■ 逆境力 "折れない心"の育てる
おおよそ誰にとっても、失敗というのは不快な体験です。何度か失敗を経験すると、怖れや不安、羞恥心などのネガティブな感情に囚われやすくなります。「次も失敗するのでは?」と不安に駆られたり、「もう失敗したくない」との思いから、行動することや挑戦することを避けてしまったりしがちです。
もちろん、それは感情のはたらきとして自然なことでしょう。ただ、すべてにおいて完璧な人間などいませんから、失敗することもまた自然です。過度に失敗を怖れたり、自分を責めたりする必要はないと気づけば、私たちはもっとリラックスして課題に向き合えるはずです。
また、心に芽生えたネガティブな感情を否定する必要もありません。自分が抱えている苦しみから目を逸らさず、その存在を認めることから始めましょう。悩んでいるときはつい、自分だけがつらいような錯覚に陥ってしまいますが、生きている以上、楽もあれば苦もあるのは至極当然です。想像力をはたらかせ、皆それぞれに苦しみがあるのだとイメージすることで、穏やかな気持ちを維持できるかもしれません。
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「レジリエンス」 ―― 厳しい時代を生き抜くために
近頃、職場や学校などで注目されている「レジリエンス」というキーワードがあります。耳慣れないカタカナ語で、この単語が意味するところを一言で表すのは難しいのですが、「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「克服力」「逆境力」などと訳される心理学の用語です。
テクノロジーの進化に伴い、私たちの生活水準は飛躍的に高まり、快適に暮らせるようになりました。物理的な負担がずいぶん減った一方で、精神的な負担(不安やストレス)に苦しむ人は、むしろ増加傾向にあるようです。
困難に直面することも逆境に立たされることもなく、少しも傷つかずに生きてゆけたなら、さぞかし楽でしょう。ただ、それでは人生の意味やしあわせまで薄れてしまいかねません。
重要なのは困難を避けることではなく、その困難にいかに立ち向かっていくか、挫折しそうな状況からいかに立ち直るかです。そのとき役立つのが「レジリエンス」です。
成長と諦めの分岐点
窮地に陥り、悩み苦しんだのちにどんな選択をするかは、大きく分けてふたつの道があるでしょう。ひとつは絶望に打ちひしがれて目標に向かうことをやめてしまうパターン、そしてもうひとつは、それでも諦めずに挑戦し続けるパターンです。
後者の場合、苦しみの過程で耐えることや努力を重ねることの大切さを学び取るのですが、そのためには楽観性と忍耐力を備えていることが条件となります。<
ペンシルベニア大学 A・ダックワース博士の「不屈の精神」に焦点を当てた研究によると、一人ひとりが持つ独自の能力(才能)が開花してスキル(技能)となるには努力という要因が必要不可欠で、スキルと努力とが共働したときにはじめて目標達成に至ります。そのような図式において、楽観とレジリエンスは不可分に結びついていると考察できます。
「人生は変えられる」と知ることが第一歩
似たようなつらい経験をしても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる人とならない人がいます。その差に深く関わっているのがレジリエンスなのです。
そんなレジリエンスですが、一種のテクニックとして、短期間のトレーニングで習得することも可能です。その根底にあるのは「自分の人生は変えることができる」というコミットメント(全人的関与の姿勢)であると、専門家は指摘しています。
下の表は、同じ逆境を経験したとき、それを乗り越えた人たち、あるいは乗り越えられなかった人たちの間に観察された共通点をまとめたものです。 物事が思い通りにいかなくても諦めず、主体的に関わり続ける姿勢を持つことがどれほど重要であるかがよくわかるでしょう。
最大の問題は「繰り返すこと」にある
ところで、ネガティブな感情において厄介なのは、その感情が生まれることや存在することそのものではありません。感情をうまく処理できなかった結果、心の中で延々と繰り返され、場合によっては増幅されてしまうことがいちばん大きな問題です。
ネガティブな感情が反芻されていると、その後の思考や行動までネガティブに染まってしまいます。さらに、高血圧や心臓系の病など、健康上のリスクまで高まってしまうのです。
理不尽な扱いを受けたとき、不誠実な対応をされたとき、深く傷つくことを言われたときなどは、怒りを感じて当然です。ただ、そこでネガティブな感情に囚われ、縛られ続けることのないように気をつけましょう。なぜならそれは、自分で自分を苦しめる、不毛な悪循環だからです。
まず「そのまま感じる」、そして「すぐに解消」
まず「そのまま感じる」、そして「すぐに解消」 レジリエンス・トレーニングでは、ネガティブな感情が芽生えたら、無視することも抑圧することもせず、そのまま感じとることを大切にします。「感情認知」と呼ばれるこの方法を習慣づけることで、自分がつらい思いをしていることを客観的に受け止め、過剰な繰り返しに陥るのを防ぐことができます。
自分に合った気晴らし法をみつけておくことも効果的です。ストレスを感じたときはすぐに解消することが理想ですが、仕事中はさすがに難しいでしょう。そういうときでも、せめて当日中に対処するよう心がけ、家庭に持ち込んだり、宵越ししたりすることのないようにします。
そうすれば、安眠の確保にもつながり、朝には爽快な気分で目覚められます。このサイクルはレジリエンスのある働き方をするうえで非常に大切です。
運動系の気晴らしは一石二鳥
いい気晴らしが浮かばない人には、ダンスや水泳、ウォーキング、ジョギングなど、体を一定のリズムで動かす運動がおすすめです。これらの有酸素運動は体の健康に効果的であることはもちろん、ストレスを軽減し情緒を安定させるなど、心の健康にもプラスになることがわかっています。
最近の研究によると、ウォーキングなどの負担が軽い有酸素運動は自信を回復させるのに役立ち、しかもその効果は5年間続くそうです。大脳皮質の前頭葉が活性化するので、脳を若々しく保つのにもぴったりでしょう。
他にも、テニスには怒りやフラストレーションを静める効果が期待できます。ボールを「パシーン!」と打ち返すあの感覚がイライラを吹き飛ばしてくれるのです。泳ぐことは気持ちを穏やかにし、不安を抑えます。柔道や空手などの武道は憂鬱な気分を改善し、マラソンは自信を高めます。
今後、しなやかに困難を乗り越える力はますます重要になってくるでしょう。怖れや不安、逆境や挫折を克服してこそ、真のやりがいや生きがいを見出せるのではないでしょうか。努力して乗り越えた困難の先にはきっと、ほんとうのしあわせが待っています。
参考文献:『PRESIDENT』( 2010年5月3日号 / プレジデント社 )