なぜシンプルな戦略が・・

神戸市兵庫区に食パンだけを製造販売している「春夏秋冬」という屋号のパン屋があります。売り場は高速神戸駅の地下と垂水駅周辺の2か所です。 その食パンを賞味すると、病みつきなるほど美味しいようです。

いつでも買えるのではなく、販売時間は11時30分、14時30分、17時:00分の3回になっています。値段は通常の食パンより3割ほど高く、店頭に上記の売り出す時間の約1時間前からお客は並び出します。売り出す時間に売り場に行くと、すでに40人程の行列ができ、30分ほどで売りきれてしまいます。場合によれば、買えなくなるときもあるようです。

製造販売方法はシンプルそのものです。予約の煩雑さもなく、多様な商品では売れ残り、販売予測などいろいろな思考が必要となりますが、ここでは食パンの味の品質管理を徹底することだけに、力を注ぐことになります。商売する上での戦略は大いに参考になります。

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優れた戦略はシンプル

「シンプルな戦略」とは、誰にでもわかる簡潔な戦略だ。「戦略はー言で言えるか」これが、ンンプルな戦略の最も重要な要素である。戦略目的や達成したい目標が明快かつ具体的で、目指す方向性が一言で簡単明瞭に言えることが最上の戦略と言える。

そして戦略のWhatと、その背景であるWhyもわかり易いことが重要である。 Whyーなぜこの戦略がよいのか、なぜこの戦略で目的が達成できるのか。なぜこの戦略が他のものより有効なのか。

こうした基本的な問いに対して、「Aという目的のためにB戦略で行く。それがなぜいいかというとC、D、Eの理由による」とロジカルに答えられることである。 WhatもWhyも明快である戦略は、考え抜かれ議論尽くされ絞り込まれていく。

戦略を明快なものに磨き込むプロセスがメリハリやフォーカスを、そして簡潔さを生み出すのである。 シンプルであるがゆえに、誰にでも伝わりやすく覚えられる。一言で言い表すことができるという長所を持つ。

顧客に喜ばれる、競争に勝つ、儲かる

3大基本要件とは、シンプルな次の質問に答えられることである。

1.顧客にとって、うれしいことかどうか(顧客価値)

2.それは他の会社とは違うのか(差別化)

3.自社は儲かるのか(収益性)

第1の要件、事業とは顧客のニーズを満たす何らかの価値を提供してその対価を得る活動だと言える。自社の優れた技術やアイデアや能力を駆使した製品やサービスを市場に打ち出し、競争相手に勝つために必要なことを行っても、顧客が価値だと認めてくれなければ、事業活動の本質とはなりえない。

事業活動の方向性やプラン作りである戦略は、この基本の基本を外してしまっては、その存在意義がない。その戦略を展開して顧客が喜ぶかどうかは、最も重要な戦略の要件である。

第2の要件、つぎに、事業は常に競合他社と市場で競い合っているものだ。たとえ、自社の製品やサービス、その他の行為が顧客を喜ばせることができたとしても、それはすでに他社が提供しているものと同じであれば、顧客にとってユニークな価値とはならない。事業を発展させる道筋である戦略の真価は、自社独自の価値を生み出すことであり、競合と同じものを描いても、それは果たされない。

3第の要件、上記の1、2は、戦略が戦略足りうる必要条件だ。この2つを満たすことは、容易なことではないが、それができなければ戦略は始まらない。この2つが充足されていても、その結果、自社に何ら経済的な価値、収益をもたらさないのでは、その戦略が長続きしないであろう。

儲からないもの、赤字なものを継続することは事業の本道ではない。「それで儲かるのか?」は、十分条件のような第3の要件である。 企業内には目前のやるべきことが山積しており、それを片づけるのに忙しい。しかも自分の今いる地点からこれから歩む道を見がちだ。そうなれば、どうしても近視眼的になり、今自社ができる、あるいは自分がしたい、と思っていることから考えてしまうのも不思議ではない。

