■断固とした意志を・・
さて、新しいことや、人がやらないことをやらなければ会社は成長していきません。しかし、新しい取り組みの商品などに興味を示す人は期待するほどいません。
売れていないものをただ並べてみても売れないものです。売るのは技術ではありません。売れていないものを売るには、まずは心構えが問われます。凄まじいまでの意志、熱意がいるわけです。
強烈な意志、熱意、こうありたいという強い願望というものが伴ったときに、初めて物事というのは成就すると思われます。 こうありたい、こうすべきだという意志は、魂が沸いてきて行動に移っていきます。それは我々が、人生をどうありたいと思っているかによって決まってきます。
事業を、この新しい商品をどのようにしたいのかと切望することでしょう。 どんな困難があろうとそれをやろう、という断固とした意志は、我々そのものから湧いてくるのです。
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チャレンジするためには、いかなる困難にも立ち向かう勇気
大企業の場合でも、こういうことをしたいと、社員どうしでチームを作って討論してもらうと、はじめは「そりゃ、無理です」という言葉がすぐ出てきます。「ウチにはこういう技術がありません。ああいう方法も、こういう物もありません」と、できない理由をならべます。
現在の自分の能力、会社の力でできる、できないということを推し量るのは誰にもできることであって、それだけで事業は進歩しません。
チャレンジは、どんな苦労をも厭わない忍耐と努力が必要なのです。特にリーダーは勇気を持っていなければいけませんし、人一倍の忍耐力、誰よりも努力家でなければいけないということを肝に銘じなければなりません。
意外なことに、野性的で、少し野蛮なところがあるから挑戦をするのかもしれません。そういう意味では、文明人や教養人は、あまり挑戦しないものなのかもしれません。
例えば、ローマ帝国が滅びたのは、一つに好戦的なゲルマン人が侵入してきたからだという説があります。かつては蒙古民族がヨーロッパまで国土を拡げていきました。文明人と野蛮人が対立した場合、文化レベルからいえば、知識の豊富な文明人が勝つだろうと思うものですが、実はそうではありません。
より強い闘争心を持っている野蛮人が勝つことが多いようです。 つまり、新しいことを成し遂げるには、「何があってもこれをやり遂げるのだ」という、野蛮人にも似た貧欲さ、闘争心が必要なのです。 今できないものを、何としても成し遂げようとすることからしか、画期的な成果は生まれません。
京セラの祖業者稲盛氏の体験談
これは京セラがまだ創業初期ときのことですが、注文を取りに行くわけですね。「セラミックの研究開発をやっているので、そういうものをやらせてください」と言っても、通り一遍のものは同業者がすでにやっているからやらせてもらえない。
信用もない地方の一介の中小企業ですから、そういう立場ですと、お客さんには「よそができないものをウチはできるのです。実力があります。」と吹かなければしようがありません。すると、「よそができないものをできるのか?」ということで、「こんなものできるか」と、見たこともやったこともないものを見せられる。
「これは何に使うのですか?」と聞くと、「新しいこういうものを開発し、こういうものに使うのだけれども、今それがなくて困っている。ぜひ引き受けてくれ。半年後に要るんだが、できるか」と言われる。言った手前、今さら「できません」と言うわけにはいかないので、「できます」と言って、引き受けて帰ってくる。
部下にその開発をやってもらうことになる。けれども、部下にそれを言うと、びっくり仰天して「こんな難しいもの、できません」と。しかし、もうあとには引けません。部下にすれば、「おかしいのではないか。できもせんもの、やったこともないものを引き受けてきて、皆に『やれ』という。ウチでは嘘を言ってはいけない、公明正大、正直でなければならない、と謳っているではないか。
それなのに、できもしないことを『できる』と嘘を言って帰ってくる」と思っている。 そのときに、「仏教ではこういうことは嘘とは言わないのだ。方便と言うのだ。方便とはどういうことかというと、今は嘘だけれども、約束した半年後に引き受けたものを作れれば、それは嘘にはならない。このまま嘘にしてしまうのか、方便にするのか、それが問われているのだ」。
能力を未来進行形で
稲盛氏のこの実践が、「能力を未来進行形でとらえる」ということなのです。つまり、6カ月後というときに自分の能力がそこまで上がっているかどうか、ということを予見しなければなりません。それにピシッと追っかけたようにミートしなければならないということです。
新しいものをやる場合に、現在の能力で判断してはいけません。「自分のグループ、会社、また自分も未来永劫に発展していくのだ」、ということを信じてやっていかなければならないのです。
チャレンジすることは大切だが、無謀なチャレンジはいけません。自分の得手でないものに次から次へと手を出さず、切られないように飛び石を打たないようにしなければなりません。自信あるもの、つまりつないだ石しか打たないことです。自分の得手でないことには手を出さないということが大切です。
参考文献:『誰にも負けない努力』 稲盛 和夫著 PHP