内面から・・・

能力やスキル、知識があっても成果がなかなか上がらない人がいる一方、逆に能力はそれほどではなくても、やる気と努力で好成績を上げる人もいます。このように仕事の業績は、能力だけでなく、モチベーション働く意欲に大きく左右されます。

したがってモチベーションを上げることは、いまも昔も企業経営にとって大きな課題の一つであります。 私たちは、他人からあれこれ指図されたり束縛を受けたりすることを嫌うものです。

自分の行動は自分の意思で決めることができる、意思決定の自由は自分にあると実感できるときに、行動へのモチベーションは強まります。

例えば、自分で立てた目標を苦労しながら達成したときの喜び、他人に指示されることなく好きなことに没頭しているときの充実感などは、それ自体が報酬として行動へのモチベーションを強めます。

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内発的動機とフィットする「場」に身を置く

検索エンジンやEコマース、動画共有サイトなど、今現在ネット上で多くの人々が利用しているサービスのほとんどが30年前には存在しなかった新興企業によって提供されています。

この状況を多くの人が当たり前だと思って受け入れていますが、考えてみれば不思議なことではないでしょうか? なぜ、当時の大企業は莫大な富を生み出すことになるこういったビジネスの主要プレイヤーになれなかったのでしょうか?

当時の大企業は検索エンジンや電子商取引の事業にも挑戦し、そして敗れていったのです。 たとえば、IBMは1996年に鳴り物入りでWorld Avenueなる電子商店街サービスを開始しましたが、莫大な損失を出して1997年に撤退しています。

1990年代の後半、なかなか黒字化しなかったアマゾンの将来に対して、多くの評論家が極めて悲観的だったのは、このIBMの失敗事例に基づいてのものでした。それはつまり「あのIBMですら失敗しているのに、資金も人材もテクノロジーも劣っている彼らがうまくいくわけがないよ」ということです。

エリートがアントレプレナーに敗れる理由

イノベーションの歴史を振り返ると、この「好奇心に突き動かされた起業家」VS「命令を受けたエリート」という戦いの構図がたびたび現れます。そして、多くの場合、本来であればより人的資源、物的資源、経済的資源に恵まれていたはずの後者が敗れています。

もちろんさまざまな要因が作用していますが、モチベーションの違いが大きな要因です。 モチベーションの問題を考えるにあたって、非常に象徴的な示唆を与えてくれるのが南極点到達レースを競いましたアムンセンとスコットです。

20世紀の初頭において、どの国が極点に一番乗りするかは領土拡張を志向する多くの帝国主義国家にとって非常な関心事でした。ノルウェイの探検家、ロアール・アムンセンは、幼少時より極点への一番乗りを夢見ていました。人生のすべての活動をその夢の実現のために、下記のプログラムをしていました。

・過去の探検の事例分析を行い、船長と探検隊長の不和が最大の失敗要因であると把握。同一人物が船長と隊長を兼ねれば失敗の最大要因を回避できると考え、探検家になる前にわざわざ船長の資格をとりました。

・子供の頃、極点での寒さに耐えられる体に鍛えようと、寒い冬に部屋の窓を全開にして薄着で寝ていました。 ・犬ゾリ、スキー、キャンプなどの「極地で付帯的に必要になる技術や知識」についても、子供のときから積極的に「実地」での経験をつみ、学習してきました。

アムンセン隊は、犬ゾリを使って1日に50キロを進むような猛スピードであっという間に極点に到達し、スムーズに帰還しています。 一方、イギリスのロバート・スコットは、軍人エリートの家系でイギリス海軍の少佐であり、自分もまた軍隊で出世することを夢見ていました。

アムンセンが抱いていたような極点に対する憧れはありませんでした。帝国主義にとって最後に残された大陸である南極への尖兵として、軍から命令を受けて南極へ赴いたに過ぎなかったのです。

したがって、極地での過去の探検隊の経験や、求められる訓練、知識についてもまったくの素人といっていいものでした。主力移動手段として期待して用意した動力ソリ、馬がまったく役に立たず、最終的には犬を乗せた重さ240キロのソリを人が引いて歩く、という意味不明な状況に陥り、ついに食料も燃料も尽きて全滅してしまいました。

このレースの結果は、圧倒的大差でアムンセンの勝利に終わります。 スコットの敗因についてはさまざまな分析が行われていました。「探検そのものの準備と実行の巧拙」ではなく、もっと根源的な「人選の問題」という論点です。

着目したいのが、この2人を駆り立てていた「モチベーション」です。 同じ「南極点到達」という目標に向かって活動しながら、彼ら2人は大きく異なるモチベーションに駆動されていました。 アムンセンは南極点に最初に到達し、探検家として名を成したい、というただそれだけのものだったでしょう。

極めて内発的なモチベーションによって突き動かさていた。 対して、スコットのモチベーションは、おそらく海軍から与えられたミッションを完遂し、高い評価を得て出世するという点にあったでしょう。 おそらく、「上司から与えられた命令を完遂して評価されたい」という承認欲求に突き動かされていました。

なぜ好奇心が課題意識に勝つのか

インターネット黎明期から続いてきた一連のアマチュアのアントレプレナーVS「大企業の専門家」という戦いの構図、あるいはアムンセンとスコットによる南極点到達レースの物語を虚心坦懐に読み解きました。

そこからわかるのは「内発的モチベーションを持った人が、上司の命令で動く人と戦えば、前者が勝つ公算が強い」ということです。

つまり、ここに同じ潜在能力を持った2人がいたとして、内発的動機で駆動されているニュータイプと、上司からの命令で駆動しているオールドタイプとを比較すれば、前者が後者よりも高いパフォーマンスを発揮する公算が強い、ということです。

人の能力を変えさせる「意味の重要性」について考察しますと、内発的モチベーションを持っているニュータイプというのは、自分で仕事の「意味」を形成することができる人材だということになります。

モチベーションが最大の競争要因なのだとすれば、個人にせよ組織にせよ、パフォーマンスを高めるためにはモチベーションのマネジメントが必要になります。

どのような仕事やタスクで内発的モチベーションが湧くのかを把握し、そのような場に自分をポジショニングし続けることが非常に重要な要素であります。

参考文献:『ニュータイプの時代』 山口 周 著 ダイヤモンド社

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