感情的知性が・・・

知能よりも感力が重要であると考えている人は、多いのではないかと思います。 私たちは共感的に考え、話してくれる相手に対して非常に好感を持ち、親和的に振る舞いたがるようです。

知能がある人より、共感力の高い人のほうがより「人間的である」、または「人間力が高い」と思われています。 闘争あるいは逃走のための物理的な特性を持たない私たち人類にとっては、群れを組織することこそが生き延びるための手段でした。共感力は、私たちにとっての最終兵器でもありました。

そう考えると、きわめて重要なものであると自然にとらえることができます。 その重要性を無意識に知り、共感力のあるほうをより評価するような価値観を同時に育ててきたのが、人類の歴史であるのかもしれません。

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他者に関心を集中する

注意(attention)という言葉は、「触れ合おうとする」を意味するラテン語のatten-dereに由来している。他者への関心とはまさにこの「触れ合おうとする」ことに他ならず、EQの第二の柱である共感や第三の柱である社会的な関係を築く力の土台を成す。

 他者に関心を集中するのが上手な経営者は、相手と共通の土台を見つけ出し、非常に重みのある意見を述べる、他の人々に「一緒に仕事をしたい」と思わせる。こうした人々は、組織あるいは社会での地位にかかわらず、生来のリーダーとして頭角を現す。

リーダーが他者に共感を示す様子を注意深く観察すると、以下の3種類が浮かび上がってくる。効果的なリーダーシップを発揮するうえでは、このどれもが重要である。

① 認知的共感:他者の視点を理解する力 ② 情動的共感:他者の感情をくみ取る力 ③ 共感的関心:相手が自分に何を求めているかを察知する力

①の認知的共感を抱くには、相手の胸の内をそのまま受け止めるのではなく、相手がどんな感情を持っているかを考える必要がある。

認知的共感力を持つ優れた経営者いわく、「すべてを学びたい、周囲の全員を理解したいという意欲を、常に持ち続けて、なぜあのような行動を取ろうと考えたのだろう。なぜあのような行動を取ったのだろう。

何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか。などとね」。 認知的共感は探究心によって培われる。認知的共感を抱いたリーダーは、自分の言わんとすることをはっきり説明できる。これは直属の部下から最大限の成果を引き出すうえで欠かせないスキルである。

②の情動的共感は、メンタリング、顧客対応、集団力学の把握をうまく行ううえで、重要な働きをする。 我々は興味深い話を聞いていると、脳は相手と同じ活動パターンを示す。他人の感情を理解するには、まずは自分の感情を理解する必要がある。

情動的共感を呼び起こすには、2種類の注意を働かせることになる。1つは、相手の感情に対する自分の反応に意識的に注意を向け、もう1つは、表情や声の調子などから相手の感情を幅広く読み取ることである。

③の共感的関心は、情動的共感と密接な関係にあり、相手の感情だけでなく、自分に何を求めているかを察知する力を与えてくれる。 共感的関心を引き起こす神経回路は、親の注意を子どもに向けさせる役割を持つ。

誰かが愛らしい赤ん坊を連れて部屋に入ってきた時に、その場にいる人々の視線がどう動くか。哺乳類の脳中枢にあるこの回路が突如として活性化してくることがわかるはずだ。

ある神経理論によると、この反応は扁桃体と前頭前皮質で起きる。扁桃体は危険を察知する脳内レーダーに刺激され、前頭前皮質は「思いやりの物質」とされるオキシトシンの分泌をきっかけに、反応するのだという。

共感的関心には相反する二つの効果があるらしい。私たちは、他者の苦悩を我が事のように受け止める時には直感を頼る。相手のニーズに応えるかどうかを判断する時は、その人の幸福が自分にとってどれだけ重要かを熟考するらしい。

他者に同情しすぎると、自分自身が苦しくなる。人助けが生業であるような場合、これは共感疲労につながりかねない。

経営幹部は、人や状況にまつわるどうしようもない問題への不安にさいなまれるおそれがある。しかし、自分を防御するために感情を抑制すると、共感を持てなくなってしまうかもしれない。

