■知的機動力を・・
社員一人ひとりが即興の判断力を身につけるには、どうすればいいのか。その根本的な要因として、「何がよいことなのか」という共通善の価値基準を持たなければなりません。 「何がよいことなのか」という価値基準をベースにしながら、状況に応じて最適な判断をしていきます。
もし、判断が間違っていたら、即、フィードバックし、次の目標に向けて改革していきます。 この即興の判断力には、論理や分析よりも直観的な察知力が大きく働きます。
企業や組織において、社員やメンバーたちが「何がよいことなのか」という共通善を価値基準として持つことにより、それを目指そうとする思いが共有され、利益至上主義ではない共同体的な組織が生まれます。 その組織では一人ひとりが即興の判断力を発揮し、機動力が生まれます。
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JAL再生の本質は全員経営にある
JALの倒産に至る最大の病根は、鮮明に見えていた自分の眼で見る世界をいつのまにか失い、他人事のように眺めるだけの傍観者的な立場に甘んじるようになってしまったからでしょう。
V字回復を実現できたのは、更生計画のうえに、稲盛氏がフィロソフィとアメーバ経営の二本柱を導入したことにより、社員一人ひとりが実践知を発揮し、全員経営を行うという「実践知を持つ組織体」へとJALが変身したことが大きいと思われます。
予想をはるかに上回る実績をあげることができたいちばんの要因は全JAL社員のたゆまぬ努力であり、自主的な取り組みにより、計画より数百億円も多く経費を削減できたことが大きく寄与しました。
稲盛氏が「フィロソフィ」と「アヌーバ経営』を導入した理由
稲盛氏はフィロソフィ、哲学の構築から入ったのです。JALの社員として、我々はどう生きるべきか、どういう仕事の型を身につけたらいいかを、社員みんなに徹底的に考えさせたのです。
同時に、「熱意」を引き出したのが、導入した部門別採算管理制度の会計システムでした。アメーバ経営はもともと、組織を小集団に分け、社員一人ひとりが自由度を持ち、市場環境と連動しながら、独立採算制により運営し、自分たちで経営の数字を変革して、時間当たりの採算の最大化を追求する仕組みです。
それにより、経営者意識を持ったリーダーを育成し、全従業員が経営に参加する全員経営を実現する経営手法です。破綻前、経営企画本部から与えられる数値目標は、現場の実態とは乖離した「意味のない数字」でした。これに対し、破綻後に導入されたアメーバ経営における数字は、自分たちで自律的に生み出す「意味ある数字」であり、強いコミットメント(主体的関与)が引き出されました。
だからこそ、以前は数字に対する感覚が希薄で、経営実績に対する関心を持たず、稲盛氏から「八百屋も経営できない」と痛罵されたほど、評論家的言動が目立った幹部たちも、当事者意識が薄かった現場の社員たちも、自らのコミットメントで数字が変化するのが面白くなり、「熱意」が高まっていったのです。
1) JAL再生の本質
アメーバ経営においては、一人ひとりが、最善の判断を行わなければなりません。明確な「考え方」を持ち、強い「熱意」を持つようになったJALの社員たちが発揮した能力、それはまさに、実践知にほかなりません。
具体的に、キャビンアテンダントたちは自分たちの機内持込荷物の減量作戦や売上増にも取り組みました。
JALフイロソフィのなかの「売上を最大に、経費を最小に」「公明正大に利益を追求する」「採算意識を高める」といった項目を判断基準から、「燃料節約」という目的のもとで、仲間たちと知恵を出し合う場をつくり、自分たちの身のまわりの現実のなかで何ができるかを直観し、それを「1日1人500グラム減」という物語性を持ったプロジェクトにしました。
オフィスに体重計を置くという手段を駆使して実現しました。 また、地上スタッフは壊れた拡声器はコストも考えずに修理に出したり、買い替えたりするのが通例でした。しかし、アメーバ経営導入後、誰もが経費削減を強く意識するようになり、壊れた拡声器を自分たちの手で修理できるのではないかという思いを抱くようになり、使える部品を活用し、「2台を1台にする」といった再利用プランも考え出しました。
