そもそも「強い企業」とは

教訓とすべき格言のひとつに「継続は力なり」があります。「成功は能力ではなく 習慣によって導かれる」とも言われます。

何事も途中で放り出さず コツコツと積み重ねていくことで、いつしか力になり、大きなことも達成できる。当たり前のようですが、「言うは易く行うは難し」で、実現するのはそう簡単なことではありません。

組織が粘り強く壁に立ち向かっていくには、次のような職場風土が必要不可欠です。まず、現場を重視し、人材を育てること。結果を問うのではなく、プロセスを褒めることで社員の能力を伸ばします。

次に、活発なコミュニケーションと有言実行の気風があること。そして、共鳴と協創の協働環境があること。現場に「見える化」の仕組みを作り、改善を促します。このような組織体制が整えば、「継続」できる強い会社になっていくでしょう。

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強い企業になるために、まず必要なのが、身の丈に合った競争戦略です。どの土俵で戦い、どのような価値や優位性を生み出していくのか。そんな経営の基本シナリオが合理的でなければなりません。自社のコア・コンピタンスを見極め、それらを磨くために、経営資源を集中投下します。そして、事業の「選択と集中」を徹底することが重要です。

次に、強い企業に求められるのが、実行力です。いくら合理的な戦略を描いても、それを実行する力が備わっていなければ、「絵に描いた餅」で終わってしまいます。

このように、合理的な戦略と実行力は強い企業になるための必要条件ですが、本当に強い企業になるためには、もうひとつ必要なものがあります。それが、「継続する力」です。個人にせよ企業経営にせよ、一時的な成果で満足しているうちは、プロとも一流とも呼べません。継続する力、粘る力を磨いてこそ、「真のプロ」「真の一流企業」になれるのです。

黒沢 明監督と名コンビを組み、『生きる』『七人の侍』など、世界映画史上に残る傑作を残した脚本家、橋本 忍氏の言葉が身に沁みます。
「才能なんてあると思うな。才能というものが もしあるとすれば、それはどれだけ忍耐力があるかということなんだ。」

「強い企業」は「強い現場」から

経営を構成するピラミッドとして、ビジョン(リーダーシップ)・競争戦略・オペレーションの3つの要素があります。このうち、企業の競争力を決定づけているのは、「オペレーション」すなわち現場です。

現場というと、ともすればルーティン作業をこなすだけの、付加価値の低いところと連想されるかもしれません。けれども、強い企業を支えているのは、実は「強い現場」なのです。

というのも、特許や規制に守られていたり、パワーブランドを確立していたりと、代替品のない「絶対価値」を提供できる企業は多くありません。ほとんどの企業が、類似品が多数存在する中で、ちょっとだけ安い、ちょっとだけ品質が良い、ちょっとだけサービスが良い、といった「相対価値」で勝負しています。そして、こうした「ちょっとした違い」を生み出しているのが、ほかならぬ現場なのです。

トップダウンで現場に改善命令を出すだけでは、強い現場は育ちません。そこで働く人自身が、日頃から現場の問題を意識し、思考トレーニングを続け、少しずつ改善・改良していける現場が「現場力」の高い現場と言えます。

「現場力」があれば、相対価値を生み出せるだけでなく、大きなトラブルが起きにくくなるため、リスクマネジメントにもつながります。

「やるのが当たり前」という習慣にまで高める

では、どうすれば「強い現場」を作ることができるのでしょう。多くの企業が、そのヒントをトヨタの工場から得ようとします。

トヨタ従業員との討議会を開くと、いつも出てくるのが次のような質問です。
「これほどたくさんの提案が、どうして次々と上がってくるのですか?」
あの手この手を使って改善活動を根付かせようと苦労している企業からすると、何十年にもわたって数十万件の改善提案が出てくるトヨタの現場は、信じ難いものです。

一方、質問を受けたトヨタの人たちはキョトンとしています。彼らには「特別なことをやっている」という意識はありません。「現場は改善するのが当たり前」であり、改善できない、定着しないこと自体が理解できないのです。

トヨタでは改善活動が習慣化しています。意識しなくても自然に改善活動がおこなわれる状態にまで高められています。こうした状態を「行動の無意識化」といいます。やるのが当たり前で、「やらないと気持ちが悪い」という違和感さえ覚えるのです。

これは個人についても同様で、毎日持続することが、強烈なエネルギーになります。「やり続けることを習慣にしてしまうと、今度はそれを止めることのほうが苦痛になる」イチローのこの言葉に本質があります。

「継続する力」で強い企業になる

組織の誰もが無意識のうちに同じような行動をとる。何か特別なことをしているつもりはない。これこそが「組織のDNA」と呼ばれるものです。

しかし、この「行動の無意識化」というDNAを手にするのは容易ではありません。意識しなくても自然に継続できるようになるには、意識的に継続する努力を一定期間積み重ねる必要があります。

多くの企業で、取り組み始めたさまざまな活動が定着しないのは、「行動の無意識化」になるまで継続しない、できないからです。せっかくいい取り組みを始めても、意識して前向きに取り組んでいる間はそれなりの成果を出せますが、そこで満足してしまうと「続けよう」という意志が弱まってしまうのです。

一方、継続できる組織では必ず、目指すべき夢や目標が明確になっています。会社が何のために存在し、何を目指しているかが明確に示され、そこで働く人々がその夢や目標に共感・共鳴しています。組織の粘着力は、その構成員である個の粘着力に左右されます。

そこで、評価や配置における公平性を高め、達成感を得やすく、モチベーションを高められる仕掛けや制度が必要となります。どの企業にも優れた個人はいます。その個人同士が互いに影響を及ぼし合い、ダイナミックに学習・成長できる機会や場を設けるのです。それが強い現場づくりにつながります。そして、強い現場は企業の体質を強固にします。

強い企業になるためのカギは、根気よく継続する力にあると言えるでしょう。イチロー選手がメジャー年間最多安打記録を更新したあとの、「小さいことを重ねることがとんでもないところに行くただひとつの道」というコメントからも、努力を積み重ね継続することの大切さが伝わってきます。

参考文献:『ねばちっこい経営』(遠藤 功 / 東洋経済新報社)

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