ビジネスの戦いに勝つ条件

現在の企業を取り巻く環境は変動の激化と多様化、複雑化です。もはや経験や勘を頼りに経営の舵取りをすることは難しい時代になっています。そのため分析力への関心が高まっています。

?その分析から状況をすばやく察知し、行動を起こすとき、どのような手段が効果的なのか、そして実践後の影響などを検討するために、予測やシミュレーションといった手法を用いることとなります。

経営とは継続的かつ計画的に事業を遂行することを意味し、「思いつき」や「勘と経験」に頼った事業の運営はあたりはずれがあり、大きな問題に遭遇します。このように考えると、分析を抜きにして経営は成り立たないといっても過言ではありません。

飲食業界では回転数、原価率の関係を分析し、高価な食材を使用し、あっと思わせる価格で超人気店になった事例があります。この競争優位性がビジネスの戦いに勝つ条件となっています。

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立ち飲みの居酒屋と星付きレストランからヒント

坂本氏はブックオフコーポレーションを退任2年後の2009年、知人に勧められ証券マンだった安田氏、料理人の森野氏と、3人で飲食業のやきとり屋を開業した。 従来型の串焼き屋は、すでに他社がひしめき非常にやり辛く、苦戦した。

ここはと思うさまざまな飲食店へと、3人で視察に駆け巡った。不最気だと言われる時代にもかかわらず、毎日毎晩ムンムン活気づき繁盛している一つは、立ち飲みの居酒屋だった。もう一つ、ミシュランガイドの星付きレストランです。直感で、じゃあ「この二つをくっつけてしまえ!」と閃いた。

フード原価率88%でも赤字にならない業態

ビジネスを組み立てる時は「競争優位性」だ。これを差別化要因として、参入障壁を高く維持する。新業態に、立ち飲み居酒屋とミシュラン星付きシェフを合体させると決めた。ポイントは回転数がキーとなる。結果、立ち飲みの業態であれば、回転数を上げられる。

原価率を高くし、料理の質を上げてもいけると踏んだ。回転するのであれば、フード原価率を88%にしてもチャラになると。高級レストランのフード原価率は18%ぐらい。そこで90%にするなら、価格は1/5となると。料理ひと皿3000円の1/5だと、600円。それより少し安く580円にする。3000円のものを500円台で売る。お客さまはいくらなんでも驚くはず。

「俺のイタリアン」では580円を最多価格帯にした。企業戦略は価格構成の中の最多価格帯に対してどれだけの価値を維持できるかが勝負。思い切りがなければ、新業態は怖くてできなかった。絶対にオンリーワン、ナンバーワンでないと生き残れない世の中だから。

そもそも立ち飲みとは、原価率を高め回転数を上げることで導き出したビジネスモデルだ。これを土台に「受け入れられるメニューは何か」、「適切なボリュームはどれくらいか」、「トリュフ、フォアグラといった高級食材を、どんな料理に使えるか」これらのことを試行錯誤し、試食会を繰り返し開発した。

「20坪」「1階」.大商圏の立地を求める

原価率を高めて回転数を上げるためには、人口の多い、集客できる立地でなくてはいけない。あちこち探す中、偶然にも、新橋に1階の物件の紹介を受けた。物件はたったの16坪。

料理をしている料理人のシーンがお客さまに楽しく伝わる雰囲気を演出するためにオープンキッチンにしたいと思っていた。さっそくピッツァの焼き窯を中心にしたレイアウトを考えた。極めてシンプルな内装だ。

「おいしいこと」「親しみやすいこと」を追求

フードメニューの原価率は、料理人さんたちの常識と、安田氏が考えるインパクトのある価格にかなりの差がありました。その差をどれだけ埋められるか、安田氏が考える価格にどれだけ近づけることができるか、食材やボリュームの工夫をした。フードメニューの大前提は、「おいしいこと」だ。できるだけ一番いい食材を、どれだけたくさん使えるかということを考え抜いた。

世の中の料理人さんは、これまで原価率にシビアになって料理をつくってきた。その部分を一番に変えるのだということを、わが社の料理人に伝えた。 当時を振り返って森野氏は「飲食業で長く働いていたので、「原価率は30%以内に収めなくちゃいけない。その中でお客さまにおいしいと思っていただける料理をつくるのが料理人だ」と教えられていた。でも、坂本氏と安田氏の意見は、驚くような食材をふんだんに使用し原価率を高め、そのボリュームを見せることが一番大切であると。

「そんなことができるのかな」という気持ちは、やはり心のどこかにあった。でも、シミュレーションしながら、実際に取組を行った。原価率も回転数も上げるというやり方は、やってみなければ分からなかった。

「ピッツァ580円」価格だけを見ると、「どうせ、変なピッツァなんでしょ」と思われるのではないか。だが、星付きのシェフが本当に厨房に立っているという組み合わせに、「なにそれ? そんなにおいしくて、そんなに安くていいの?」と、お客様の関心が強烈に高まっていくことも期待した。

16坪だと、月商の上限は350万円じゃないか。原価率を上げたって難しいと思うよ」との皆の予想だった。月商1000万円と目標を掲げた。そして、2011年9月21日、新業態の1号店となる「俺のイタリアン」がオープンした。

16坪で月商1910万円を達成

オープンの初日は台風の夜で、サイレントオープン。その後しばらくは、繁盛店には程遠いものであった。しかし、1カ月もたたずして、お客さまがみるみる増えはじめた。驚いたのは口コミのすごさ。「580円で大きなピッツァが食べられる」、「メニュー全部にボリュームがあって、安くておいしい」 1人のお客さまがたまたま通りかかって入店し、安くてお得感を感じ、翌日には必ず2〜3人のお客さまを連れて来た。

「ボリュームがあって、めちゃくちゃ安くて、3000円でおつりがきた」こんな具合に、実際に来店したお客さまの話には迫力があった。また、圧倒的なお値打ち商品として「トリュフとフォアグラのリゾット」を取り入れた。トリュフをふんだんに使用したリゾットの上に大振りのフォアグラを1枚載せたもの。1100円。原価率62%の"じゃぶじゃぶ"掛けたもので、たちまちにして人気メニューとなった。毎日来て、その度に違う人を連れて来店。

厨房ではイタリア語が飛び交じり活気がある。これは料理人からのアイデアで、独自に生まれた演出だ。声というのは、自分の仕事を愛して、仕事に誇りを持っていなければ出てこないもの。

スタッフ同士が声を掛け合うのは、お客さまとのコミュニケーションに大いに役立った。そして、オープンして1カ月半を過ぎた頃には、店はどんどん回転するようになった。オープンして丸1年となる2012年8月には1560万円、その年末の12月には1910万円の売上げを達成した。

この飲食モデルは「前代未聞」のビジネスである。高級料理、低価格の両方を同時に成し遂げた店は存在しない。そこには、食材の質、シェフの腕前、手間、価格のどれかを犠牲にしないと成り立たない。顧客満足として高級な食材に金を惜しまない。参入障壁をとりいれるため、ミシュランの星クラスの一流シェフを集める。原価率を顧客回転数でカバーする。多様な知恵の組み合わせである。

経営は、サイエンスとアートを融合して物事を実行する能力が求められている。坂本氏は飲食業界で安田氏の科学的合理性と森野氏の料理人間的知恵をうまく組み合わせることで、革新的な方法でお客さんの回転と料理人が作る高級で豊富で、美味しい料理を、リーズナブルな価格メニューを創造した。

参考文献:『俺のイタリアン 俺のフレンチ』( 坂本孝 著/商業界 )

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