小さな積み重ね

イチロー選手は「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」と語っています。 何かを成し遂げるためには、一つひとつの小さな積み重ねが大切であることを示唆しています。

大リーグで驚異の10年連続の200安打を達成したのは、小さな努力を積み重ねてきた偉大な成果です。小さな積み重ねでは、なかなか成果が見えにくいものです。それが理解できて、続けることが難しいと感じる人が多いはずです。目標達成までの長い道のりを意識し、ほとんどの人が途中で挫折してしまいます。

しかし、小さな習慣は自分に課す行動を意外に簡単なものにしています。目標自体が小さいため、早い段階であきらめてしまう心配はありません。小さく始め、その課題をこなすことがどんな感じか実際に経験してみると、思っていたほどむずかくないことがわかり、次のスッテプに進む可能性が高まります。

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小さな習慣は、よい習慣を長く続けるため

小さな習慣として取り入れるのは、あなたの生活を豊かにするポジティブな行動を、長く続けられるようにするのが目標です。 悪習慣を断ち切ることも、よい習慣を築くことも、実際には目指すところは一緒です。最初の一歩が大きな目標の達成へとつながるのです。それが、一生の習慣の基礎になるだけでなく、生活のあらゆる面であなたの助けになるはずです。

小さな習慣とは、あなたが新たな習慣にしたいと思っている行動を、もっともっと小さい形にしたものです。毎日100回の腕立て伏せが目標なら、毎日1回の腕立て伏せをする。毎日3000ワードの文章を書くことが目標なら、毎日50ワードを書く。いつもポジティブに考えたいのなら、一日にふたつポジティブなことを考えます。

小さな習慣にはもともと力が備わっています。これは、見た目にはシンプルでも、実はうまく考え抜かれた生活改善の方法なのです。 腕立て伏せを1回するのに、あるいはひとつかふたつのアイデアを思いつくのに、それほど強い意志は必要ありません。

これは、すでにポジティブな行動を望んでいて、いったん始めてしまえば、やりたくないと抵抗する気持ちも弱まるからです。そして、小さな習慣として始めた行動は徐々に生活の一部になってきいきます。たとえ自分で決めた目標を毎日上回れなくても、その行動は小さな習慣に育ちます。

小さな習慣の場合は「小さすぎて失敗するわけがない」といえます。そのため、目標を達成できない自分への失望感や罪悪感に悩まされる心配もありません。なんといっても、最初から毎日の成功が約束されているのですから。つねに目標を達成できることが励みとなり、さらに続けようと思うポジティブなサイクルが生まれます。

小さな習慣とは、毎日これだけはやると決めて必ず実行する、本当にちょっとしたポジティブな行動です。ばかばかしいほど小さなステップの積み重ねなので、毎日続けるうちに習慣として定着します。そうなれば、"おまけ"を加えるのも楽しになり、やがて小さな習慣から大きな習慣へと成長するでしょう。

生活を形作るのは習慣ですから、それを利用しない手はありません。「腕立て伏せ1回チャレンジ」を通して小さなステップの力を発見したときには、自分の特別な力に気づいたスーパーヒーローにでもなった気分で、「この力はどう使うのがいちばんいいだろう?」と考えました。その答えが、習慣にするというものでした。

デューク大学の研究によれば、私たちの行動の約45パーセントは習慣で成り立っているそうです。実際には、45パーセントという数字以上に重要ともいえるでしょう。なぜなら、習慣とはしばしば(多くの場合は毎日)繰り返される行動のことをいい、その積み重ねが将来の大きな成功または失敗につながるからです。

人生を大きく変える可能性のある習慣には、次のようなものもあります。 ・1日に20分の運動を習慣にすれば、次第に筋力がついて体型を変えられる。 ・健康的な食品を食べる習慣は、長生きする可能性を増します。しかもエネルギーに満ちあふれた生活を長く続けられます。 習慣はあくまで繰り返しによって身についていくものです。

小さな習慣は、自分の限界点を超えていく

今、あなたにはコンフォートゾーンがあります。自分を取り巻くサークルのようなものを想像してみてください。あなたはそのサークルの中にいれば快適でいられますが、あなたの目標のいくつかはサークルの外にあります。この境界線を越えたところに、健康で体重も軽くなった自分の姿が見えるかもしれません。自分が書いた日記や読みたいと思っている本を思い描くかもしれません。

