感動を届けるには

 感動は、個人の人生においても、ビジネスでの差別化要因としても、モチベーションという観点に、欠かせないものです。  人生における感動は、結婚、入学、卒業といった人生の大きな節目においてだけではありません。

たとえば、スポーツ観戦、映画や演劇鑑賞、動物や自然との触れ合い、美しい光景を見ること、人からの親切など、日々起こるさまざまな出来事を通して得られます。すべての人が、感動に満ち溢れた人生を送れるようになればと期待したいものです。

 ところが、残念ながら、さまざまな課題を抱える現代において、「感動は受動的なドラマや映画、コンサートなど、自分の生活そのものに感動はない」という方が少なくありません。能動的に他者や自分も感動するための努力が重要です。

感動をたくさん経験して充実した豊かな人生にしたいものです。  広辞苑によると「感動」とは「深く物に感じて心を動かすこと」とあります。要するに、嬉しく楽しく爽やかな気持ちになることでしょう。

感動はあなたの周りにたくさん潜んでいます。 ジャン‥フランソワーミレー(1814~1875、フランス)曰く 「他人を感動させようとするなら、まず自分が感動すべきです。そうでなければ、いかに巧みな作品も決して生命ではない。」

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「美しい経営」を実践する

株式会社都田建設は静岡県浜松市北区都田町に本社を置いています。 「DLoFre's(ドロフィーズ)Dream(夢)、Love(愛)  Freedom(自由)、's(仲間)」という愛称を持ち、地元浜松の人たちから愛される地域密着型の工務店です。

都田町はJR浜松駅から車でおよそ30分に位置し、ぶどうや梨、みかんなどのフルーツ栽培が盛んな農業地区です。カフェ、輸入家具や食器、テキスタイルのお店などが立ち並ぶおしゃれな一画です。きれいに整備された公道や空き地には季節ごとに美しい草花が生い茂り、どこを切り取っても絵になります。

蓬台さんがこの都田建設に入社したのは1998年、当時はまだ「有限会社都田建設」という社名でした。初代社長(現会長)である内山覚さんの自宅の脇に作られた四畳半一間のオフィスです。社長とパートの女性一人が働く小さな建設会社でした。

蓬台さんは大学卒業後、大手ハウスメーカーに入社して数年経ち、そのビジネスライクな仕事との関わり方に疑問を持ちはじめていました。と同時に、もっと現場を知りたいという気持ちが強まり、転職活動を開始しました。そして浜松のハローワークで偶然見つけた小さな会社「有限会社都田建設」に、心惹かれたそうです。

面接を受けるべく小さなオフィスへ赴くと、当時の社長であった内山会長の夢や目標が壁一面に貼られていました。それを見てすぐに「ここで働こう」と決意されたそうです。

とはいえ、地方の小さな会社、すぐに仕事があるわけではありません。現場監督として入社するも、まずは飛び込み営業からのスタートでした。

入社後、受注できない日々が続きました。小さな町では、そんなに簡単に仕事など取れません。些細なことでも、何か仕事になるものはないかと営業を続けました。あるときは怒鳴られ、またあるときは塩を撒かれたこともありました。

来る日も来る日も街中を歩き続け、3ヵ月目にして、ようやく初受注がとれました。家の修繕という数10万円程度の小さな仕事でしたが、そのときはあまりにも嬉しくて会社に飛んで帰り、社長に報告しました。すると、社長とパートの女性は、初受注を自分のことのように喜んでくれました。

信頼して3ヵ月も給料を払い続け、小さな契約を手放しで喜んでくれたことや、励ましてくれた会長への感謝は、今も決して忘れないそうです。

このときの経験から、蓬台さんは、仕事における基本姿勢を学びました。
・自分のことを認めてもらえる喜び
・喜びを、共に分かち合える仲間の存在
・自分を支えてくれる周囲への感謝 etc

たった一つの合言葉が社風を創る

「想いをひとつに」というフレーズは、写真を撮る際の合言葉です。「想いをひとつに」 都田建設では、幾度となくこのフレーズを口にします。

社員のみならず、お客さんや会社を訪れる人たちも共に唱えます。合言葉を口にし続け、習慣化することで、社員にとっては口癖となり、お客さんたちからも「"想いをひとつに"の会社の人」と認識されるよう努めました。

社員一人ひとりの習慣となれば、会社全体の雰囲気は、自然と、言葉の通りとなります。ひいては、各々の仕事に対する想いが変わってきます。

蓬台さんが大切にしている「社風力」とは、このような小さな積み重ねから、徐々に涌き上ってくるものなのです。 リーダーとして最も大事なことは、社会に対してこれをやる! という想いを強くすることで、"想い"が、夢を志に変えていきます。 

実際に、2007年に描いた夢が、6年後の2013年に実現に向けて動き出し、10年後の2017年には、夢が確実にカタチになりました。それまでの間は当然、うまくいかないこともありました。けれどもその期間にこそ、しっかりとビジョンを持ち、何のためにそれをするのか明確にしました。

そして懸命に努力し、あらゆる物ごとに真摯に向き合いました。すると、一人では成し遂げられないことでも実現するものだと、身をもって体験されました。

感動を分かち合うことで「感動体質」へ

「感動工房」と呼ばれる朝礼があります。毎朝、社員が順番に「感動体験」をシェアします。「感動する物語の共有により、社員の想いをひとつにしたい」という蓬台さんの決意から始まったものです。

毎朝、多種多様な「感動の物語」を聞き、社員のみなさんは必然的に感動への感度が高まります。「感動体質」へと、必然的に変化していきました。

蓬台さんは曰く

「あるとき、成長よりも大事にしなければならないものがあると気づきました。第一に、社員の笑顔とやる気です。それらが湧き上るような風土を作りたいと思い、さまざまな取り組みをしてきました。

次に、お客さまが気持ちよく商品を購入されるように、付加価値の質をあげることです。より一層心からのおもてなしを大切にし、お客さまと共に、涙の感動のある家づくりを実現することです。」

以来、この素晴らしい場所に、人々が世界中から訪れ、"美とおもてなし"の街を作り、地域に溶け込むような会社づくりという想いがどんどん強くなられました。

都田建設が一貫して提案し続けている暮らし方や生き方をまとめると以下のようになります。

① ものを長く大切に使う。
②あきのこないシンプルなデザイン。
③環境や自然と共存する。
④顔の見える関係を大事に。
⑤地域とのつながりを育む。

多様性との関わり方、自然との調和、いにしえの日本が有していた美しく素晴らしい文化、資産を大切にしようとする姿勢が、この5つのフレーズに反映されています。

参考文献:『感動のメカニズム』 前野 隆志 著 講談社現代新書   

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