まずはリーダーシップを優先しよう

どうすれば経営を安定させられるか。いかにして企業を成長させていくか。経営者であれば、誰もが悩み、考えることではないでしょうか。

リーダーシップとマネジメントとのバランスがほどよく保たれていれば、その企業の成長はまず間違いありません。反対に、このふたつの機能が駄目になってしまうと、衰退、やがては倒産という結末を招きます。

経営がうまくいっている会社や、持続的な成長を果たしている会社では、リーダーシップ機能とマネジメント機能とがうまく均衡して、ベクトル的な統合を果たしているものです。しかし、だからといって、両者のバランスを急に整えようとしても、簡単ではないでしょう。

リーダーシップさえしっかりしていれば、マネジメント機能が少しくらい欠落していても、経営は機能します。もちろん、計画や管理も大切ですが、最も肝心なのは、リーダーシップの発揮なのです。

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今日、大半の日本企業にとって、最も重要なのはリーダーシップの発揮です。 リーダーシップのしっかりしている中小企業・ベンチャー企業の経営者は、マネジメントが充実していないことをしばしば悩みがちですが、それは企業の成長にとって、リーダーシップとマネジメントのバランスが非常に大切であることを理解しているからでしょう。

したがって、彼らの焦りも間違いではありません。けれども、リーダーシップが十分に発揮されていれば、マネジメントはいずれついてくるものです。トップがぐいぐいと会社を引っ張っていくと、ふうふう言いながらも、マネジメント機能は、あとを追って充実してきます。

それまでの間は、ある程度マネジメントのことも考慮に入れながら、会社をリードする必要があります。いつの間にか、あらぬ方向に向かってしまうのを防ぐためです。

リーダーシップの本質は「変化の主導」

それでは、一体どのように、リーダーシップを確立すればいいのでしょうか。また、今までマネジメント機能の担い手だった中間経営層や、サラリーマン経営者が、どうすれば「起業家魂」を持った真の企業家、リーダーシップの担い手に変身することができるのでしょうか。

トップの役割には、目標やビジョンの設定、戦略の策定、経営理念の樹立、説明責任の遂行など様々あります。これらはどれもトップの重要な職務ですが、リーダーシップの発揮ではありません。

実際の経営において、トップがどう振る舞えば、リーダーシップを発揮したことになるのか。それはずばり「変化への主導」です。平たく言えば、変化を起こすことです。似ているようですが、変化が「起こる」のとは違います。自ら進んで、変化を「起こす」のです。

「変化」は思いつきとひらめきから

変化を起こすきっかけは、思いつきやひらめきで構いません。あるいは直観・主観と言い換えてもいいでしょう。思いつきと言っても、思索を完全に排除するわけではありません。ふと浮かんだアイディアを、三日三晩じっくりと考え抜いた末の意思決定であったりします。

とはいえ、いずれにせよ、忽然と発せられた指示は、それを受け止める中間経営層からすれば、トップの思いつきや直観です。しかも、その内容は拙速であってもいいのです。細部にわたる企画を立案したり、綿密な計画を練ったりするのは、マネジメント機能の役割だからです。

もしも、そのアイディアが誤りだと気づいたら、朝令暮改をすれば済みます。ちっとも恥ずかしいことではありません。思いつきといい、急な改めといい、これらはリーダーシップにのみ、許されることです。

現状維持こそ危険?

さて、変化を主導することがリーダーシップの発揮だと述べましたが、なぜそうする必要があるのでしょう。どうして、直観なのでしょうか。その上、拙速でも構わないとは…。不思議に思われるかもしれませんが、この辺りが理解できるようになると、経営の本質に一歩も二歩も近づいてきます。

トップのアイディアは、そのまま会社の意思決定となり、必ず実行に移されます。慎重かつ計画的な行動でないので、危なげに見えるかもしれません。しかし、経営において本当に危惧すべきは、熟慮してばかりで行動しない、つまり変化しないことです。 市場環境も、会社が置かれている状況も、日々刻々と変化し続けています。

もし仮に、すべての情報が手に入って、現状を的確に理解することも、未来を予測することも可能であれば、計画的経営に身を委ねてもいいでしょう。けれど実際には、賢明で知恵のある人がどれだけ考えたところで、それらを100パーセント把握することは不可能なのです。

環境の変化は読みきれない

例えば、今からわずか20年前に、今日のような携帯電話の普及と多機能化を予測できたでしょうか。ポケベル時代に、ワンセグによるテレビ中継を現実的なものとして視野に入れることができたでしょうか。

携帯テレビを夢に描いていた人がいたとしても、それを実現するための具体的な戦略は、その時点では何も見えていなかったはずです。どう成功して、どう失敗したのか。然るべき対処法も因果関係も、今だからわかるのです。

自ら変化して反応をつかむ

環境の変化を読み切れないのなら、自分が変化するしかありません。リーダーシップ機能に変化を主導してもらい、その反響から環境を把握します。

経営とは、日々の企業活動であり、それゆえ毎日のように意思決定と行動を迫られています。じっと座って目を凝らしていても、日々の変化は読めない。それなのに、大きな変化は日々の変化の積み重ねであり、その表れです。

ならば自分から、日常不断に変化してみたらどうなるか。きっとその変化に対して、今現在の環境が日常不断に反応してくれるに違いありません。 「自分が変化する」ことは、日々変化する環境に対応し、適応していくための唯一の方法なのです。それが「変化と行動の経営」です。

戦略は行動に従う

新製品を上市したとしましょう。消費者はその製品を手に取って吟味します。購入する人もいれば、しない人もいます。実際に使ってみて、喜ぶかもしれないし、不満を抱くかもしれません。その結果、売上増または減と出ます。

これらはみな、今現在の市場環境の反応です。もし、新製品を上市しなかったら、何の反応もありません。市場調査をいくら続けても、データをいくら集めてみても、それが本当に現在の環境を正しく反映しているかは、定かではありません。

しかし、自分が行動すれば、つまり変化を主導すれば、必ずや現在の環境が反応してきます。そこで、打つべき手も見えてくるのです。

リーダーシップを発揮して、厳しい時代を生き抜く

変化を読むために、自ら変化する。これが哲学でも禅問答でもなく、極めて合理的な発想であり、現実的で効果的な手段であることが、おわかりいただけたでしょうか。これらのことから、変化を主導し、行動することが経営の本質であるといえます。そして、変化を主導するのがリーダーの役割です。

計画的、管理的、客観的、論理的、用意周到に構えていると、行動に移せなくなり、すべてが後手に回ります。これはマネジメント機能の役割であって、トップリーダーはむしろ直観的、主観的、拙速、唐突、場当たり的に物事に向かうべきなのです。 大きな変化を目指す必要はありません。目に見えない日々の環境の変化には、こちらも小さな変化の積み重ねで対抗していきます。

「強い者、頭の良い者が生き残るのではない。変化するものが生き残るのだ。」ダーウィンの名言が、リーダーの使命を教えてくれています。

参考文献: 『たった三行で会社は変わる』(著者 藤田 東久夫 著/ダイヤモンド社)

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