■逆境を糧に
2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥教授は、当初、整形外科医を目指しておられました。しかし、不器用だったらしく臨床研修医中に、普通の人が15分で終える手術を1時間経ってもまだ終えることができませんでした。周囲から邪魔者扱いされて「ジャマナカ」と呼ばれていたと有名な裏話があります。
外科医に向いていないと断念され、研究の世界にのめり込んでいく中で、素晴らしい先生達との出会いを通じ、研究というのは予想もできない驚きの連続だということを目の当たりにされたそうです。
つまり、予想外の出来事を楽しめるか否かで、その後の道が変わってくることを経験されました。山中教授は、最初はアメリカで、動脈硬化の研究により、予想外の結果を体験し次にがんの研究にうつります。
でもまた仮説が外れ、ES細胞(胚性幹細胞)の研究にうつり、導かれるようにiPS細胞の研究に辿りつかれました。 挫折、厳しい試練に打ち勝ち、その過程で楽しみを見つけながら、研究に邁進してきたことが、大きな成果を起こしたのだと推測されます。
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苦労や困難の持つ「深い意味」
仕事で直面する「苦労」や「困難」に、深い意味を見出すマネジャーは、部下に「成長の機会」と「働き甲斐」を与え、気づき、見守ることができます。 人生における、人と人との「出会い」には、深い意味があります。
仕事において直面する「苦労」や「困難」にも、深い意味があり、偶然のように見えますが、一つとして偶然はありません。
なぜなら、人生において我々に与えられる困難とは、我々の可能性を引き出してくれる素晴らしい機会となるのです。 そのことを教えてくれる、プロ野球大リーグ、イチロー選手の味わい深いエピソードがあります。
あるシーズン、彼は、ライバル球団のある投手に、何試合も抑え込まれていました。 そのことを、インタビュアーから聞かれました。「イチローさん、彼は、あなたにとって、苦手のピッチャーですか」 その問いに対して、イチロー選手は、こう答えました。
「いえ、そうではありません。彼は、私というバッターの可能性を引き出してくれる、素晴らしいピッチャーです。だから、自分も修練をして、彼の可能性を引き出せるバッターになりたいですね」 このエピソードは、単なる野球論ではありません。崇高な人生論でしょう。 我々の可能性を引き出してくれる「素晴らしいキーポイント」に他なりません。
成長する
我々は、人生において、仕事においても、様々な苦労や困難に直面します。その苦労や困難に向き合い、格闘し、悪戦苦闘します。 しかし、いつか気がつけば、我々は、その格闘を通じて、成長しています。
また「喜びがある」
「喜びがある」ということは、いま、我々の目の前にある仕事について、想像してみてください。 もし、何の苦労もなく、何の困難もない仕事であったならば、どういう心境になるでしょうか。答えは、明らかです。
まったく面白くなく、しかも喜びを感じられないでしょう。 仕事は、苦労や困難があるから、「働き甲斐」を、人生は、苦労や困難があるから、「生き甲斐」を感じることができます。 我々は、その逆説に気がつくべきです。
「結びつける」も生まれる
では、「結びつける」ということは、どういうことでしょうか。 例えば、新たに設立されたばかりの部署にメンバーが集まります。 まだ、互いに打ち解けておらず、お互い疑心暗鬼になっています。
そこで、マネジャーは、色々と、飲み会や懇親会などを行ってみます。 しかし、メンバーは、表面的には仲良くなるが、深いところでの結びつきが生まれません。そうしたとき、その職場のプロジェクトに、突然、大きなトラブルが発生します。メンバー全員、力を合わせて、その解決に取り組みます。マネジャーを始め、プロジェクト・スタッフには、何日も徹夜が続きます。
そして、何とか、全員の力で、そのトラブルを解決できます。そのトラブルの中で、メンバーの気持ちが一つになったことを体感するはずです。 苦労や困難を乗り越え、メンバーの心が、互いに深く結びつきます。
つまり、苦労や困難というものの、「大切な意味」です。 このように永く職場を共にし、一緒に多くの苦労や困難を打ち勝ってきた仲間は、あたかも「戦友」のような感覚が芽生えます。 いわゆる、「苦楽を共にした仲間」です。
3つの意味
だから、部下を育成する立場のマネジャーには、仕事における苦労や困難というものの、「大切な意味」をしっかり把握する必要があります。
誰もが「辛い」、「もう無理」といった困難を乗り越えたとき、「成長できる」、「喜びがある」、「結びつける」の「3つの意味」を、深く理解することができると確信いたします。
参考文献:『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』 田坂 広志 著 PHP研究所