たとえば、立派な会社で業績もいい会社のトップであっても、今後の事業展開を語っているときなど「悪いアイデアではないと思いますが、他社にすでに同じようなサービスがあるのでは?そことはどう差別化されるおつもりですか」と質問すると、「えっ?」とロこもってしまうことがある。2番目の質問に答えていないのである。

3番目の質問に答えられないケースはもっと多い。お客さんも喜ぶだろうし競争にも勝てるだろう。「で、儲かるのかい?」となったときに、それに対する答えがはっきりしない。今は難しくてもこうなれば大丈夫だという確かな見通しがあればよいが、それがない。一生懸命頑張れば5年先、10年先にはそうなるはずだという、実に現実味のない話だったりする。

新ビジネス参入の典型的な成功パターン

まったく新しい業種や業態、まったく新しい商品を展開する場合は、この3大基本要件を満す有名な成功パターンを2つ挙げよう。 競争や収益性などを一切気にせず、自分が非常にワクワクするようなこと、消費者にとっても楽しいことを一心にやっていたら、結果的にそれがイノベーションを生み出したというケースだ。スティーブ・ジョブズ率いる創業時のアップルが代表例だろう。

もう一つは、3大基本要件の1、2に対しては明確な自信があるが、3の儲けるとことができるかという点については、当面は儲けを出すのは難しいが規模が大きくなれば可能という見通しがあって、その論拠もきちんと押さえられているケースだ。国内初のコンビニエンスストアであるセブンーイレブンはその代表だろう。

たとえばコンビニエンスストアという業態はフランチャイズ契約であり、本部が負うコストは基本的に投資であり、大部分はITシステムとサプライチェーンの設備と加盟店への経営指導を行うフィールドカウンセラーの人件費である。このうちサプラチェーンは外部設備を活用すれば、自社が負うのはITシステムと人件費となる。

この二つは典型的な固定費なので出店数が増えて損益分岐点をクリアすれば、そこから先は収益性が高まっていく。しかもドミナント戦略によって一定エリアに集中して出せば固定費の回収はより早く済み、より高い利益を出せるようになる。セブンーイレブンの成長戦略は、少なくともこうした理屈をしっかり押さえたものであったと思う。

実際の企業に見るシンプルな戦略

シンプルな戦略の代表例ユニクロの戦略 「独自の付加価値を持った目玉となる戦略商品をかく徹底的に最大限売る」ことだと言える。

ユニクロは1997年頃からアメリカの大手衣料チェーンGAPをモデルとして、他社に先駆け製造小売りを採用した。これまでの小売業ではアパレルなどの卸から商品を仕入れ店頭に並べることが一般的だったが、自ら商品の企画を行い海外の協力工場で生産し、生産から販売までを一貫して行う体制を作った。

1998年には当時300店舗を持つ大量販売の強みを活かして、1万円以上が当たり前だったフリースを1900円という低価格で販売。200万枚を売り上げフリースブームを呼んだ。同素材で大量に作るとから2000年には51色でのバリエーションを展開、同年2600万枚を売り上げている。

優れた機能の衣料が低価格であるため、複数枚持ちファッションとして楽しむことを可能にした。 全商品の中でそのときに最も推すべき商品がはっきりしており、その商品をとにかく徹底的に最大限売る。

100万、200万という単位ではなく、何千万枚を売る。ヒートテックは発売から10年の累計数では、約3億枚を売り上げている。重要なポイントであり同社が強い理由でもあるのは、その目玉商品を徹底的に売るというその戦略が組織内の全員で共有できているということだ。

ただ根底にあるのは「目玉となる単品をとにかく徹底的に大量に売る」という基本戦略だ。このやり方は、他社には到底真似ができない。売りさばくことができる量がケタ違いだからだ。圧倒的販売量をバックに川上まで遡って世界中の素材メーカーと直接交渉し高品質・高機能・大量安定調達・ローコストを同時に実現できたことが、同社の差別的優位性である。

最もスケールメリットが利く目玉商品を大量に売ることで、非常に高い収益性を実現し、自社の利益にも大きく貢献したモデルでもある。 すなわち3大基本要件を満たし、戦略としての論理もクリアなのである。

参考文献:『シンプルな戦略』 山梨広一 著/東洋経済新婦報社

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