失敗から試行錯誤

 忍耐力があり諦めない心を持っている人は、出来るという確信を持ち、なにごとにも挑戦していきます。諦めない心とは、困難な問題や課題にぶつかった時、決して逃げようとせずに立ち向かい、何とか成し遂げようとする気持ちのことです。

難題に取り組み、見事に結果を出した経験は、大きな自信へと繋がります。 困難に立ち向かっている最中の苦労も、後で良い経験として活かせると前向きに考えられるのも、諦めない人の傾向でしょう。

辛い気持ちを成長への糧として変換出来るプラス思考が、逆境で大いに生きてくるのです。 また、逆境を乗り越えられた場合には、経験が具体的な方法として揺るぎないものとなり、次の成功を生み出してくれます。

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優勝請負人

工藤公康氏は2014年、2015年と立て続けにリーグ制覇を成し遂げ、日本シリーズも連覇した若鷹軍団を指揮してきました。現在主力として活躍しているほとんどの選手は優勝の「味」を知っています。

しかし、そんな常勝チームにおいて、「優勝」という二文字に最も縁のある男といえば…。それは工藤公康監督です。

選手の育成、マネジメント、起用、さらには采配など、なぜ、工藤氏はこれほどまでに強いチームをつくり上げることができたのでしょうか。

彼は最優秀選手2回、最優秀防御率4回、ベストナイン3回、ゴールデンクラブ賞3回、日本シリーズMVP2回、40代での200勝達成など数々のタイトルを獲得しました。西武、ダイエー(現ソフトバンク)、巨人、横浜と4つのチームで活躍した現役時代、通算で14度の優勝、11度の日本一を経験し、「優勝請負人」と呼ばれています。

幼少期から青年期に過ごした過程に、その秘密を見つけました。

野球で食べていく

工藤氏が野球選手になったきっかけは、父親の野球好きでした。自分も野球をやっていて、練習相手が必要なため、息子に野球をやらせました。ところが、工藤氏は自分の好きな遊びがしたくて、野球がうまくなれば、早く遊びに行けるのではないかと考ました。

どうすればうまくなれるのかを、小学校の頃から必死で考えるようになりました。人が1カ月かかるものを1週間で、1週間かかるものを1日で、1日かかるものを1時間と、速い球を投げるには、コントロールをよくするために、いろいろな工夫をしたそうです。

例えば、フォームの研究にはプロ選手の写真を参考にし、影を見ながらシャドーピッチングなど、自分で考え抜きました。

家は裕福とはいえませんでした。自分が親になったとき、子どもには同じ思いをさてたくないと、中学生ですでに野球で成功するしかないと考えていたのです。

高校(名古屋電気高校)時代、練習はハードで先輩も厳しかったといいます。しかし、逃げるわけにはいきませんでした。プロ野球選手になると決めていたからです。

一度、高いレベルで身体づくりをすれば、以降もそれが基準になって強い身体の基礎を作ることができました。結果的に、このとき厳しい環境に身を置けたことは幸運だったそうです。

このおかげで、長く現役でいられた(29年間)と工藤氏は語っていました。

工藤氏の回想 、しまったと思った

それでもプロに入ったときには、しまったと思いましたね。高校でさんざん鍛えたつもりでも、プロは想像以上でした。 西武ライオンズに入団、1軍にいて相当厳しい練習をしましたが、思うようにはいきませんでした。

そんなとき、転機になったのが、アメリカのマイナーリーグである1Aのサンノゼ・ビーズに留学しました。そこには日本にはないシビアな環境がありました。 選手たちは、ひとつひとつのプレーに生活がかかっているのです。勝負に対する闘争心は、それは凄まじかったです。

目つきが、取り組む姿勢がまったく違うのです。メジャーリーグに這い上がるための死に物狂いのサバイバル競争を目の当たりにしました。

工藤氏も真剣にやっていたつもりですが、まさにレベルが違いました。野球でメシを食うということの原点がそこにはありました。ここで僕は目が覚めました。

いいとか悪いとか、そういうものを抜きにして死ぬ気にならないといけないと悟りました。

工藤スピリッツ

アメリカ留学で学んだ勝負に対する闘争心が、工藤氏のチーム運営に感じられるのは、まさにこの工藤スピリッツではないでしょうか。日本シリーズでも、随所に垣間見られました。

選手は必死で走り、グラウンドを叩いて悔しがる。勝利のためにはノーヒットでも投手は交替を受け入れます。

強いチームに長くいたら、その環境は当たり前になります。勝つために何が必要か、強いチームとはどんなチームなのか。

身体づくりと同じです。高いレベルを経験していれば、違いがわかるそうです。練習でも、ミーティングでも、心構えでも、選手には厳しい指摘をされます。選手への指導は徹底的に、負けてヘラヘラしていたら怒鳴ります。 しつこく伝え、うるさい存在です。工藤氏自身も西武時代、先輩を煙たく思うこともあったそうです。でも、あとから思えば、先輩が厳しく言ってくれたのは、若いうちに理解していなければ、取り返しがつかなくなるからです。

そして、失敗をたくさんする。これも若いからこそできます。いまの若い人は、成功を求めすぎます。すべて成功していたら学べるものは何もありません。失敗するからこそ、考え、試行錯誤するようになります。

この習慣がレベルを高めるのです。失敗しない限り成功はありません。 なかなかチャンスがもらえないと嘆く人には、こう伝えると工藤氏は言います。

実は上司は仕事だけを見ているわけではありません。普段の行動、姿勢、顔つき、全体を見ているのです。野球界でも、顔を見ていれば、だいたいわかります。仕方なしに、言われるままにやっているようではチャンスはきません。周囲から何を学ぶか? それを、いかに次につなげていくか? 人は、ほんのちょっとしたことで変わります。その先に小さな心がけで、何度もの日本一は待っていたのです。

プロの世界では、負けは最大の屈辱だからです。 弱いチームは、強いチームになるための方法を知らないだけです。優勝できるかできないかは、ほんのちょっとの違いだと語っておられました。

精神力は若いうちに

ある程度の年齢になってしまうと、間違えたと思ってもやり直すことはできません。 人間の潜在能力は、最終的には精神力です。肉体の限界なんて、たかが知れています。

肉体の限界が来たとき、精神力でどう能力を引き上げるか、自分自身で限界に挑むのは、とても難しいことです。だから、超えさせてくれる人が必要です。それが、チームや先輩の役割です。

早いうちに厳しい状況に自分を追い込み、精神力を若いうちに鍛えることが重要です。

参考文献:『人間は最終的には精神力です。』 工藤 公康 談 Forbes Japan

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