俯瞰力は読書から・・

本を読むことで得られるものはたくさんありますが、中でも有意義なのは「俯瞰する力」、つまり物事全体を「高い視点から広く見渡す力」です。 俯瞰力を身につけておくと、何か問題が起こったときにも、状況を客観的にとらえて冷静な判断を下せます。

また、一見関連がなさそうな物事の間に共通点を見出すこともできます。例えば、ダイエットと仕事の場合、前者は食欲をうまくコントロールすることが成功の秘訣ですが、これはラクをしたい欲求を抑えて仕事に励むことと「気持ちのコントロール」という点で似ています。

さらに、「私はこの出来事から何を学べるだろうか?」という「WHAT」(何を?)の発想を持てば、成長の機会は一気に広がることでしょう。 直面した課題や困難を、ただ厄介なものと思い、その場の対処だけを考えていたのでは、経験を次に生かすことはできません。

しかし、今後も同じような問題に遭遇するかもしれない、そのときのためにもしっかり向き合っておこう、と覚悟を決めれば、自ずと行動も変わり、気持ちに余裕が生まれるはずです。

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読んで終わり、では もったいない!

あなたは普段、どんなスタイルで読書をしていますか?最後まで読んで、満足していませんか?せっかく本を読むのなら、そこから得た知識や学んだことを最大限生かして、豊かな人生を送れたら素敵ですよね。

「読む」という作業は、いわば「インプット」です。それに対し、読後の行動は「アウトプット」にあたります。このアウトプットが、読書をより有意義な経験に変えてくれるカギなのです。

本を読んだら どんどん「アウトプット」しよう

アウトプットすることで、読んだ本はもっと、あなたの血となり肉となります。やり方次第では、なんとなく読んだときの10倍、20倍のリターンを得ることだって可能です。

といっても、特別なことをする必要はありません。アウトプットのパターンは大きく分けて以下の3つ。どれもすぐ実行できることばかりです。

@ 「話す」 ―― 今日の出来事を話すように

世の中には、本を読むのが大好きな人から、滅多に本を読まない人まで、いろいろな人がいます。そしてまた、読書習慣がある人の中にも、自分が読んだ本について積極的に語る人もいれば、そうでない人もいるようです。

感じたことや考えたことを人に話さず、自分だけのものにしておく気持ちもわかります。けれどもそれは、インプットに終始してアウトプットがない状態です。

友人や家族に本の話をすることも、立派なアウトプットです。相手が同じ本を読んでいたり、内容について知識を持っていたりしないと話が合わないのではと思うかもしれませんが、心配無用。その日あった出来事を報告するように、本の話をすればいいのです。

じっくり読んで理解したつもりでいても、実際は、一度読み通したくらいではそれほど頭に残っていないことも多いもの。

わかったつもり、覚えたつもりになっているだけなのです。話してみることで、自分がどの程度内容を記憶しているか、何を理解していて、何を理解できていないのかがよくわかります。 難解な本をなんとか読み終えても、「どんな本だったの?」と聞かれて返事に困るようでは、あまり意味がありません。 知識や情報を得ることに重点を置かず、「体得する」ことを目標にしましょう。

人に話すことは、理解度のチェックになると同時に、最高の思考の整理法でもあります。説明する、つまり言語化することで、情報が整理されて自分自身の理解もさらに深まります。インプットされたことは、アウトプットされることでより鮮明に記憶され、取り出しやすく(思い出しやすく)なるのです。

