運を決めるのは・・・

 運、不運というのは、だれの身にも公平に起きていて、その運をどう生かすかに少なくとも人は主体的にかかわっていけると思われます。

ごく大ざっぱにいうと、運がいい人というのは、だれにでも公平に降り注ぐ運をより多くキャッチできる人、また、より多くの不運を防げる人、あるいは不運を幸運に変えられる人でしょう。

運がいい人といわれる人たちをよく観察すると、共通の行動パターン、物事のとらえ方、考え方などが見えてきます。 つまり、運がいい人というのは「単に運に恵まれている」というわけではなく、運をつかみ、同時に不運を防ぐような行動、物事のとらえ方、考え方をしているのです。

運がいいといわれる人たちの行動パターンや考え方をつぶさに観察していくと、それは結局、よりよく生きることにつながっています。。

たとえば、運がいいといわれる人たちは、みな、いろいろな意味で自分を大事にしています。常識や世間一般の平均的な考え方に流されることなく自分の価値観を大切にして、自分をていねいに扱っています。

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運のいい人は他者を思いやる

私たち現生人類(ホモ・サピエンス)の亜種とされているひとつに、ネアンデルタール人がいます。ネアンデルタール人は、いまから約20万年前から3万年前までに、ヨーロッパや中東アジアに住んでいました。

ネアンデルタール人がなぜ絶滅してしまったのか。その謎はまだ明確になっていませんが、一説には、現生人類の一派であるクロマニヨン人の攻撃によって絶滅したとされています。

ネアンデルタール人と現生人類の脳の大きさを比べると、ネアンデルタール人の脳の平均的容積は男性で約1500㏄なのに対し、私たち現生人類は約1400㏄と、ネアンデルタール人のほうが大きいのです。

このことから、少し前までは脳の小さい現生人類が生き延びることができたのは、ネアンデルタール人よりも攻撃性があったから、という説が有力視されていました。

しかし最近の解釈は変わりつつあります。 というのは、脳全体の大きさは現生人類よりネアンデルタール人のほうが大きいのですが、脳の中の前頭葉という部分は、現生人類のほうが大きいということがわかったのです。

前頭葉は、人の言語活動、運動、精神活動などを担う部分です。前頭葉のなかでもとくに前頭連合野は、思考や創造を担当する重要な部分です。未来を見通す力それに基づいた計画づくり、利他の概念、人間らしい思考である社会性をつかさどっています。

つまり、現生人類が生き延びたのは、ネアンデルタール人より社会性に長けていたからだ、という見方が有力となってきています。

ネアンデルタール人は、その社会性をもっていなかったために、進化のゲームで負けてしまったということです。

つまり、他者を思いやり、自分さえよければいいと考えるのではなく、お互いを思いやり、みなで協力して生き延びようとする社会性をもつことなのです。

運のいい人は利他行動をとるひと

どれだけ他人のために生きられるか.自分の利益はひとまず脇に置いておいて、他人の利益になるような行動、いわゆる利他行動をどれだけとれるか? これによってその人の運のよさは大きく左右される、といえそうです。

というのは、利他行動をとることで、人の脳にはよいことがたくさん起きるのです。 たとえば、脳の報酬系が刺激され、他人のために何かをすると、「えらいね」「なんてすばらしい人なんだ」などと、ほめられたり、よい評価を受けます。

人の脳は、ほめられたり、他者からよい評価を受けると、現金を受け取ったときと同じような喜びを感じます。

ボランティア経験のある人に、「ボランティアをやっていちばんよかったと思うときはいつですか?」と質問すると、「相手が喜んでくれたとき」「ありがとう、と言われたとき」という答えが多く返ってきます。

脳内のミラーニューロンの働きによって、相手の喜びを自分の喜びのように感じているから、といえます。 つまり、利他行動をとり、それによって自分がよい評価を受け、さらに相手が喜んでくれたときには、脳は何重もの喜びを一気に感じているのです。

また、京都大学の藤井聡教授は、「他人に配慮きる人は運がよい」ということを著作の中で述べられています。

藤井教授は、人が心の奥底で何に焦点を当てているかで人を分類するという心理学上の研究を行いました。その結果「配慮範囲が広い人ほど運がいい」という結論を導き出しました。 配慮範囲の時間とは、思い馳せる未来の時間のことです。人は今日のことだけでなく、2、3日先、来年など自分の将来に思いを馳せます。

また、自分の親や子どもの将来についても考える。さらに社会全体の将来について真剣に考える人もいます。 この人間関係と時間に関して人はどれだけ広く配慮できるか、その範囲によってその人の運が決まってくるのではないか、ということに藤井教授は注目しました。

自分のことばかり考え、目先の損得にしか関心がない人は、配慮範囲の狭い人です。一方、自分のことばかりでなく、家族や友人、そして他人や社会全体の将来についてまで考えられる人は、配慮範囲が広い人です。

研究の結果、配慮範囲の狭い人はある程度までは効率よく成果をあげられます。しかし、目先のことにとらわれて協力的な人間関係を築けないため、総合的にみてみると幸福感の得られない損失が多い人生になる、というのです。

逆に、配慮範囲の広い利他的な志向をもつ人は、よい人間関係を持続的に築くことができます。

つまり運のいい人は自分の周囲に盤石なネットワークを構築することができ、よりよく生き充実した人生を送ることにつながるようです。

参考文献:『科学がつきとめた運のいい人』 中野 信子 著 サンマーク文庫

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