若さを・・・

世の中、60代や70代になっても、青年のように若々しく活動している人がいます。その人が生まれ持ったものよりも、日々の生活習慣こそが若さを保つ秘訣であると考えています。

 生活習慣を通じて、疲れを癒して、自分自身をリフレッシュできるならば、その人は常に生き生きとした表情で周りに接することができるのです。自己をいたわり他人を尊重することを心掛けているならば、ネガティブな言動は少なくなってくるでしょう。

① マイナスの感情をプラスに転換する。②いつも積極的に行動している。 ③ストレスがたまらないように、心をいたわっている。④いつも学ぶ姿勢で、頭を使うことをいとわない。⑤人とかかわることで、会話を楽しんでいる。⑥他人に貢献することに生きがいを感じている。

 上記のような6つの習慣があると、心の中にプラスのエネルギーが循環するようになります。

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「居心地いい空間」から脱出する勇気

フランスの哲学者アランの「上機嫌は人間の第一の義務」と述べています。とりわけ年をとったら、意識して「上機嫌」でいることが大切です。

人は高齢になると、自分の気持ちに忠実に、ありのままの状態でいようとすると、どんどん不機嫌になってしまいます。だから意識して自分の機嫌をよくする。そうすると周りに人が集まってきます。

誰でも機嫌の悪い人より機嫌のいい人のそばにいたいし、怖い人には近づきたくありません。上機嫌でいることで一番励まされるのは自分自身です。たとえおかしくなくても笑顔をつくる。よく「悲しいから涙が出るのではなく、涙が出るから悲しいのだ」と言いますが、形から入ることはとても大事です。

衰えていく自分自身を見つめているばかりでは気が滅入ります。そうではなく、外に目を向け、新しいことや知らなかったこと、おもしろそうなことを探しましょう。

欠点をあげつらうより、できるだけ物事のポジティブな面を見つけ、相手のいいところ、がんばっているところを無理にでも探して、褒めてあげるようにします。 人は誰でも認められたり称賛されたりするのはうれしいものです。

人を動かすには地位やお金が必要だといわれます。褒め言葉なら費用はいりません。しかも経験のある年長者から褒められれば気持ちよく響き、うれしくないわけはありません。ですから仮に退職して地位がなくなったとしても、遠慮せずにどんどん人を褒めるべきです。

そして「よいおせっかい」をすることです。 「年をとったら自分などもう用なしだ」と引っ込んでしまうのではなく、そういう自分が必要とされている場面を見つけ、人のためにできることを思考し、そこに頭を使うべきです。

そのときに注意しなければならないのは、若い人に尊敬されたいなどと余計な期待をしないことです。期待するから、「尊敬してくれない」と腹を立てることになるのです。

逆に「自分ができることで、若い人たちに足りないことは何だろう」と考え、そこを補ってあげるようにすれば、感謝されるし、自分もいい気分になれます。「尊敬してもらえるか」ではなく、「何をしてあげられるか」を考えるよう心がけるのです。

年をとれば自分が得意なこと、不得意なことはある程度わかります。だったら得意なことで若い人たちの役に立てばいいわけです。

「流動性知能」と「結晶性知能」

人間の脳は知恵や知識や経験を貯め込んでいく「メモリー・マシン」で、記録された情報が増えるほど性能が上がります。ですから基本的には加齢とともに能力が向上していきます。

ただ、ある程度の年齢に達すると認却機能が低下してきて、蓄積した知識が取り出しにくくなったり、新しい情報を記憶しにくくなってきます。 脳科学の世界では知能を大きく「流動性知能」と「結晶性知能」に分けています。

流動性知能とは「経験とは無関係な知的能力」という概念です。ここには計算力、暗記力、思考力、集中力などが含まれ、IQテストによって測定されます。

これに対して結晶性知能とは「経験を積むほど高まる知能」という概念です。結晶性知能は言語的知性とされ、人が過去に得た知識や経験がペースになっています。

流動性知能は「経験とは無関係な知能」という定義なのですが、現実にはIQテストも、計算や脳トレのようなトレーニングをすることで成績が上がります。 実際の人間の知能は結晶性知能と流動性知能が混合されたもので、知能の分野によってピークとなる年齢が異なります。