実は、記憶力とは覚える力ではなく、思い出す力です。アウトプットを繰り返せば、その本から学んだことをいつでも再生できるようになるでしょう。

A 「書く」 ―― 読書ノート・読書メモを作ろう

話すこと同様、書くことも理解を深めます。はじめは簡単なメモでも良いので、要点や感想、特に印象に残った箇所などを書き残しておきましょう。

内容を忘れたときの備忘録にもなりますし、将来その本を読み返したときには、自分の成長や心境の変化を教えてくれるかもしれません。

B 「行動する」 ―― 行動こそ いちばんのアウトプット

本を読んで共感したこと、いいなと思ったことは、ひとつずつでも実践しましょう。特にビジネス書などは、行動に移してこそ読んだ意味があります。

自分の生活に取り入れてみてはじめて、本や情報が本当の意味で「役立つもの」「付加価値の高いもの」になるのです。行動することは、情報を能動的に取り入れること。このアウトプットを続けることで、自分なりのアイデアや思考を形作れるようになります。

また、「何かに使えないか」「自分の立場や境遇に応用できないか」という視点を持ちながら本を読むことも、ひとつのアウトプットです。たとえば、経営者でもない人が会社経営の本を読んでも、ピンとこないかもしれません。

しかし、少し意識を変えるだけで、無関係な本もアイデアの宝庫になります。そして、そのアイデアを見つけられるのは、「この本を何に役立てるのか」というアウトプットを考えながら読んでいる人なのです。

何事も「循環させる」ことが大切

呼吸において、酸素を吸って二酸化炭素を吐くように、知識の場合もインプットとアウトプットによる循環こそ肝要なのです。川の水が絶えず流れることでよどまずにいられるのと同じです。

工芸の世界に「用の美」という言葉があります。柳 宗悦氏が進めた民芸運動で使われていた言葉で、人間国宝の職人が作った高価で美術性の高い作品よりも、無名の職人が作った日常生活で用いる身近な道具にこそ、真の美しさがあるという意味です。美しいものは、ただ飾って眺めるのでなく、使ってみることでその美しさや良さがわかると彼は考えました。

同様に、知識も使ってみてはじめて、本当の楽しさに気づくのではないでしょうか。いわば「用の楽しみ」です。英会話を学ぶとき、本やラジオで勉強するよりも、やはり実際に会話をした方が上達しますし、何より通じ合える喜びを感じられ、自信もつきます。 仕入れた知識や情報は出し惜しみしないこと。「情けは人のためならず」ならぬ「アウトプットは人のためならず」です。いつか必ず、自分に返ってきます。

「できる人」には「要約力」が必須

ビジネスの世界で成功するには、話の要点を察して素早くまとめる「要約力」が不可欠です。「つまりこういうことですね」と適切な要約ができれば、相手に一目置かれ、意見を聞いてもらいやすくなります。

この能力は、訓練すれば鍛えられます。新聞の社説を読んでまとめる練習法もありますが、文章量が少なすぎます。そこで出てくるのが読書です。 本を読みながら「この項目は何を言いたいのか」「この章は何を言いたいのか」「この本は何を言いたいのか」と、要点を集約していくのです。頭の中だけで整理するのが難しいときは、図を書いてみると良いでしょう。

重要だと感じたキーワードを書き出し、それを線でつなげば各ポイントの関連性が見えてきて、全体像を把握できるはずです。こうして、本の要約をスムーズにできるようになれば、長い会話からでも要点を拾えるようになります。

「俯瞰力」で働き方まで変わる

もうひとつ、読書で養える重要な力が「俯瞰力」です。この能力が高ければ、全体像と細部のバランスを保ち、目先の利益も大切にしつつ、将来的な展開を見据えて課題に取り組むことができます。

たとえば営業部門は会社の一組織ですが、その部門の存在意義や社内で果たす役割に想いを馳せれば、会社の全体像が見えるようになります。目の前のことだけでなく、全体を視野に入れることで、自分の仕事の意味を確認することができ、働き方もきっと変わってきます。

このように、読書がもたらす効果を意識しながら本を読めば、その本はあなたの中で価値あるものとして生き続けます。そして、読書のたびにアウトプットを心がけていけば、仕事にも人生にも決定的な差が生まれることでしょう。                             

参考文献:「読書は「アウトプット」が99%  (藤井 孝一 著 / 三笠書房)

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