■いいキャリアをつくる
ビジネスモデルの陳腐化スピードも高まり、従来どおりではない新しい発想で常に取り組まなければ成果は継続できない現状です。 仕事は細分化され、それぞれの分野で、高度な専門知識が当たり前のように求められるようになっています。
どうすればもっと仕事ができるようになるのだろう。実力が発揮できないのは、仕事や会社が合っていないからなのか。いまの仕事の先に将来の自分の姿がみえない。ひと昔前なら、上司や先輩社員の背中をみていれば、それらの問いの答えは自然と見つりました。
いまはその上司や先輩も、答えを探して必死でもがいています。だが、そんな時代においても、いきいきと働きながら確実に成果をあげ、自己評価と他者評価をともに手に入れているという人も、少ないながらたしかにおられます。もしかしたら答えは、彼らの働く姿勢や考え方にあるのかもしれません。
彼らがどのように、自分のキャリアをかたちづくっているのかを調べ、分析すれば、単なる勝ち組ではなく、かといって自己満足でもありません。目指すべきビジネスパーン像の輪郭が、はっきりとみえてくるのではないでしょうか。
◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇◆
勝ちパターンをもっているか
勝負能力とは、いざというときに高い成果を出すことができる、その人らしい能力のことをいう。好ましいキャリアを築いている人は、この勝負能力を活かした独自の「勝ちパターン」の持ち主だといえよう。
それでは、数ある人間の能力のうち、どういうものが勝負能力になり得るのか。条件をひとつ挙げれば「楽しく発揮できる能力」になる。自然体で使うことができて、しかも使うときに苦痛を感じないというのが、勝負能力というわけだ。
楽しく発揮できるということがなぜ大事か。楽しく発揮できない能力を、無理やり鼓舞して勝負に使った場合、長い間にいずれは燃え尽きてしまう可能性がきわめて高いからだ。
「楽しく発揮できる」とは、その能力がその人の「動機」に基づいているということだ。 ここでいう動機とは、その人固有の、内側から湧き上がってくるドライブのことだ。
動機には、遺伝的要素と子ども時代の環境が関与しているらしいが、詳しいとは、じつはまだよくわかっていない。しかし、18歳を過ぎると大きく変わることはないというのはたしからしい。心理学ではこの動機のことを「心の利き手」と呼ぶこともある。
たとえば自分の名前を紙に書くとき、右利きの人が右手でペンをもてばなんの違和感を持たないが、これが左手だとそうはいかない。かなりの集中力が必要だし、時間もかかる。
しかもどんなに丁寧に書いても普通は右手ほど上手には書けない。心もまったく同じで、利き手ではない能力を使おうとすると、なかなかスムーズにいかないし、苦労のわりにたいした成果はあがらないものだ。
勝負能力となる三つの動機
動機をその性質によって、「コミットメント系」「リレーションシップ系」「エンゲージメント系」の三つに分類している。 コミットメント系は、何かを成し遂げるということに積極的に関与していく自的的合理的な動機である。
ハイレベルのリーダーになって成果を出そうという人は、コミットメントの動機の中で、闘争心、称賛欲などの一つか二つが人並み以上に強くないと、リーダーになっても楽しめないのでうまくいかない可能性が高い。
リレーションシップ系は、人となかよくしたい、うまくやっていきたいという「社交動機」がその典型。 ほかには「伝達動機」がある。これは自分が思ったことや知っていることなどを、とにかく人に伝えたいという動機だ。おしゃべりな人というのは、この伝達動機と社交動機の両方が強いと思っていい。
リーダーシップには、コミットメント系だけでなく、リレーション系の動機も必要である。コミットメント系だけだと人がついてこないからだ。コミットメント系の動機を基本使えるようになれば、効果的なリーダーシップが発揮できるようになる。
エンゲージメント系は、アウトプットを出すとか、人と仲よくするとか、何かの目的のためではなく、思わずのめり込んでしまっているという状況をつくろうという動機。
抽象的なことや概念的なことを考えるのが好きな「抽象概念動機」もエンゲージメント系動機のひとつだ。この動機が強い人は仕事をしていても、現場で経験したことをいつの間にか抽象化し普遍化してしまう、高い学習能力の持ち主だといえる。
自然行動と習性
いくら強い動機をもっていても、その動機を活かす場がなければ、しょせんその動機は単なるポテンシャルで終わってしまう。 動機に場が継続して与えられることで、その動機にドライブされた思考や行動が繰り返し発揮され、やがてそれらはそこで得られたスキルとともに定着し、その人の特性となる。
もちろん、動機などなくても場さえ常に用意されていれば、同じようにして思考・行動特性を習慣化することも不可能ではないが、それにはかなりの強い意志による継続が必要なのはいうまでもない。
動機があって場が与えられた結果、自然と習慣化した行動を「自然行動」、動機はないが意識して努力することで獲得した行動特性を「行動修正」と呼んでいる。
ある調査結果によれば、若いころは自然行動の割合が大きいが、おとなになって組織で働くようになると、今度は修正行動の割合が高まってくるということだ。
しかし、行動修正があまりに行き過ぎて過剰適応になってしまうと、キャリアの自律性が妨げられ、燃え尽き症候群にもなりかねない。会社全体からみても、行動修正の割合が高い人ばかりが経営陣を占めていると、暴走しないわりに変革が遅々として進まないとになる。大企業病に陥るのは、たいていこういった会社だ。
ダースベーダーにならぬよう幽体離脱せよ
動機が強ければ強いほど、その動機をベースにした勝負能力のポテンシャルも大きくなるのだから、それがなんであれ、強い動機は歓迎すべきだ。 しかし、使い方を誤ると、今度はその動機の強さがあだになって、動機のもつマイナス面が強烈に出てしまい、その結果自分の価値を貶めることになるから注意しなければならない。
私はこれを「ダースベーダー化現象」と呼んでいる。映画『スターウォーズ』で、もともともっていた強い力を、憎しみや怒りというネガティブな感情で使うようになって、ダークサイドへ落ちてしまったあのダースベーダーのことだ。
たとえば、強いパワー動機をうまく使い成功していたリーダーが、組織のトップに上り詰め、もはや自分を諌める人間はいないとなった途端、暴君と化すことは決して珍しいことではない。
そのためには、早くから自分で自分を律することを習慣づけること。それには、自分の動機の悪い部分が出たら、すかさずもうひとりの自分が、またそんなことをやっているのか」「いい加減にしろ」とたしなめる癖をつける。これを「幽体離脱の習慣化」と呼んでいる。
また、お互いに厳しいことをいいあえる人間関係を、築いておくのも効果がある。 日ごろから家族と友人知人、率直なフィードバックに聞く耳を持つことを意識して行動することが重要である。
参考文献:『キャリアをつくる9つの習慣』 高橋俊介 著 プレジデント社