研究報告によれば「総合的な情報処理能力と記憶力」のピークは18歳前後とされますが、個々の知力の多くはそれよりもずっと遅く、たとえば相手の表情を読む力は48歳、仕事で用いる基本的な計算能力は50歳がピーク。

自分が普段から行っている仕事への集中力も20代より40代のほうが高く、「新しい情報を学び、理解する能力」も50歳がピークです。

語彙力などは67歳がピークです。しかし、これもあくまで平均値であって、日頃から文章を読んだり書いたりしていれば70歳を過ぎても上昇していくのです。

知能は本来「領域固有性」を持っています。勉強で算数の能力が向上しても、普通は同時に国語の能力も上がるというわけにはいきません。

しかし双方の能力には脳科学的には共通因子があるので、工夫次第で異なるスキルを同時に引き上げる「汎化」が可能です。それを容易にするのが「メタ認知」です。

スポーツでいう戦術眼のようなメタ認知

サッカーではボールを蹴るのがうまい選手は多いですが、試合の展開を先読みしてパスを出したり、ポジショニングができる選手は貴重です。

Jリーグ創設当時に名選手として知られた元日本代表の木村和司さんは、初めて国立競技場のVIPルームからサッカー場を見下ろしたとき、「おれが試合中に見ていた光景はこれだ」と言ったそうです。ただ自分の目で見るだけでなく、自分の姿とその周囲の状況を上空から俯瞰した光景を脳内で想像しながらプレーしていたわけです。

プロ経営者と呼ばれる人たちが、それまで一つの会社の経営で培ったノウハウを新しい世界に適用していく際にも、メタ認知が重要になります。

ある会社で仕事をしながらも、「他社だったらこうすればいいな」「グローバルに応用するにはこうすべきだろう」とより高い見地から立ち位置を考えたり、一社だけ栄えでもだめだ。

経済全体をよくするにはどうすればいいか」といった問題意識を持つことで、一つの会社で磨いた能力が他業界でも活用できるようになってきます。

ビジネス誌を読むときや異業種交流会に参加する場合でも、「他の業界の成功パターン、失敗パターンを知って自分の業界に生かすことができないか」という意識で臨んでいる人にはそれに応じた学びがありますが、ただ澄然と読んだり参加したりするだけの人には何の気付きも生まれません。

そして大事なことは、こうした意識は素質というより、訓練によって身につけられるスキルだということです。 生まれつきメタ認知ができる人がいるのではなく、以上のような構造に早めに気付いて努力した人がプロ経営者として輝いているのです。

諏訪東京理科大学では茅野市の1300人の流動性知能を横断的に調査し、加齢による変化を調べた研究を行っています。 流動性知能は小学1年生の段階ではばらつきが大きく、中学3年生くらいになると、ばらつきが減りつつ平均値が上がっています。

20歳前後でピークとなり、年を重ねるにつれて落ちていくのですが、注目すべきは「高齢になって流動性知能が落ちるときは個人差が非常に大きい」という事実です。70歳、80歳でも20代の平均と変わらない人もいれば、ずっと低くなってしまっている人もいるのです。

世界保健機関(WHO)では認知症のリスクを低減するうえで「有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動」「禁煙」を強く推奨し、地中海食、和食などの「健康的な食事習慣」「脳トレ」「過度な欽酒の制限」「肥満、高脂肪症、高血圧、糖尿病の防止」にも効果を認めています。

知力を維持するための習慣は、生活習慣病防止のための習慣とほぼ共通しているのです。

運勤と健康的な食事に加えて認知症を防ぐのに効果的とされているのが、「頭を使う」ことです。

認知機能は「何か覚えた後で別の作業を行い、その後にさっき覚えたことを思い出す」といった「ワーキングメモリーの多重使用」のテストで測られるので、そういう頭の使い方を日頃からやっていることがポイントです。

年齢に関係ないとされる流動性知能も訓練すれば能力が高まります。そうである以上、年をとると衰えがちな能力を意識して、普段から使ってやることが重要です。

参考文献:『プレジデント 2019.8.2号 若返り入門』

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