脳を鍛える

年齢を重ねるにつれ、物忘れが増えたり、やる気が低下したりするのは仕方のないこと…そんなふうに考える人は多いでしょう。もちろん、使わなければ脳は衰えます。けれども、そこで諦めてしまうのはもったいない。しっかりと鍛え続けさえすれば、脳はいくつになっても成長するものだからです。

残念なことに、ほとんどの人が自分の脳の力を過小評価しているようですが、脳の限界を決めるのは自分自身です。脳の寿命は長く、最近の研究によると120歳まで生きる力を持ち得るそうです。

加齢に伴って細胞の数は徐々に減少しますが、それでも細胞が存在する限り、神経ネットワークは発達し続けます。このネットワークこそが、脳のはたらきのカギなのです。

医師の加藤 俊徳氏は、日米で1万人以上の脳のMRI画像を解析してきた経験から、一人ひとりの脳はそれぞれ異なっていて、脳の成長具合がその人の個性や人生と直結していることを確信しました。そして、「脳番地」という独自の概念を用いて、効果的な脳のトレーニング方法を提唱しています。

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脳は まだまだ鍛えられる!

MRIの画像で脳を見ると、まるで木のように見えます。

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黒っぽく映し出された枝状の部分はネットワークをつかさどる神経線維の束で、ここでは「枝ぶり」と呼びます。その先の葉や花にあたる、灰色っぽく映っている部分が皮質で、ここでは「脳番地」と呼ぶことにします。(図1)

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脳番地は同じような働きをする神経細胞の集まりです。音を聞く番地、体を動かす番地、記憶する番地など、それぞれに役割があり、これらが協力し合ってひとつの活動を作り出すことで、複雑で高度な作業を可能にしています。(図2)

脳番地の成長は生まれたときから始まっていて、40‐50歳をピークに全盛期を迎えます。しかしその後も、老化の影響を最小限に抑えつつ、さらに脳を成長させていくことができます。

脳には あなたの人生があらわれる

世の中にまったく同じ人生は存在しません。入ってくる情報や経験の度合いが変われば、脳の成長具合も変わります。それが脳の「個性」です。

様々な情報を吸収して経験を積んだ脳番地の枝ぶりは、使い込まれてたくましく育っています。反対に、まだ使いこなされていない部分では、枝は細く未熟に見えます。つまり、枝ぶりを見れば、その人の個性や適性、長所や弱点などを知ることができるのです。

段階的に脳を育てる

8-areasヒトには約120の脳番地があり、働きごとに8つのグループに分けられます。(図3:『100歳まで成長する脳の鍛え方』より)脳は脳番地ごとに成長するため、育てたい脳番地を意識したり、普段から、どこの脳番地を使っているか意識しながら生活したりすることは、脳を育てる上で非常に効果的です。

特定の脳番地を集中的に鍛えれば、自分の能力を伸ばすことができます。脳の中は枝ぶりというネットワークでつながっているので、ひとつの脳番地を成長させるだけで他の脳番地にもいい影響を与えられます。脳番地が成長し、進化を遂げるにつれて、脳内地図は少しずつ書き換えられていきます。その結果、新しい働きが生まれるのです。

つまり、脳は日々生まれ変わっているということです。枝ぶりの成長は誰でもアンバランスなものですが、ちょうど盆栽と同じように、一生をかけて少しずつ、その枝を強く、バランスよく整えていくのが理想です。

幼児期から青年期にかけては得意な脳番地をひとつ育てることが大切です。次に、その脳番地の使い方・生かし方をコントロールする別の悩番地を育てましょう。

どんな人にもひとつくらいは発達した番地があるものです。そうした脳番地は無意識下でも使いやすく、また、使うことによりさらに発達するプラスのサイクルにあります。ただし、ひとつの脳番地だけでは、長い人生のあらゆる課題に対処することは困難でしょう。ですからやはり、なるべく多くの脳番地を発達させておくことが重要なのです。

脳番地の「旬」を作り出せ

脳番地には「旬」、つまり育ち盛りの時期があります。年齢に応じて、あるいは意図的な努力によって、より活発に成長する脳番地は移り変わっていきます。脳全体に旬が一斉に訪れるわけではなく、桜前線が日本列島を北上するようなイメージです。

脳が発達する順序は、ほぼ決まっています。寝返りをして、ハイハイをして、立って、歩いて…という運動系脳番地の旬は、生後すぐに訪れます。その後、視覚系、聴覚系、言語系へと旬は移動していきます。知的水準の高さとも関係する超側頭野の旬は30代、五感で得た情報をもとに分析したり理解したりする超頭頂野の旬は40代、思考力や判断力を担う超前頭野の旬は50代以降です。

もちろん、旬が過ぎれば成長が止まるわけではありません。大人になってから重要なのは質の成長で、これがいわゆる枝ぶりなのです。自分で自分の脳番地に旬を作り出すことで、効率よく脳を鍛え、老化に挑んでいきましょう。

たとえば、人前で話すのが苦手な人なら、伝達系脳番地に旬を持ってきます。そのためには、頻繁に発話系脳番地を使う仕事や生活スタイルを、一定の期間確保します。これが「脳にいい生活習慣」です。個性的な発想ができる人は、いつも特定の脳番地を使いこなして、その脳番地の旬を保っています。

脳番地トレーニング ステップ@ 鍛えたい脳番地を選ぶ

まずは目標を設定して、脳に目的を持たせます。といっても、具体的な将来のビジョンまで、最初から思い描く必要はありません。自分が意識したい脳番地、鍛えたい脳番地を決めるだけで十分です。

脳番地トレーニング ステップA 脳を広く使う

特定の脳番地を鍛えるとはいえ、それだけではものの見方や考え方、出てくるアイデアに限界があります。そこで、できるだけ広い範囲の脳番地を使って、脳番地同士の連携(ネットワーク)を強化することも大切です。

スポーツを例に挙げれば、球技などを行うことで、運動系脳番地を鍛えながら判断力や決断力も養えるでしょう。実際に体を動かすのが効果的ですが、たとえばサッカーゲームでも、指先を動かして運動系に働きかけつつ、展開を読む力、スペースを認識する力など、複数の脳番地を同時に鍛えることができます。

脳番地トレーニング ステップB 継続的に行う

脳の場合も、基本は筋肉のトレーニングと同じです。特定の脳番地を意識し、その周辺、あるいはその機能に関連した脳番地といっしょに、継続して鍛えていくことが重要なのです。

コツは好きなことや得意なことから始めること。そうすれば、負担にならずに続けられるでしょう。そうして、今まで育ててこなかった脳番地にも連動して刺激を与え続けることで、「なりたい自分」が目覚めてきます。

枝ぶりのいい脳には、いい花が咲きます。あなたの脳が持つ可能性を最大限に発揮するために大切なのは、夢を持ち続けること、そして、いつまでも挑戦し続けることです。

参考文献:『脳はこの1冊で鍛えなさい』(加藤 俊徳  著/致知出版社)

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