優れたコミュニケーションとは

その昔、人類は進化の過程で直立二足歩行をするようになり、やがて言語というコミュニケーション・ツールを獲得しました。言葉の世界がどんどん広がり、豊かになるにつれて、人類は抽象概念を持つようになり、それが脳の発達をより一層促進しました。

現代では、言葉をどのように使用すれば、より快適な人間関係を構築できるか、いかにコミュニケーション能力を高めるかが大きな課題となっています。

ビジネスにおいても、上司・部下の信頼関係はもちろんのこと、お客様にパートナーとして認めてもらうためにも、コミュニケーション能力の向上は必要不可欠です。また、情報の共有や組織力に関係することから、企業経営にも大きな影響を及ぼしています。

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コミュニケーション能力の高い人にみられる共通点を探すと、次のような特徴が挙げられます。

・相手の立場に立っている
・会話の中から、相手の課題は何かを常に考えている
・自分が伝えるべきことは何かがわかっている
・会話の全体像を捉えている
・順序だてて会話を進めることができている
・仮説を立てながら会話を進めている
・言葉だけでなく、相手の感情にも注意を向けている
・事実をもとに会話を進めている
・次の行動を相手としっかり共有している

これらの要素は、どれも相手を納得させるプロセスにおいて重要なものばかりです。企業やチームのメンバーが、このようなコミュニケーションを重視していれば、その共同体はお互いの「納得」をベースに価値を生み出し続けることができます。優れたコミュニケーション能力は、そのままチームとしての力になるのです。

一口にコミュニケーション能力といっても、様々な力が複合的に関わり合っています。先ほどの例を整理すると、大きく3つの力に分けることができます。

1)信頼関係を築く「人間力」
自己を確立し、相手の立場に立つ

人間力は一言でいうと、「納得」のために信頼関係を築く能力です。コミュニケーションは、お互いの信頼の上に成り立ちます。相手から信頼を得るためには、まずは自分をしっかり持ち、相手の立場に立って努力することが必要です。自分のために話す人、相手をないがしろにする人の話など、誰も聞こうとしないでしょう。

相手の状況をしっかり把握し、自分を深める。これが、信頼を得るために不可欠な要素です。 「子供が言うことを聞かない」と嘆く親は、親自身の人間力が欠けていることが多いのです。言うことを聞いてほしければ、普段から子供の言うことを率先して聞き、信頼関係を築いておくことが大切です。

「今は忙しいから後にして」「大人と子供は違う」と言っているようでは、子供は聞く耳を持ちません。「何のために勉強するのか」「子供の人生が社会にとってどれだけ重要か」「親としてどのようにそれを子供に考えさせるか」「自分は何のために仕事をしているのか」をしっかり考えてこそ、勉強しなさいという言葉にも効力が生まれます。

人間力は、「自分という存在を意識し、いかに相手を動かすか」に責任を持つことから始まります。相手を尊重しながらも、自己をぶつけ、結果を出そうとする姿勢を全うする、それが人間力なのです。

2)意味を伝える「論理力」
話を構造化し、相手にわかりやすく伝える

論理力は「納得」のために目的や課題、本質を整理する能力といえます。ミス・コミュニケーションと呼ばれるケースがありますね。「私はAと言ったんだ。」「えっ、私はBと理解していましたが…。」というものです。

正確な言葉と意味を共有せず、それを確認し合っていない場合に起こりますが、言葉の問題以前に、本質を理解して体系化する力が不足していることも多いのです。「何のために、どんな理由で、どういうアプローチでAという結論に至ったか」というプロセスが曖昧なために、誤解が生じます。

説明責任(アカウンタビリティ)という言葉がありますが、これはまさにコミュニケーションにおける論理力を問われています。医者や弁護士、政治家、教師など、「先生」と呼ばれる人々には必ず必要な力です。「納得」のコミュニケーションをとるためには、表面上の言葉だけでなく、本質を理解し合い、共有することが大切なのです。

3)心を伝え合う「対話力」
自分の心を伝え、相手の心を捉える

対話力は文字通り、しっかり対話をする能力のことです。話す、聴くという行動抜きにコミュニケーションは成立しませんが、相手の話を聴く際、重視すべきものは何でしょう?それは、相手の心です。

言葉や声には、必ずその人の心が表れるものです。それを読み取り、受けとめてこそ、本当に聴いたことになります。同様に、話すときにも自分の心を相手にきちんと伝える必要があります。 ここでいう心とは、好き嫌いの感情ではなく、情熱や主体性といった意志のことです。

人もビジネスも、意志があるところで動きます。意志、意志による行動、行動による結果という、人がビジネスを動かすときの本質を理解し、「コミットメント」という一言で日産自動車を復活させた、ゴーン氏のエピソードは有名です。相手の心に訴える「対話力」があれば、相手を納得させることができます。

3つの力を活用して

もちろん、これらの力は個別に存在するのではなく、相互に関わり合っています。コミュニケーション能力を鍛えるには、客観的視点を持って、自分にはどの能力がどの程度必要なのかを分析し、全体のバランスを考慮すると良いでしょう。

自分や相手の立場によって、比重を置くポイントは変わってきます。 求められる「人間力」の大きさは、その人が負う責任の大きさで決まります。そのため、企業のトップに近い人ならば、「人間力」に比重を置くことになります。カウンセラーにも、「人間力」が求められるでしょう。circles

必要な「論理力」は、その人が抱えている課題によって決まります。課題が大きいほど、しっかりと本質を見極めることが重要です。コンサルタントなどに特に必要なのも、この力です。

一方、現場に近い立場であれば、「対話力」を重視すると良いでしょう。「対話力」は、言い換えれば意志の強さです。「突破口を開きたい」「壁を乗り越えたい」「もっと進化したい」と願うなら、対話の量を増やせば良いのです。コミュニケーションの量で、やる気や意志を示すことができます。

コーチや監督であれば、この力が不可欠です。家庭においては、一概には言えませんが、母親に特に求められるのは「対話力」で、父親に最も必要なのは「人間力」ではないでしょうか。

大きな責任を感じ、大きな課題を抱え、強い意志で相手とコミュニケーションをとろうとする人は、3つの力の輪が必然的に大きくなります。3つの力を育て、上手に融合させることで、自分も相手も納得できる、より良い関係を築くことができるでしょう。

参考文献:『コミュニケーションのノウハウ・ドゥハウ』(野口吉昭 / PHP研究所)

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