心を揺るがす要因

打撃の神様と言われた川上哲治氏の「ボールが止まって見える」という有名な話がありました。応用スポーツ心理学では「ゾーン」と呼ばれ、注目されてきた心の状態です。このゾーンが究極のフロー状態といえます。

何かに集中していると「揺らがず、とらわれず」から「フロー状態」になります。逆に、環境や他人の影響などから「揺らぎ、とらわれ」が生じ、「ノンフロー状態」になったりします。

フロー状態は、どんな瞬間にも存在し、特別なものではありません。フローの心理状況とは、自分の心の持ち方を意識すれば、いつでも実践できます。自分で作りだすことが難しく、ただやってくるのを待つ状態ではありません。

私たちは、自分の身に起こる事柄に対して、どんな行動や態度をとるか自分で決めることができます。自分の選択による結果を環境のせいにせず、感謝の心を持ち、問題の解決に向けて率先して行動することが大切です。

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心の状態に大きく影響する3要素は、環境、経験、他人です。だれもがこの3要素から「揺らぎ」としてとらわれます。自分の心がノンフロー状態になった理由をこの3つの要素のせいにしてしまいます。 「認知の脳」が活発に働いている証拠ともいえます。自分を守り、かつ自己正当化という本能にも沿っています。これを言い訳といいます。

言い訳しないほうがよいとわかっていても、人は言い訳をしてしまいます。しかし、環境・経験・他人のせいに言い訳するのは、「自分の心を自分で決める気がない」のだということを自分自身に言い聞かせていることにもなるのです。 たとえば、「お客様が約束をドタキャンし、そのうえ部下の緩慢な態度からノンフローです。だから、会話もマイナスな言葉ばかりです。

「暑いなあ」と言っても涼しくならないし、「明日の会議は早朝すぎる」と言っても時間は変りません。「最近いいことないなあ」と愚痴っても、バラ色に変わることは絶対にありません。 自分では変えられないもの、コントロールできないものに、自分の一番大事な「心の状態」を決められている生き方こそ、ノンフローな人生ということになるのです。

私たちの心に影響を与えているものは

●環境  過ごしやすくてよい天気なら、上機嫌になるけれど、暑かったり、寒かったり、雨が降ったりすると気分が滅入り、機嫌が悪くなることがよくあります。あるいは、仕事場が働きやすいか、そうでないかなどによっても影響されます。社会的に置かれている立場、家族構成なども環境要因といえます。

●経験  よくあるのが、「今日は朝から最悪なんだよ」というケース。朝、悪いことが起こったからといって、昼も夜も悪いことが起こるわけではありません。それなのに、朝、何かあっただけで、「今日は一日ろくな日じゃない」と決めてしまって、その日一日機嫌が悪くしてしまいます。

また、出勤して今日の仕事を確認したら、以前に嫌な経験した現場で、行く前からもう落ち込んでしまうなどだ。最近よいことがないことと、いまの機嫌は本来は無関係なはずです。

●他人  心にもっとも大きな影響を及ぼすファクターが「他人」です。 朝起きて、天気が悪くても、せいぜい気分が滅入るぐらいだが、他人にちょっと一言気に入らないことを言われただけで、心に激しい憎悪が渦巻くことがあります。

あるいは、好意をよせている相手がそばにいるだけで舞い上がってしまったり、上司が横に座っているだけで、「嫌だなー」と思うことがあるというように、他人は存在だけでも心に影響を与えるものです。

 ほとんどの人は、外部の影響に対処し、自分の心をフローに維持する努力はしようとしないで、自分の心を環境や経験や他人などの外部要因のあるがままに委ねてしまっています。

自分の心は自分のものなのに、自分で心のありようを決めないで、外部要因に決めさせてしまっています。だから、こういう人は、いつも環境や経験や他人のせいにしています。 そのほうが一瞬だけ心が楽になるのです。

「あいつがいるから、うまくいかない」、「今日は雨が降っているから、お客さんが少ない」、「この季節には、この商品は売れない」と思えば、結果が出なくても心はいくぶん楽になります。 でも、ここで大事なことは、外部要因は自分では変えられないということです。

環境も、過去のことも、他人も、自分では変えられません。変えられないものに自分の心が影響を受けて千々に乱れ、ストレスがかかります。この結果、ストレスの二重奏、三重奏の中に入っていき、ネガティブ・スパイラルに落ち込んでいくわけです。

この悪循環を断ち切るためには、どうすればよいかもうおわかりでしょう。結果を招いているすべての元凶は、環境でもなく、経験でもなく、他人でもありません。自分の心です。

フローに傾かせる4つの要素は 表情・態度・言葉・思考

外部の環境、経験、他人に支配され、認知の脳がそれに意味づけし、その出来事に反応しているだけなのです。「表情」「態度」「言葉」「思考」を使うためのライフスキルの脳力など、まったく活用していないというのが現状です。

脳科学的にも、表情や態度が心の状態に影響し、言葉が心を直接変化させ、思考次第で人の心の状態は変化することが明らかになっています。環境、経験、他人によって自分の心が決められるのではありません。自分の表情、態度、言葉、思考によって自分の心を決定していこうとする脳を、しっかり磨き鍛えるのです。

新しい第二の脳として自分の機嫌は自分でとるというライフスキルを磨いていきましょう。それがフローな新しい自分を生み出すことになります。 心の状態をフローに傾かせる4つの要素とは、「表情・態度・言葉・思考」です。

しかし、ほとんどの人はこの4つを自分の心のために使っていません。どうしているかといえば、環境、経験、他人によって受けた心の状態を、ただこの4つに表現しているにすぎません。

この脳の使い方は、勉強のできる脳、すなわち認知や記憶機能とはまったく別の働きです。したがって、頭がよいといわれる人がこの脳の使い方ができるかといえば、 そんなことはありません。頭がよく、高学歴で優秀な人物でも、この「第二の脳」を持っていない人が少なくないと思われます。

むしろ、認知の脳が優れているので、機嫌の悪いストレスフルな人が増加しています。 すなわち、表情、態度、言葉、思考です。その状況に即した、最大・最適・最高のパフォーマンスがアウトプットできるフロー状態に、心を傾かせるような選択なのです。

たとえば、言葉が心の状態に大きく影響することに気づいてほしいのです。ロに入れる食物で身体ができるように、耳に入れる言葉で心はできるのです。状況に流され、感情のままにジャンクフードを食べていると、身体は確実にメタボになってしまいます。

じつは言葉と心の関係もこれと同じです。耳に入れる言葉には、他人が発する言葉もあるが、最も耳に近いところから出ていて影響力のある言葉は、自分の言葉なのです。声に出して喋らなくても、頭の中で唱えているだけで、心に大きく影響します。心をフロー化するためには、自ら言葉を選び、発するという脳の習慣が重要なのです。

状況を変えるには、自分で自分の心をつくる

その自分を強化するのがメンタルトレーニングであり、どんな環境、どんな経験、どんな人たちに囲まれていても、いつも元気、機嫌がよくて、最高のパフォーマンスを上げ、そして、結果を出し続ける心の状態、すなわちフロー状態をつくれるように自分を鍛えるのです。

そのことによって、環境に働きかけ、よい経験が積まれ、よい人に囲まれるようになります。このポジティブ・スパイラルの最初のスイッチは、偶然に訪れた幸運ではなく、自分の心をつくる自分自身なのです。つまり、フローは自分でつくれるものなのです。

参考文献: 第二の脳をつくり方」(辻 秀一 著 /祥伝社)

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