的動機づけへとかわったのではないかと考えられている。

このように,報酬をあたえることがかえってモチベーションを低下させてしまう現象を「アンダーマイニング効果」とよばれる。

具体的な目標がやる気を高める

人間は「自分のことは自分で決めたい」という欲求をもっている。自分にとって意義のある目標をみずから設定することは内発的動機づけにつながるといえる。

アメリカで活躍した心理学者のアルバート・バンデューラ(1925~2021)らは1981年,目標の立て方によって課題の達成度にちがいが出ることを示す論文を発表した。

算数が苦手な7~10歳の子供たち約40人を3グループに分け,7日間で42ページの問題集をやりとげる課題をあたえた。最初の①グループには「1日最低6ページずつやりましょう」という目標を示し,次の②グループには「7日で42ページをやりとげましょう」と伝えた。

最後の➂グループには「できるだけたくさんやりましょう」とだけ伝えた。7日後,各グループのメンバーがどれぐらい課題を達成できたかを調べた。最初の①グループのうち74%の子供が課題を達成したのに対して,②グループは55%,➂グループは53%の子供しか達成できなかった。

この結果は,「近接目標」とよばれる小さく具体的な目標を示すことで,モチベーションが向上して最終的に課題を達成できる割合がふえたことを示している。大きく遠い目標は「遠隔目標」とよぱれ,最終的なゴールを示すために大切だが,それだけではモチベーションを引きだすのに十分ではないといえそうだ。

小さく具体的な近接目標に対しては「それをできる」という自信をもちやすい。そのような気持ちは「自己効力」とよぱれ,モチベーションが生じるために必要不可欠といわれている。

「近接目標」はいつ何をやればよいのかが明確で,ひとつひとつの課題をクリアしていくことで達成感が生まれ,モチベーションが持続しやすいと考えられている。

最も重要とされる1点目は「達成体験」,みずからの成功体験だ。2点目は「代理体験」です。他者の成功体験を観察することから、自分と似た立場の人間の体験ほど効果が大きいといわれる。3点目は「言語的説得」,他者からのはげましのほか自己暗示も含まれる。

「習慣」も立派なモチベーション

たとえば,起床してから出かけるまでの身支度は,とくにやる気をもって取り組まなくても,習慣として行われる。報酬や罰は存在せず,目標を意識することもない。ただ,何らかの行動が生じている以上,そこにモチベーションがあるといえる。

複雑な課題に向き合う上で,重要なことは

20世紀までは単純な課題が多かったため、報酬がよい結果をもたらした。21世紀には対処する課題が複雑になり、創造性が必要で,報酬は効果的でないとわかってきた。

しかし,実際は現在も多くの企業などが報酬による動機づけを行っている。今後は「好きだからやる」「もっと成長したい」「世界をよくしたい」といった内発的動機づけがより重要になるだろう。

参考文献:『Newton 2022/04号』    

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