2)JAL再生の本質
フィロソフィ教育とアメーバ経営が徹底したことで、現場の一人ひとりが「経営者の意識」を持って判断し、全員経営が実現しました。その結果、経営の効率性は新しい価値を提供するという創造性の両方を生み出せるようになりました。
例えば、一つの便は一つのアメーバと見ます。そこでは、キャビンアテンダントは機内に持ち込む自分たちの荷物の減量作戦を行いました。パイロットは安全を優先しつつも、常に燃料節約を念頭に置いて運航しました。
地上スタッフは出発時間遅延による経費増を防ぐため、全乗客を出発時刻前に案内することを徹底するなど、一人ひとりがJALフィロソフイを価値基準にしながら、収益を最大化するための創意工夫が行われました。
個々のアメーバすなわち、そこにかかわるすべての当事者たちが、自分の役割と価値を理解し、自らを動機づけながら、自律的に動き、より高質な知が創発されるようになり、自己組織化しているのがわかりました。
硬直した官僚制階層組織から組織のすべてのレベルで組織全体と同じ決断ができる組織へ転換し、それぞれのアメーバが自己組織化していった。それがJAL再生の大きな原動力になったのです。
3)JAL再生の本質
自己組織化した組織やチームが、変化への即応性の高い知的機動力を発揮できると、典型が臨機応変の機材変更です。例えば、前日までに予約率が50%しかなければ、大型機から、定員が半分程度の機材に変更し、搭乗率を90%ぐらいまで高めて運航する。
機材が小さければ、燃料費、空港に払う着陸料など各種料金、整備料、空港サービス料、客室乗務員の人件費などが抑えられます。まさに機動戦です。以前は、予約率にかかわらず、大型機を飛ばしていました。
ただ、機材の急な変更には、整備本部の協力が不可欠です。パイロットは機種ごとに免許が必要なため、運航本部には運航乗務員の変更を頼まなければなりません。部門問の壁を越え、連携が可能になったのは、フィロソフィが共通の価値基準として導入され、それをともに目指そうという思いが共有され、共同体的な組織が醸成されたからにほかなりません。
4)JAL再生の本質
戦後、半官半民で設立されJALは、ジャンボジェットの累計保有数が一時期、世界最大の時期があり、海外のエアライン相手に消耗戦を展開しました。また、その間、高コスト体質、根深い派閥争いに政権抗争、泥沼状態の労使対立、膨れ上がる借金、親方日の丸の体質、指示待ち社員の蔓延、顧客視線の欠落等々、数々の慢性的な問題を抱え、改革が後手に回り、ついに経営破綻しました。。
任された稲盛氏はホテル暮らしをし、夜はコンビニのおにぎりを食べ、再生に全身全霊を傾け、範を示しました。それは「徳のある人と共振・共感・共鳴するコミュニティ経営」というべきもので、多くの徒弟が育てられました。。
そのなかから元パイロットの植木氏を後継に選んだのは、「パイロットの知」に企業経営と相通じるものを見たからでしょう。飛行前はフライトが立体に見えるまでイメージする。飛行時はマニュアルに頼らない。常にものごとをシンプルにとらえ、本質をつかむ。努力を重ねて感覚を錬磨すれば、理屈抜きで結論が出せると、稲盛氏が判断したといえる人事です。。
従来、現場を知らない経営企画の幹部が論理分析的に導き出した目標数値をトップダウンで下した結果、現場では計画と実行が乖離していました。従来、現場を知らない経営企画の幹部がMBA的に論理分析的に導き出した目標数値をトップダウンで下ろし、結果、現場では計画と実行が乖離していました。。
知と行の分離です。これを改め、自分たちで計画し、路線を生み出す知行合一の路線統括本部を経営の中核にすえました。。 立派な会社や組織にしたいならば、まずリーダーが、自分の人間性、人格を高めることが何より大事です。経営を伸ばしたいと思うなら、心を高めなさい。。
また、問題に直面した時に、判断し、決断するのが会社のリーダーです。いろんな戦術・戦略がある中で、何を取捨選択して会社を経営していくかは、リーダーの価値観、もっと言うと判断基準にかかってきます。ですからリーダーというのは、フィロソフィ、つまりその人が持つ哲学が立派なものでなくてはなりません。と稲盛氏は力説されています。
参考文献:『全員経緯』 野中郁次郎、勝見明 共著/日本経済新聞出版社