■リーダーシップの要素とは
業績向上の大きな要因は社員全員が会社の理念、目標に一丸となって取り組むことです。そのためには、トップが下記のように啓蒙し、リーダーシップを発揮することが重要です。
・組織のミッションを明確に掲げ、ロイヤルティーを高める。
・事業の将来.性や魅力を前向きに表現しモチベーションを高める。
・常に新しい視点を持ち込み、やる気を刺激する。
・部下一人ひとりと個別に向き合いその成長を助ける。
部下が何を考えているのかを理解しようとする姿勢、共感力や傾聴力は、一般的に社会性が高いと言われています。 思いやりや親しみやすさ、誠実さなどを武器にリーダーシップの一つのスタイルを築いていくことは、女性にとっても男性にとっても新しいリーダー像となりそうです。
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これからのリーダーシップに向く人は
いま日本のビジネスメディアで最もよく使われる言葉は「リーダーシップ」でしょう。企業・組織を率いる個人にどのようなリーダーシップが必要かは、重要な経営課題です。
リーダーシップには2種類あります。「トランザクティブ・リーダーシップ」と「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」です。まずトランザクティブ・リーダーとは、部下の自己意思を重んじ、取引のように(=トランザクティブ)部下とやりとりするリーダーです。部下に対して「アメとムチ」をうまく使えるタイプのリーダーともいえます。
これまでの研究で、トランザクティブ・リーダーシップは3つの資質に分解されることも分かっています。第1の資質はコンティンジェント・リワード」です。日本語では「状況に応じた報酬」となります。
成果をあげた部下に対して正当な報酬をきちんと与えることです。ここでいう「報酬」は金銭的なものや昇進だけでなぐ、「よくやった」と声をかけるようなことも入ります。
つまり、部下が自分の成果に対して「きちんと評価されている」と満足し、そのさらなる行動・成果を促すことになります。 第2の資質能動型は、部下が何か問題を起こす前に「そのままだと失敗するぞ」と介入するタイプです。
第3の受動型は、部下が失敗しそうでも敢えてそこで介入せず、実際に失敗してから問題に対処するタイプのリーダーです。「アメとムチ」を重視します。 なお、この3つの資質は、必ずしも互いに相いれないものではなく、一人のリーダーが複数の資質を持ち得ます。
もう一つのリーダーシップは「トランスフォーメーショナル型」です。1980年代に米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のバーナード・バスが分析して以来、この概念はリーダーシップ研究で重要となりました。 トランスフォーメーショナル型リーダーが重視するのは「啓蒙」で、4つの資質から構成されます。
(1)組織のミッションを明確に掲げ、部下の組織に対するロイヤルティーを高める。
(2)事業の将来.性や魅力を前向きに表現し、部下のモチベーションを高める。
(3)常に新しい視点を持ち込み、部下のやる気を刺激する。
(4)部下一人ひとりと個別に向き合いその成長を重視する。
リーダーシップの種類は、業績に影響する
米ノースカロライナ大学グリーンズボロ校のケヴィン・ロウェら3人は組織の成功の重要性について研究を行った。「トランスフォーメーショナル型の4資質は、組織パフォーマンス・部下の満足度のいずれとも正の相関を持ち、トランザクティブ型の中では、第1の資質『コンティンジェント・リワード』が部下の満足度と正の相関がある」となりました。
また、2003年にバーナード・バスらの研究者が米陸軍のライフル小隊のデータを使った統計分析をしました。トランスフォーメーショナル型の4資質とトランザクティブ型の「コンティンジェント・リワード」を持っている隊長が率いる小隊ほど、軍事シミュレーションでの成績が良くなるとのことでした。
傾向として、「相対的にトランザクティブ型よりも、トランスフォーメーショナル型の4資質を持ったリーダーのほうが、高い組織成果につながりやすい」となっています。また、トランザクショナル型の資質の中では、第1のコンティンジェント・リワードが高い程、組織成果につながります。
日本に必要なのはトランスフォーメーショナル型?
