タフな思考とは・・・

仕事ができる人は、難しい課題であっても、まず挑戦してみます。むしろ難しい課題だからこそ、挑戦しようとします。可能性を信じ、達成できた体験を持っています。 また、他者からの説得的なアドバイスを素直に受け入れ、プラス思考や高揚感を抱いています。

しかし、当然、落ち込むこともあります。べつに特別図太い神経構造を持っているわけではありません。 それはものごとの受け止め方、タフな思考パターンを身につけているからです。

難しい課題は、見方を変えると自分が成長できる絶好のチャンスと捉え、実体験が最も効果的であると確信し、どんなこともポジティブな気持ちで振り返ることができ、どんな経験からも学ぶことができます。 そこでレジリエンス(逆境力)に注目したいと思います。

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心理学で解明されつつあるレジリエンスの要素

レジリエンスは困難な環境にもかかわらずうまく適応する過程、能力および結果と定義されています。 レジリエンスは、強いストレス状況下に置かれても健康状態を維持できる性質、ストレスの悪影響を緩和できる性質、一時的にネガティブ・ライフイベントの影響を受けてもすぐに回復し立ち直れる性質をさすといってよいでしょう。

レジリエンスが高い人の心理的特徴

レジリエンスが強い人は、つぎのような性質を身につけていると考えられます。

・楽観的で未来を信頼している 
・自己肯定感が高く自己受容ができている
・忍耐強く、意志が強い感情コントロールカがある
・好奇心が強く意欲的 
・創造的で洞察力がある 
・社交的で、他者を信頼している
・責任感があり、自律的、
・柔軟性がある
レジリエンスの重要な要素のひとつが楽観的思考です。 たとえば、営業活動において10軒訪問し、7軒門前払いされ、3軒説明を聴いてもらえたとき、悲観的な思考スタイルを身につけた営業マンは、「10軒訪問して7軒で断られた」と、疲れ切ってうんざりした表情で失敗を数える傾向になります。

 逆に、楽観的な思考スタイルを身につけた営業マンは、「10軒訪問して3軒で話を聴いてもらえた」と、比較的機嫌よく成功を数えます。 失敗を数えずに成功を数えるのが加点法的発想と呼び、加点法的発想をするほうが逆境でも粘り続けることができます。

仕事で行き詰まったり、重大なミスを犯したりするなど、逆境に陥ったとき、どうすれば乗り越えることができるかはそう簡単にはわかりません。しかし、悲観的な思考スタイルを身につけた人は、「うまくいく保証がないから、どうもやる気がしない」ということになりがちです。

それに対して、楽観的な思考スタイルを身につけた人は、「うまくいくかどうかはやってみなければわからないが、とりあえずやってみよう」と積極的にチャレンジします。そこでは試行錯誤しながら頑張り続けるしかあません。

楽観的思考を持つと「視点の切り替え」ができる

窮地に陥り、「もうダメだ」と思ってしまうような状況でも、「待てよ、まだ方法はあるかもしれない」と他の視点を模索し、複眼的にものを見ることで、窮地を脱することができます。

たとえば、昭和9年の室戸台風により、門真市に移転したばかりの松下電器は甚大な被害を受けました。後藤が当時工場長をしていた松下電器第一・第ニ工場の主力工場も倒壊してしまいました。巡回に来た松下に、「あっ、大将ッ、ご苦労さんです。えらいことになりました。ずっと見回ってやってください」と言うと、松下は、「いや、かめへん、かめへん」「後藤君なあ、こけたら立たなあかんねん。

赤ん坊でも、こけっぱなしではおらへん。すぐ立ちあがるやないか。そないしいや」と言って、工場の被害状況などどこ吹く風といった感じで、見回りもせずにすぐに引き返しました。

すんでしまったことはしかたがない。あとの仕事があるだろう。再建はどうするか、資金の調達はどうするのか。その間の製造、市場、従業員をどうするのかなど、課題が山積しているはずだ。起こってしまったことの周囲をぐるぐる回っている暇はない。こけたら立たなあかんぞ。そう教えてくれたのだと後藤は考えました。

これは、逆境に追い込まれたとき、感情反応でなく認知反応をする人が強いということにも通じます。一思いがけない窮地に追い込まれたとき、「大変なことになった」「参ったなあ、こんなことになるなんて」「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ」などと感情反応をする人は、嘆いたり動揺したりするばかりで、建設的な方向になかなか歩み出すことができません。

それに対して、「さて、どうすればいいんだろう」「とにかく今できることからやるしかない」「まずは何をすべきだろう」というように認知反応をする人は、―時的な動揺はあっても、気持ちを切変えて、建設的な方向に歩み出すことができます。

本当の自己受容ができている

自己受容ができているというのも、勝負所に強い人の特徴と言えます。 しかし、自己受容というと、自分は素晴らしい、自分は何でもうまくできるというように自己を全面的に肯定しながら、「そんなのは自分には無理だ」と言う人が多いのではないでしょうか。

しかし、自己受容というのは、そういうことではありません。まだまだ至らない点もあるということも含めて、未熟ながらも向上をめざして頑張っている自分を肯定する。それが自己受容です。 自己を肯定できるようになるには、成功体験が必要だなどと言われますが、人生には思い通りにならないこと、うまくいかないことも多いという現実を考えると、成功体験だけでは自己を肯定できるようにはなりません。

逆に言えば、思い通りにならないことが多いのに、なぜ自己を肯定できるようになるのかに目を向ける必要があります。そこに諦めない心が育つ秘訣がありそうです。

何もかも思い通りになる、成果が出るなどということは現実にはあり得ません。たとえ思い通りにならなくても、成果が出なくても、未熟ながらも頑張っている自分を認める視点が諦めない心を育てます。

どんな領域でも、活躍している人はみんなレジリエンスが高いものです。タフに生きるためには、要するに物事の受け止め方がポイントになります。

メジャーリーグで大活躍し、古巣の広島東洋力―プに戻ってきた黒田博樹投手は、巨人戦で復帰後初の完封勝利を目前にしながら、9回裏に亀井選手に犠牲フライを打たれて逆転サヨナラ負けを喫してしまいました。つい若い頃のつもりで投げて痛い目に遭い、非常に悔しい思いをすることになりました。力強い球が投げられた若い頃とは違ったわけです。

「あのときはショックでしたね。 あの試合では野球の厳しさというものを思い知らされました。つい昔の感覚というか、7年前の頭で野球をやって、最後はあのような結果になってしまった。いまも同じことをやっていたのでは駄目なんだと、そういうことを改めて教えられた試合でした」と言います。

さらに、「ただ、そこで大切なのは、そういう自分を受け入れないといけないのです。あんな負け方をしたのは力が衰えているわけだから、その衰えを練習で補わなければならない。そこに成熟する余地が残っているし、新たな鎧を身につける必要性を感じました」と回想されていました。

感情反応より認知反応を心がけ、すばやく気持ちを切り替えようということです。どんなにショックを受けても、どんなに苦しい状況に追い込まれても、落ち込まず、すぐに気持ちを切り替えて、どうしたらよいかと対処法を模索する。それがスムーズにできているからこそ、人並み外れた成果を出すことができると思います。

参考文献:『仕事でチャンスに強い人は、レジリエンスを高めている』榎本博明 著/ KADOKAWA 

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