本質を見抜く

 「洞察力がある人は仕事ができる」などと言われます。「えないものを見るためには、まずは見えているものを正しく観察する必要があります。 

そして、観察したことで得た情報を自身の知識と合わせ、論理的思考力をもとに洞察することで、本質にたどり着くことができます。

洞察力を持って相手が言わんとすることを推察して実行し、「こんな感じでどうですか?」「こういうものを求めておられるのでは?」と提出すれば「デキるな」と評価されることでしょう。

洞察力があれば、例えばクライアントの「本音」を察知することで、取引拡大につなげることができるでしょう。上司や先輩、同僚の気持ちを汲み取ることで、仕事が円滑に進められたり、重要な仕事に抜擢されやすくもなります。

多角的な視点で社会情勢や業界動向を捉えられるようになると、自社や競合他社、クライアントの先行きを見通し的確な打ち手を講じることもできるでしょう。

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洞察力は、得意分野でなければ発揮されない

マリア・スクロドフスカは常に物事の核心に迫ろうとするタイプだった。世間ではマリア・スクロドフスカという名前よりも、ピエール・キュリーと1895年に結婚してからの婚姻名のほうがよく知られている。

子ども時代をポーランドで過ごした彼女は、学校と勉強が大好きだった。彼女はソルボンヌで学ぶためにパリに移った。そして2年後には首席で物理学のクラスを終了し、さらに1年間勉強して数学の修士号を取得した。

マリアは心の底から願っていたのは、ウラニウム光線の謎を解明することだった。 もっと設備のよい研究所を探していたとき、将来の夫であり研究パートナーとなるピエールに出会った。彼女自身、「マリー・キュリー夫人」という名前を好んで使った。

その後、夫人は放射能の分野で画期的な仕事をし、核物理学と近代放射線医学の研究の扉を開いた。 彼女は以下のように 「生きることは誰にとっても容易ではありません。けれども、それがどうしたというのでしょう。

人はみな、強い忍耐力と自信を持たなければなりません。私たちは、自分自身には何らかの才能があり、それを発揮することは自分が負っている義務であると信じなければなりません。」と述べている。

夫人の粘り強さは、旺盛な知識欲だけでなく、研究成果の実用化にも表れた。第一次世界大戦中、戦場の実態を知った彼女は、自分の発見した技術が人命救助にも役立つ可能性があると気づいた。

彼女は娘のイレーヌ(後にノーベル化学賞を受賞)とともにX線撮影法を開発し、救急車にX線撮髪置を搭載する運動を推進した。夫人はその研究成果によって偉人と認められるようになった。 そして、パリ大学にラジウム研究所を設立するのにも貢献した。

夫人は「人生においては何事も恐れるべきではありません。何事もひたすら理解するよう努めるべきなのです」と述懐している。彼女の知性と洞察は、多くのことを理解し、世の中の利益になるような発見を生み出した。しかし残念ながら、彼女の鋭い洞察は自身の健康面にまでは及ばなかった。

放射性物質の研究の最先端にいた彼女は、大量の放射線から自分自身を守れなかったのだ。仕事は彼女の体を徐々にむしばんでいった。そして、突如として体調を崩し、1934年に白血病でこの世を去った。66歳だった。

洞察力とは「欠けている部分」を見る能力

洞察力とは、物事の本質を見極める能力のことであり、合理的思考と同時に直感に基づいている。有能なリーダー洞察力を必要とするが、いつもそれを発揮するとはかぎらない。

洞察力は、最大限に成果をあげたいと望む指導者にとって不可欠な資質である。

1. 問題の根源を見つける 大きな組織のリーダーは毎日、混沌とした複雑な状況に対処しなければならない。その全体像を完全に把握するために十分な情報を集めることなど決してできない。

したがって、洞察力に頼らざるをえなくなる。洞察力は、リーダーが全体像の一部を見て、欠けている部分を直感によって補い、問題の根源を見つけることを可能にする。

2.問題解決力を高める 問題の根源を見つけることができたなら、解決することもできる。得意分野に近ければ近いほど、根本的な原因を見抜く直感力と能力を発揮することができる。自分の中に秘められた洞察力を発揮したければ、得意分野で努力することだ。

3.最大限のインパクトを発揮するための方策を見つける 洞察力は直感力だけに基づくものではないが、知性だけに基づくものでもない。直感と知性の両方を駆使すれば、洞察力によってあなたの部下と組織にとって最善の方策を見つけることができる。

4.機会を増やす 洞察力に欠ける人びとは、ふさわしいときにふさわしい場所に身を置くことに恵まれてなかったかもしれない。 まわりの人びとからすると、偉大なリーダーは運がいいと見えるかもしれない。

しかし、リーダーは経験と直感に基づく洞察力を駆使して自分の運を創造しているのだ。

洞察力を磨けば、「運」は自分で生み出せる

複雑な問題に直面したとき、問題の核心をすぐに把握し、あらゆる情報を入手しなくても、難問の根本要因を解析しなければならない。 自分の知性と経験を信頼するのと同じように、自分の直感力を信頼できるようにしていく必要がある。

直感力を身につけるためには、伝統的ではない考え方を尊重しよう。変化、あいまいさ、不確実さを受け入れよう。経験に基づいて自分の地平線を広げよう。直感力は常に駆使していないと伸ばせない。

洞察力は、合理的思考と直感のバランス

合理的思考と直感をバランスよく伸し、発揮させるためにはどうすればいいのか。 1.過去の成功を分析する

過去にうまく解決できた問題を思い起こそう。その問題の根源は何だったのか。成功できたのはなぜか。その問題の核心をほんの数語で言い表せれば、将来起こりうる問題にもおそらく同様の仕方で対処できるだろう。

2.他の偉大なリーダーの考え方から学ぶ 職業と才能が自分に近いリーダーを何人か選び、その伝記を読もう。洞察力のある他のリーダーたちがどう考えるかを学ぶことによって、洞察力はよりいっそう深まるだろう。

3.自分の直感に耳を傾ける 直感が話しかけてきて、それが正しかったときのことを思い起こそう。そのとき、それに耳を傾けたかもしれないし、傾けなかったかもしれないが、そうした経験に共通するものは何だったか。それについてよく考えてみることが問われている。

参考文献:『人の上に立つために本当に大切なこと』 ジョウ・C・マクスウェル 著 ダイヤモンド社 

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