知識とスキルを成果に・・

私たちは仕事を続けている限り、絶えず新しい知識や技術を取り入れていく必要があります。資格の取得、新製品に関する知識の獲得、最新コンピュータソフトの操作方法の習得など、覚えることは山積みです。

そんなとき、何をやっても短期間で、一定水準まで上手になる人がいます。新しい仕事や難度の高い仕事を与えられても、いつの間にか自分のものにしている人です。そういう人は、今まで経験してきたことから、物事の「法則」を学びとっています。そのため、新たな課題に直面したときも、自分が行うべきことを即座に察することができるのです。

せっかく努力するなら、効率のいい努力をしたいですが、さまざまな知識と経験の組み合わせから、やるべきことや到達すべき結果を明確に判断できればしめたもの。正しい意思決定さえできたら、あとは人と組織を動かし、結果を出すことに集中するだけです。

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成長のカギは「逆算思考」の誕生

どうすれば、知的能力をアップさせることができるのでしょう。少しの努力ですぐに結果を出せる人と、努力しているのになかなか結果を出せない人の差はどこにあるのでしょうか。

ビジネスの現場において、スムーズに知的能力が高まっていく「筋のよい人」には共通した特徴があります。それは「結果から逆算して発想している」ことです。

つまり、能力を上げることを目的とするのではなく、仕事で結果を出すことを目的として、それに必要な能力を作っているということ。そういう考え方が、いわゆる「筋のよさ」に通じているのです。

どんな結果を目指すか

一方、多くの人が陥りがちなのが「逆算思考」の反対、「順算思考」です。 向上心を持つことも、勉強熱心なのも結構なのですが、自分の能力を上げたいと望むあまり、目的を見誤ってはいないでしょうか。知的な作業で自分を磨くのは楽しく、充実感も得られます。けれども、本当に重視すべきは能力アップそのものではないはずです。

働いていてうれしいのは、自分の能力を生かすことで良い結果を得られたときです。クライアントが満足してくれた、消費者が喜ぶ商品を世に送り出せた、あるいは自社の利益を上げることができた、といったときですね。

人を育てるにしても、単にその人の能力が上がることではなく、それによって結果を出してくれることが大事で、そこに仕事の楽しさや喜びがあるはずです。 ですから結果を重視すること、「どんな結果を目指すか」から考えることが、最も重要なポイントなのです。

ゴルフに学ぶ「逆算思考」

結果から発想してプロセスを設計していくことが、いかに大切か。ゴルフ競技を例にとるとわかりやすいでしょう。 ゴルフの試合で好成績を収めたければ、身体だけでなく頭脳も存分に使う必要があります。

飛距離やテクニックなども、勝負に関わる重大要因には違いありませんが、それだけでは勝てません。また、日頃の練習においても、ひたすらゴルフクラブを振り回しているだけでは、上達は難しいものです。

いかに少ない打数で、グリーン上のホールにボールを入れられるかを競うのがゴルフ。グリーンからホールを狙うのが第4打として、そのグリーンの周囲にバンカーや池があれば、そちらへ行かないように注意して第3打を打ちます。

第3打の位置がイメージできれば、自ずと第2打も見えてくるでしょう。それなら第1打は、やみくもに遠くへ飛ばすのではなく、目指す第2打のポイントに落とすことだけを考えればいいのです。

結果を出すには「企画力」と「人を動かす力」

ビジネス・プロフェッショナルの仕事は、突きつめれば「企画すること」「人を動かすこと」の2つに集約されます。企画といっても、新しいアイデアを書類にまとめるといった狭い意味ではなく、企業活動の中で意思決定が必要なもの全体を指すのですが、この「企画する力」は具体的には、「課題設定力」「情報収集力」「分析力」「創造力」「統合力」の5つの力を掛け算したものです。

営業、工場、管理など、どんな部門でも何らかの知的な「企画」をしています。まずは、さまざまな情報を統合して正しい意思決定をする、つまりビジネスの目的を設定します。そして、それを周りの人に理解してもらい、チームとして動いてもらうのです。

営業であれば、この顧客にこういうビジネスを提供しようと企画し、商品開発部門や物流部門などと協力して、ときには上司も動かしながら、顧客との商談をまとめていくことになるでしょう。商談成立がゴールで、そこへ向かうには必ず「企画」と「チームを動かす」という作業があります。

そのとき、ぜひ心がけたいのが「仕事の設計に5割の労力を割く」ことです。最初の企画段階で「何がこの仕事の目的なのか」「そのために、誰にどう動いてもらったらいいか」を考えることが最も肝心なのです。仕事の流れが具体的にイメージできるくらいまで、しっかり考えておけば、あとの仕事はぐんと楽になるでしょう。

経験知を言語化する意義

ある仕事を部下に任せたものの、滞ってしまい、結局自分が引き受けるというのでは、非常に効率が悪いですね。上司になったら、部下を自分の「分身」として育てることに時間を使いましょう。

それには、自分が持つ技術やノウハウを言語化することが必要です。経験知はその性質上、言葉で説明するのが難しいですが、言葉にしない限り、なかなか相手に伝わりません。伝わらなければ、いつまでも「自分しかできない業務」が存在し続け、仕事に追われてしまいます。

また、「言語化」が効力を発揮するのは、部下を鍛えるときだけではありません。今までに得たノウハウや目の前の事象を抽象的にとらえて言語化することで、物事を見通す幅が広がり、柔軟な視点を持てるようになります。

例えば、自分が営業部長だとして、部門の成績を上げるにはどうしたらいいか。「とにかく製品をたくさん売ろう」としか考えない人と、「利益が出ればいいのだから、何らかのかたちで収入を増やすか、コストを下げるか、あるいは両方ができればいい」と考えられる人とでは、仕事の設計が変わってきます。

メタ認知ができると、柔軟で本質を突いた戦略が立てられるのです。どの職場にも「この人は優秀だなぁ」と感心するような人がひとりはいるものですが、そういう人は大きな視点も小さな視点も持ち合わせたうえで、本質をとらえることに長けていることが多いようです。

「経験の累積」は知識より大切

自在に視点を行き来し、バランスよく思考できるようになると、仕事の設計のスピードと質が上がります。こう言うと、ではその「バランスのよい思考力」を身につけてから仕事の設計に時間を割こう、と考える人がいますが、それは違います。繰り返しになりますが、知識やスキルアップにとらわれすぎることには賛成できません。

料理に例えるなら、初めてカレー作りに挑戦するとき、いきなり上級者向けのレシピ本を開いたり、何種類ものスパイスを買い集めたり、はたまた料理教室に通ったりしなくてもいいということ。

野菜の切り方、玉ねぎの炒め具合から隠し味に至るまで、おいしく作るコツは山ほどあるでしょうが、そうした情報を知らなくたって、市販のルゥさえあればそれなりのものが出来上がります。頭でっかちになって四苦八苦するより、まずは作ってみて、それからだんだんレベルの高いカレーにしていけば良いのです。

これは仕事の場合も同じです。一度やってみないことには、話が始まらない。まずやってみましょう。そうすれば、自分の癖がわかります。そこから先は、試行錯誤です。

癖を直すと同時に、設計に時間を使って、徹底的にイメージをとらえる訓練をします。さらに、二つ上の視点を持つことを意識します。そういうことの繰り返しと積み重ねが、結果と能力アップの両方をもたらしてくれることでしょう。

参考文献:「使う力 知識とスキルを結果につなげる」( 御立 尚資 著 / PHPビジネス新書 )

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