■質問で部下の行動が変わる
さて、質問することはコミュニケーションを図る上で非常に重要です。高い質問力は、物事の本質を見極める力に通じます。 質問の仕方ひとつで、もともと有力な部下を下から支え、その人が持っている能力や可能性をさらに発揮できるようになります。
質問する目的は、部下を正しく理解することにあります。部下がもっている考えや思いを理解するということに加えて、部下がうまく表現できない考えなども、上司が効果的に質問することで、部下の思考を整理してあげられます。
部下は思考の整理だけではなく、自分で考えることで自発的に問題を解決しようとする習慣も身に付きます。上司も部下をより正しく理解することができます。答えは自分の中にあると信じ、自ら考え自ら動くという自主的な考え方や動き方になります。
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問題を解決する「答え」ではなく、解決させる「問い」こそが重要だ
有効なのは、「なぜ」「どうやって」「どんな」といった言葉で、部下が自分自身の解決策を見つけるお膳立てをし、部下の能力や自信、そして当事者意識を高めるようなことを聞くのである。
上司が部下に「君の案を聞かせてくれないか」と言うとき、その上司は「君の案はすばらしい、たぶん自分の案よりいいだろう」と暗に伝えていることになる。その部下は自信を得て、もっと有能になる。こう語るのは、ジョージ・ワシントン大学の人材開発学教授マイケル・J・マーカートだ。
相手の思考力や問題解決力の開発を促し、それによって当面の問題に対する解決策を生み出し、さらに部下がこの先同様の問題に独力で対処できるようになる。 それに対し、力を奪う質問は、本人の自信をそぎ、パフォーマンスを低下させる。
この種の質問はたいてい失敗に重点を置いているか、質問者の意図があからさまかのどちらかだ。 次の7パターンのなかから一つ、あるいは二つ以上を組み合わせることによって価値を創造する効果的な質問をすることが可能である。
● 問題を明確化する・・「この状況についてもっと詳しく説明してくれないか」 ● よりよい協働関係を築く・・「売り上げ目標は達成したの」ではなく、「売り上げはどんな調子なの」と聞く。 ● 部下が分析的かつ批判的に考える手がかりを与える・・「このルートでいくと、結果はどうなるだろう」 ● じっくり考えさせ、物事を新しい視点から眺めさせる・・「これはなぜうまくいったのかな」 ● 飛躍的な思考を促す・・「それを別の方法でやることはできないかな」 ● 前提の正当性に疑問を投げかける・・「実行プロセスに対する責任を分担するとしたら、君は何を失うことになると思うかね」 ● 解決策は自分で見つけるという意識を持たせる・・「君の経験をもとに提案してほしいのだが、われわれは今何をすればいいだろう」
質問を奨励する文化を築こう
価値を創造するために質問が広く用いられる文化を築きたいと思うなら、直属の部下たちに彼らの質問を重視していることを知らせることだ。 これに劣らず重要なのが、質問で部下を導く手法の手本を示すことだ。そうすれば部下たちも、それを見習って各自の部下に対してその手法を使うようになる。
たとえば次のような質問をすれば、チームがどの程度うまく協力しているかを確認することができる。 今日はみんなで3時間一緒に働いたが、チームとして最もうまくできたことはなんだろう。
● われわれが革新的な戦略を編み出すことに成功した理由はなんだろう ● もっとよい質問をするにはどうすればいいだろう● 今学んでいることをほかのことに応用するにはどうすればいいだろう ● どのようなリーダーシップ・スキルが、成功の一因となったのだろう
「ほとんどのグループにおいて、最初は問題意識を共有していない。リーダーがミーティングである問題について語る場合、誰もが自分たちは問題を同じように理解していると思い込んでいる。
だが実際は違う」とマーカート教授は言う。たとえば、製品の売れ行きが芳しくない場合、リーダーはマーケティング方法に問題があるからだと思っていて、他のメンバーは製品に問題があるからだと思っているとしたら、どうだろう。
「問題は何だと思うか」と質問しないかぎり、リーダーはそのことに気づかないままだ。
こんな質問はしてはいけない
するべきでない質問もある。誰かが成功しなかった、あるいはできなかったを理由に重点を置いた質問は部下に守りの姿勢や反発的な態度をとらせ、部下から力を奪うことになる。
そのような質問は成功の機会を閉ざし、部下が目標を達成する助けにはならない。
この種の質問としては、次のようなものが挙げられる。
● なぜ予定より遅れているのかね● このプロジェクトはいったいどうなっているんだ ● 誰が足を引っ張っているのかな ● もっとましなことが言えないのか
誘導尋問は特定の答えを求めたり、質問者の主張を強引に押し通したり、同意を強いる社会的圧力をかけたりする。多くのマイナス面があるわけだが、なかでも次のような誘導尋問は、部下が正直に答えるのを阻み、率直な議論を抑え込むことになる。
● 自分一人でやりたいと言ったよな ● あなたが問題だと思わないか ● チームのほかのみんなはあなたが問題だと言っている。君はどう思う
質問することで部下を導こうとするときに忘れてはならないのは、リーダーは部下と同じ程度にしか成功しないということだ。部下に適切な質問をすることで、あなたは彼らが問題解決能力や独創性や臨機の才能を伸ばすのを手助けできる。
部下がこれらの能力を高めれば、それはあなたの手柄になるだけでなく、新しい課題が出てきたとき、彼らが部署全体にとってさらに大きな力になってくれるということでもある。
参考文献:プレジデント 2007/1/29号 ハーバード式 仕事の道具箱