ネガティブな思考にとらわれることのない、幸せな自分の姿が思い浮かぶかもしれません。家で料理をしている自分の姿でもいいですし、何であれ、あなたが改善したいと思っていることを思い浮かべてください。これらがあなたのコンフォートゾーンの外にあるのは、多少の不快な思いをしなければ手に入らないからです。

この変化を実現するために使われる方法は、思い切ってサークルの外に出て、「成功するために必要なことは何でもする」と決意します。自分のコンフォートゾーンの外に飛び出し、そこにとどまろうと必死に努力するのです。そのとき、あなたの潜在意識の脳はこう言ってきます。

「これは面白い。でも、この大きな変化はどうにも居心地が悪い」。そして、外にとどまるだけのモチベーベションや意志の力を失ってしまうと、潜在意識の脳はあなたを元のコンフォートゾーンに連れ戻します。

それでは、小さな習慣はどうでしょう? 小さな習慣は、コンフォートゾーンの境界線のところまで歩いていき、一歩だけそこから外に出ることを考えます。そこはサークルの中ほど快適ではないのですが、それでも大きな違和感はありません。一歩後戻りすれば、すぐにコンフォートゾーンに戻れるとわかっているからです。

最初の何回かは、すぐに中に戻ってしまうかもしれません。しかし、何度かサークルの外に踏み出しているうちに、あなたの潜在意識は次第にそれに慣れ、サークルが広がっていきます。こうすると、サークルの外に勢いよく飛び出していったときとは違い、あなたは境界線の位置を元に戻すことなく、どんどん広げていけます。

これこそが小さな習慣の魔法です。私はあなたが最初の一歩を踏み出したあとに、境界線の外を探検したくなってほしいと思っていますが、たとえその気にならなくても、やがては最初の一歩を踏み出して新しい行動を試す経験を快適に感じるようになるはずです。それが、その行動をさらにスケールアップさせ、自分を成長させるための頑丈な基礎を築くことにつながります。

腕立て伏せであれば、「毎日1回する」ことが小さな習慣として適当でしょう。この小さなステップは、あなたが想像する以上にさまざまな影響をもたらします。

なぜなら、あなたは腕立て伏せを1回するという考えに慣れてくるだけでなく、腕立て伏せそのものについても、それを毎日することについてもポジティブな印象を持つようになるからです。

小さな習慣は、ライフスタイルに合わせて柔軟に

あなたは忙しい人ですか? 自分のしたいこと、しなければならないことに追われていると感じますか? どの方法を選ぶのであれ、あなたが考えなければならないのは、それを自分の生活にうまく組み込めるかどうかです。習慣づくりに関する本の多くは、ひとつの習慣だけを取り入れるようにすすめています。

私たちのかぎられた意志の力では、一度に多くの習慣には取り組めないからです。しかし、半年もの時間をたったひとつの習慣だけにつぎ込み、改善したいほかのことをすべて無視したい人などいるでしょうか? 

習慣は重要で価値あるものですが、体力づくりをしたいと思っているときに、書くことだけに集中するのはイライラします。現在集中して取り組まなければならない行動と、改善したいと思っているほかの部分が対立し、あなたの注意を逸らします。これはずっと無視されてきた大きな問題で、これまでのところは解決策がありませんでした。

小さな習慣なら本当に小さな行動から始め、意志の力を効率的に使えるので、複数の習慣に取り組めます。忙しくて時間に追われた人たちでさえ、小さな習慣をいくつも身につけることに成功しています。

小さな習慣をあなたの生活の基礎になるものとみなしてください。どれも必ずやらなければならないことですが、数分もあれば全部終えられます。

それが終わってしまえば、"おまけ"であろうと、そのほかの活動であろうと、自分の好きなことをしてかまいません。小さな習慣は、現在のあなたのライフスタイルに合わせて、いくらでも柔軟に取り入れられるはずです。

それでいて、生活改善のための効果的な「てこ」になります。最初は生活の中に取り込む小さな習慣だったものが、何かもっと大きなものに成長するでしょう。 小さな習慣として始めた行動がやがて本物の習慣に変わっていきます。

参考文献:『 小さな習慣 』スティーブ・ガイズ 著/ダイヤモンド社

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