トランスフォーメーショナル型のリーダーシップが望ましかは条件付きである。という説もあります。興味深いのは、2001年、現欧州経営大学院のパニッシュ・プラナムは、フォーチュン誌の世界主要500社の中の48社のCEOのリーダーシップの型と、その企業の事後的な業績の関係を統計分析しました。
「トランスフォーメーショナル型のリーダーシップは、不確実性の高い事業環境下にある企業においてはその業績を高める」のに対し、「事業環境が安定しているときには、むしろ企業業績を押し下げる」ということでした。 日本では、ソフトバンクの孫正義氏や日本電産の永守重信氏のようなカリスマリーダーの創業経営者です。まだ企業として若く事業環境の不確実性も高いから、カリスマカが必要といえます。
逆に、既に成熟している企業や、何らかの理由で事業環境が安定している企業なら、このようなリーダーを抱えるのは、もろ刃の剣になりかねないのです。近年の日本の事業環境は、全般的に不確実性が高まっている可能性は高いといえます。
とはいえ、これからの日本では、起業したり、新規事業を起こしたりするようなリーダーが求められていることは間違いありません。そしてこういった新規事業は、当然ながら不確実性が高くなります。やはりこれからの日本に望まれるのは一般にトランスフォーメーショナル型リーダーといえるのではないでしょうか。
近年の経営学で明らかになりつつある1つのファクターは実は「性別」です。しかも、男性よりも女性のほうが、トランスフォーメーショナル型のリーダーの資質を身に付けやすいとのことです。
トランスフォーメーショナル型になりやすいのは女性
米ノースウェスタン大学の心理学者アリス・イーガリーは、男女によるリーダーシップの違いを45本の研究を集計し分析しました。
これまでの研究で組織成果を高めるとされた「トランスフォーメーショナル型の4つの資質」と「トランザクショナル型のコンティンジェント・リワード資質」で、女性が男性を上回ったのです。
女性は矛盾した「役割』を期待される
―般に持たれているステレオタイプなリーダー像とは、「自分の意志を強く示し」「時には手段を選ばず、独善的に目的を達成する」といった、「力強い、男性的な」イメージではないでしょうか。
一方、世間のステレオタイプな女性像とは「優しい」「独善的でない」「自己主張」がそれほど強くないといった、ソフトなものです。ステレオタイプなリーダー像はそもそも男性同像に近く、ステレオタイプな女性像とはギャップがあるのです。したがってリーダーになった女性は、周囲から「力強いリーダー像」と、それとは真逆の優しい協調的な女性像」という、二つの正反対の期待にさらされ、本人も周囲もそれを意識して行動します。
女性は啓蒙型の資質を身に付けやすい
ステレオタイプな二つのイメージのギャップを克服するため、男性よりもトランスフォーメーショナル型のリーダーシップをとろうとするからです。
トランスフォーメーショナル・リーダーシップは、前向きで楽観的なビジョンを示し、新しいアイデアで部下のやる気を刺激し、そして部下一人ひとりをきちんとケアするような、男性的でもあり女性的でもあるリーダーシップです。
これからの女性リーダーの登場に期待
最近は日本でも女牲のビジネスリーダーが注目されるようになりました。起業家としては、DeNAの南場智子さんやネットイヤーの石黒不二代さんが筆頭でしよう。
また、マザーハウスの山口絵里子さんも若い人々を中心に支持されています。大手企業では、2014年に野村ホールディングス傘下の野村信託銀行社長に、銀行業としては恐らく初めて女性の真保智絵さんが就任しました。メガバンクでもみずほ銀行の有馬充美さんが初の女牲執行役員になりました。
伊藤忠商肇の茅野みつるさんが大手商社で初の女牲(しかも同社最年少の)執行役員に就任することが話題になりました。日本ではこれから望まれるトランスフォーメーショナル型のリーダーは女性の可能性が高いとおもわれます。
参考文献:『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』 入山 章栄著/日経BP