■ 腸は第二の脳
昨今の「脳科学」「脳トレ」ブームにより、テレビ番組などで脳に関する情報を見聞きする機会が増えました。書店でも、脳を扱った書籍がたくさん並べられ、人々の関心の高さを物語っています。
「脳を鍛える」といった学習目的の本から、脳と健康、あるいは脳と心の関係に焦点を当てたものまで、内容は様々です。けれども、いずれの場合も根底にあるのは「より良く生きたい」という願いではないでしょうか。
脳内で分泌される神経伝達物質が、わたしたちの意欲や充実感、幸福感に影響を与えていることは、広く知られるようになってきました。ただ、最近の研究で、それらの物質を脳内に増やすには、腸内環境を整えることが必要不可欠だとわかったのです。
そのため, 腸は第二の脳と言われています。腸にその大切な物質を造り上で、善玉菌、悪玉菌をバランスよく機能させないなと、神経伝達物質であるセロトニンが十分に造り出せません。経営でもいろいろな性格の人がその特性を発揮できる環境になっているこが重要なことと同じです。
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幸せ」は腸で決まる
人生が幸せであることは、誰もが願うことでしょう。「幸せ」は、わたしたちが生きる上で究極の目標と言えます。
その「幸せ」を左右しているのが「腸」だと言ったら、驚かれるでしょうか。にわかには信じられないかもしれません。けれども、腸内の環境が「幸せ」に大きく関与していることが、研究によって明らかになったのです。
キーワードは「幸せ物質」
近年、人間の「幸せ」を考える上で、ある大きな変化がありました。それは、脳科学の発達にともなって登場した「幸せ物質」という観点です。 「幸せ」の概念を解き明かすカギとして、「セロトニン」「ドーパミン」などの通称「幸せ物質」が脚光を浴びています。
「幸せ物質」の作用
「幸せ物質」とは、脳の中にある「セロトニン」や「ドーパミン」といった、一部の神経伝達物質を指します。どちらも脳内で分泌されるホルモンの一種で「セロトニン」はセロトニン神経から、「ドーパミン」はドーパミン神経から、それぞれ分泌されます。
これらの物質が正常に分泌されていれば、人間は前向きな気持ちを保てることがわかっています。幸福だと実感し、長生きすることができます。一方、「幸せ物質」が乏しくなると、気分は沈みがちになります。楽しく生きるのが難しくなり、ときには、生きていくことに希望を見出せなくなってしまいます。
腸は「幸せ物質」の工場
そんな「幸せ物質」の原料は、実は腸の中で作られています。 たとえば「セロトニン」は、食べ物の中に含まれる「トリプトファン」というたんぱく質から合成されます。ところが、いくら食事から「トリプトファン」をたくさん摂っても、腸内細菌が少なければ「セロトニン」は増えないのです。
脳という、知性やコミュニケーションを司る組織と、主に食物の消化・吸収をおこなっている腸が、「幸せ」という概念のもとでリンクしていたとは、非常に興味深いですね。
気持ちを昂ぶらせ、常に健康で幸せに生きるためには、腸内の環境を整えて、 腸内細菌を増やすことが何よりも大切です。そうすれば、脳に「幸せ物質」を豊富に送り込むことができ、その結果、幸せな長生きも可能になります。
その他の神経伝達物質
神経伝達物質には、とても多くの種類があります。現在、確認されているだけでも、百数十種類にのぼります。その中で、特に有名なのが、「アドレナリン」でしょう。
スポーツ選手などのインタビューで「アドレナリンが出てきて、好記録につながった」というようなコメントを聞くことがありますね。「アドレナリン」には脳を覚醒させる作用や、集中力を高める効果があるといわれています。
「ドーパミン」は幸せを記憶する
2000年にノーベル医学生理学賞を受賞した、イギリスのA・カールソン博士は「ドーパミン」が脳の中の神経伝達物質であることを実証しました。博士の研究発表により、「ドーパミン」が「幸せを記憶する」物質であることが、広く知られるようになったのです。
たとえば、わたしたちは日常生活の中で、特に意識することなく、仕事や勉強あるいは家事などをしていますよね。「さあ、今日は絶対に仕事をするぞ!誰が何と言おうと、自分は仕事をするんだ!」と、改めて決意したりはしないはずです。
「それは、習慣だからでしょう。働くことが習慣になっているからですよ。」と思うかもしれませんが、それだけでは正解とはいえません。人間が習慣として行動を続けるためには、そこに大きな「理由付け」が必要となります。
これに該当するのが、意欲や向上心といった要素です。仕事を続けることで、一定の金銭が得られますね。さらに、名誉や周囲からの尊敬を得ることだってあるでしょう。
また、仕事を通じて実現できる、社会参加や他人とのコミュニケーションも、生きていく上で欠かせないモチベーションのひとつです。このような報酬が、働く意欲の源泉になっています。この「意欲」をコントロールしているのが、脳であり、「ドーパミン」なのです。
「ドーパミン」は、歓喜や快楽、興奮を脳に伝える働きをしています。これらは「幸せ感」に欠かせない要素で、これらが高まれば「幸せ感」も増幅します。働くことによって歓喜や快楽を得られるからこそ、わたしたちは毎日、仕事に精を出すのですね。そして、その先に見据える夢や希望を実現させるためには、より一層の「ドーパミン」の働きが欠かせません。
「セロトニン」が不足すると…
誰にでも、不遇なときや不運なときがあります。そんな逆境のとき、気持ちを奮い立たせ、やる気を起こしてくれるのが「セロトニン」です。いわば不遇を蹴散らしてくれる「元気の素」、貴重で有り難い「幸せ物質」の代表格です。
この「セロトニン」が不足すると、怒りやすくなり、時間が経過してもそれを抑えられなくなることがわかっています。少し前から若者の間で、怒ることを「キレる」と表現するようになりました。最近では中年層にまで、この言葉が浸透してきた印象を受けます。
人々が「キレやすくなった」とよく言われますが、「セロトニン」減少の影響で、感情や体をコントロールできなくなっていることもひとつの原因ではないでしょうか。
腸の中の必要悪
腸の話に戻りましょう。腸内細菌には、「善玉菌」「悪玉菌」という分類がありますが、悪玉菌を「悪」と決めつけることには少々問題があります。なぜなら、善玉菌をきちんと働かせるためには、悪玉菌の存在が必要だからです。
実は、悪玉菌を全部なくしてしまうと、善玉菌は働きません。それをわかっているからこそ、腸は悪玉菌を受け入れるのでしょう。本当に悪い菌に対しては、腸は激しい反応を示します。たとえばコレラ菌が入ってきたら、わっと粘液を出して追い出そうとします。悪玉菌が増え過ぎると体調が少し崩れるのですが、それでも悪玉菌は必要なのです。
時代は「ダイバーシティ」へ
もしかすると、それは社会や組織にも通じることかもしれません。 さまざまな「違い」を尊重して受け入れる「ダイバーシティ」の概念が、徐々に広がりを見せています。「違い」を積極的に活かすことにより、変化しつづけるビジネス環境や多様化する顧客ニーズに最も効果的に対応し、企業の優位性を創造しようとするものです。
従来の画一的な制度や考え方が時代にそぐわなくなる中、「ダイバーシティ」の重要性に気付き、積極的に取り組む企業も増えてきました。個々人の「違い」を尊重し、そこに価値を見出すこと。「違い」にかかわらず、全社員を平等に参加させ、能力を最大限発揮させること。それを実践できれば組織のパフォーマンスは必ず向上するでしょう 。
参考文献: 『腸内革命 − 腸は、第二の脳である』(藤田 紘一郎 著/海竜社)