共感的関心を持つには、他者の痛みを感じる力を保ったまま、自分の苦悩とうまく付き合うことが求められる。

部下への叱責は自分に跳ね返ってくる

  スタッフォート大学の脳神経外科医ジェームズ・ドーティ博士は、ある少年に脳腫瘍の手術を施した時のことを語っている。術中にアシスタントの研修医クラークが、不注意で血管に穴を開けてしまった。

そこら中に血があふれ出し、術部が見えない。少年の命に関わる事態である。選択肢はただ一つ、傷ついた血管を手探りで探し当て止血すること。ドーティは運よくそれに成功した。

私たちのほとんどは脳外科医ではないが、部下の大きなミスによって、重要なプロジェクトが台無しになりかねないような状況に直面することは当然ある。そこで問題となるのは、部下が良い働きをしていない時、あるいは過ちを犯した時に上司はどう対応すべきかということだ。

ミスをした部下に対する従来の対処法は、何らかの方法で叱責することである。何らかの罰によって教訓を与えることが本人のためになる、というのがその意図だ。

叱責によって不満を表明すれば、上司自身のストレスや怒りが和らぐという効果もある。さらに、叱責は他のチームメンバーの気を引き締めることにもなり、今後の失敗を避けることにつながるという意義もあるのだろう。

しかし、思いやりと関心を用いて、パフォーマンスの思わしくない部下に対して、別の方法で対応する上司もいる。部下のミスに不満やいら立ちを覚えていないというわけではない。

自分にどう跳ね返ってくるか気をもんでいる。にもかかわらず、即断を避ける術を心得ており、さらにはミスをコーチングの機会に転じることもできるようになる。 スタンフォード大学で「思いやりと利他主義研究教育センター」のディレクターも務めるクラークは、手術室での初めての経験をこう振り返る。

彼は緊張のあまり大量の汗をかいていたが、やがて汗の一滴が術部に落ちて汚染してしまった。手術は単純なもので患者の生命には何の差し障りもなく、術部に落ちた汗も簡単に洗浄できた。

しかし、執刀していた外科医(当時屈指の著名医)は激怒し、クラークを手術室から追い出してしまった。帰宅した彼は、屈辱の涙を流したという。

 もしその外科医が違った対応をしていたら、クラークの忠誠心は揺るぎないものになっていたはずだ!彼はインタビューでそう述べる。  その先生が激怒せずに、こんなふうに言ってくれていたらね。

「君、今何が起こったか見なさい。術部が汚染されたね。君が緊張しているのはわかる。外科医になりたいなら、緊張してはいられないよ。ちょっと外へ出て、気を落ち着かせてきたらどうだい。帽子を調整して、汗が顔に垂れないようにするといい。

戻ってきたらいいものを見せてあげよう」。こんなことを言われたら、彼は僕の永遠のヒーローになっていたよ」と。 怒りにまかせた対応は忠誠心と信頼を損ねるばかりか、部下のストレスを高め、創造性を阻害する。

イギリスで2000人の従業員を対象に行われたある研究によれば、給料よりも職場での温かさやポジティブな人間関係のほうが、忠誠心に大きく影響していた。

あなたが部下に思いやりを持って接することで、相手の忠誠心が高まるだけでなく、その振る舞いを目にした他の人々も「高揚」を体験し、あなたに対してより献身的になる可能性がある。

 反対に、怒りや不満を持って接すると相手の忠誠心を損ねる。 マイナスの結果に対する恐れではなく、安心できる雰囲気を醸成することで、創造性を持つ意識を促進できる。 ただし、怒りの感情が時にメリットをもたらすことも研究で示されている。たとえば、不正に対して立ち上がるエネルギーを与えてくれる。

また、怒りの表明は悲しみの表明よりも権威を感じさせる効果がある。しかし、リーダーが怒りというネガティブな感情をあらわにすると、部下はかえってその能力を低く見る。反対に、人当たりがよく、厳しさではなく温かさを感じさせることはリーダーに重要な人間力の魅力を与える。

参考文献:『共感力』 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部/ダイヤモンド社

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