共感力を・・・

他者に対する「共感の心」を身につけるにはどのようにすればできるのでしょうか。この「共感の心」や「共感力」と呼ばれるものは、書物を読んだだけでは、決して身につかなようです。

いかなる宗教書であれ、心理学書であれ、どれほど書物を通じて「共感の大切さ」を学んでも、それは、ただ「頭」で理解しただけであり、身についたものとはならようです。

「人生において、自身が、様々な苦労を重ねること」そのことを抜きにして、「共感力」を身につけることが大切な要因となります。

例えば、家庭の貧しさの中で自尊心を持てず苦しんでいる人間の気持ちは、同様の経験、「貧しさという苦労」の経験を積んだ人間にしか分からないかもしれません。なぜなら、我々は、世の中の人々の苦労のすべてを経験することはできません。

でも、もし我々に、相手の苦労を分かってあげたいという思いと、その優しさに支えられた想像力があれば、何かが変わるはずです。 「逆境は自分の可能性を引き出してくれる素晴らし成長の機会である」と、含蓄のある言葉が浮かびます。

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相手の共感を引き出す

とは、「相手に深く共感する力」のことである。 例えば、営業担当者であれば、顧客が「この問題を何とかして欲しい」と依頼してきたならば、「ああ、この問題で悩まれているのだな。さぞや、困られているのだろう。何とかして差し上げたい」と思うだろう。

また、ホテルのスタッフであれば、夜遅く長距離ドライブで到着されたお客様に対して、「さぞや、お疲れのことだろう。手早くチェックインを終えて、早くお部屋で休んで頂きたい」と、思うだろう。これらが「共感力」であろう。

従って、真に「共感力」を身につけたいのであれば、「相手の共感を引き出す」のではなく、「相手に深く共感する」という意味における「共感力」をこそ、身につける必要がある。

我々は、この「共感力」を身につけていくとき、「同情」でもなく、「憐憫」でもない、文字通り「相手の姿が、自分の姿のように思える」という意味での「心の力」を身につけていく必要がある。

この意味における「共感力」を身につけることができたならば、それは、最高の「コミュニケーションカ」になり、最高の「対人的能力」になっていく。

「苦労」の経験が重要である

「苦労」の経験が重要である。 一つ明確なことは、この「共感力」とは、何冊本を読んでも、決して身につかないものであり、仕事や人生の経験や体験を通じてしか掴めない「体験的智恵」だということである。

自分自身に、それなりの「苦労」の経験が無ければ、何かに苦労している人に対して、本当には「共感」できないからである。

例えば、仕事人生において、たまたま幸運に恵まれ順調に歩んできたリーダーには、仕事での不運なトラブルで苦しんでいるメンバーの心境は分からないだろう。その気持ちに本当には共感できないだろう。

自身の苦労の経験や体験をもとに、苦労をしている相手の気持ちを推察、想像ができるということが、「共感力」を身につけていくために、極めて大切なことである。

その人の姿が、自分の姿のように思え、深く共感できるからだ。 そして、人間同士の深いコミュニケーションは、その深い共感から生まれてくる。

「人生における苦労」というものを、どう見ているか

「人生における苦労は少ないほど良い」「いかに苦労の少ない人生を歩むか」と思っているならば、組織やチームにおいてマネジャーやリーダーになったとき、部下やメンバーを励ましながら歩んでいくことは難しい。

それが仕事であるかぎり、目標への挑戦は当然のことであり、必ず、様々な苦労や困難に直面する。

そのとき、部下やメンバーに、いくら言葉で「頑張ろう」と言っても、自身が、「苦労」というものを否定的に見ているかぎり、言葉に出さずとも、その思いは、部下やメンバーに、そのまま伝わってしまう。

そして、部下やメンバーもまた、心の中で、「なぜ、こんな苦労をしなければならないんだ……」と否定的な受け止め方をしてしまう。

苦労の中でこそ、成長していける

たしかに、誰といえども、人生や仕事における苦労や困難を喜んで経験したいとは思わない。しかし、永い歳月を歩んで、人生を振り返ると「あの苦労や困難が、自分を成長させてくれた」 その真実に気がつく。

「人生における苦労は少ないほど良い」「いかに苦労の少ない人生を歩むか」という安直な人生観を持つべきではない。

つまり、人生や仕事において与えられる苦労や困難は、自分という人間を成長させるために与えられたものであり、その苦労や困難には、すべて、深い意味があるという人生観をもつべきだ。

真のリーダーが抱くべき「究極の逆境観」とは何か

最善を尽くしても、それでもなお続く苦労は、我々の成長のために与えられたものだ。 この苦労を乗り越えることを通じて、成長できる。

そして、その成長を通じて、素晴らしい仕事を成し遂げることができる。 マネジャーやリーダーとして、深い信念を持ち、そう語れるならば、預かる組織やチームは、想像を超えた、素晴らしい力を発揮していくだろう。

すなわち、経営者やマネジャー、リーダーに求められるのは、究極、その「逆境観」である。 人生や仕事における、苦労や困難、失敗や敗北、挫折や喪失といった「逆境」を、どう受け止めるか。どう解釈するか。その「逆境観」の根本にあるべきは、一つの覚悟である。

「人生において与えられる、すべての逆境には、深い意味がある」 その覚悟である。

いつか、共に歩むメンバーから、「あのリーダーと話していると、辛いとき、苦しいとき、励まされる」「あのリーダーと一緒に仕事をしていると、人間として、成長できる」と言われる状況になろう。

それは、素晴らしい「対人的能力」を身につけ、晴らしい「組織的能力」を身につけた証明でもある。

参考文献:『能力を磨く』 田坂 広志 著 日本実業出版社  

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