■ 組織の業績を高める原理とは

  人はどのようなときに、ある行動を続けようと思うのでしょうか?  私たちは多様な行動を起こしています。例えば営業マンであれば、「お客様ごとにやるべきことを確認し、やることリストを書き上げる」「お客様に電話をし、訪問する」「お客様と打ち合わせを重ねて提案書を書く」など、さまざまな行動を取っています。

この中には、「望ましい行動」もあれば、「望ましくない行動」もあります。 例えば、「お客様Aに対しては、頻繁にコミュニケーションを取ってニーズを確認しながら、企画書に反映させている」のは望ましい行動ですし、その反面、「お客様Bとはほとんどコミュニケーションを取らず、ニーズの把握もそこそこに提案書を書き上げて郵送し、あとは放置している」などは望ましくない行動です。

このように、同じ社員の行動でも、望ましい行動と望ましくない行動が複雑に絡み合って存在しています。 組織は人で構成されており、組織の業績は社員一人ひとりの行動を積み重ねた結果になっています。したがって、組織の目的に沿った「望ましい行動」が多くなればパフォーマンスは自然と高くなり、その逆ならばパフォーマンスは低くなります。

だからこそ経営者やリーダー、上司は「社員に望ましい行動を起こさせる方法」を知って、部下が実践できるようにすることが必要です。

それでは、社員に望ましい行動を継続的に起こさせるには、どうしたらいいのでしょうか?

人が行動を起こす前には、何かしら、その行動を促す事柄やきっかけがあるものです。これが「誘発要因」です。次に、それをきっかけとして、何らかの「行動」が起こります。 結果、その人にポジティブな事柄やネガティブな事柄が起こり、行動者は何かを感じとります。これを「行動結果」と呼びます。 人間の行動はすべて、このように「誘発要因→行動→行動結果」というサイクルに沿って起ります。

例えば、
「レストランの展示看板を見て、店に入り、食事をする。値段がリーズナブルで美味しかった」という一連の行動は次のようになります。

誘発要因  レストランで美味しいそうなメニュー看板を見る

行動    店に入り、食事をする

行動結果   値段がリーズナブルでおいしかった

人間の行動は、「誘発要因」ではなく、「行動結果」によって定着します。 このようなサイクルを体験すると、人は、次にそのレストランの看板を見たときに、「店に入る」という行動を起こしたくなります。そして、その結果、さらに「サービスがよかった」という感じのいい体験をすると、このサイクルが強化されていきます。

一方、「高い割には、まずい料理だった」という行動結果を得ると、次回、そのレストランの看板を見ても「店に入る」という行動をしなくなるでしょう。 ここで注目すべき点は、将来、再びその行動が起こるか否か、その可能性を高めたり、減少させたりするのは、「行動結果」です。

すなわち、その人にとって「値段がリーズナブルで美味しかった」という「ポジティブな行動結果」だった場合、将来、再び「その店に入って、食事をする」という行動が起こる可能性が高まります。
しかし、反対に「高い割には、まずい料理だった」という「ネガティブな行動結果」だった場合は、再び来店する可能性はなくなります。ここでの行動を定義すると、「将来の行動の頻度は、行動の前に存在する条件(誘発要因)ではなく、その行動の直後に何が起こったのかにより決定される」ということです。

誘発要因だけでは行動は定着しない

ところが人は、「誘発要因」では行動の改善が見られないことを経験しても、なお「誘発要因」でなんとかしようとしがちです。「誘発要因」を大きくしたり、繰り返したり、過激な表現にしたりというように、いじり始めるのです。 意味のある「行動結果」が伴わないと、どれだけ「誘発要因」を与えたとしても、むなしい空砲に終わります。

例えば、「誘発要因」として、こんな発言をする上司がいたとします。 「ばかやろう! 何度言わせたら気が済むんだ!」初めはどの部下もびっくりし、怒鳴られないように言うことを聞くでしょう。
しかし、怒鳴られたとしても、自分にとって「ネガティブな行動結果(降格やクビ)」が何も起きないと知ると、誰も行動を起こさなくなります。朝の怒鳴り声に対しても、とにかく聞いているフリ、謝っているフリをするだけで、実は誰も真剣には聞いていないのです。

このように「誘発要因」は行動を引き起こす刺激であり、きっかけをつくりますが、効果は短期的で行動を定着させることは難しいです。なんらかの行動は引き起こされますが、それが継続することは実際には少ないのです。

行動結果をマネジメントする

社員や部下の行動を変えるファクターには、行動のきっかけを与える「誘発要因」と、行動した結果、本人が得る事柄や感じる内容である「行動結果」の2つケースがあります。

「誘発要因」には、例えば、「売り上げを達成しないと、減給だ!」のように脅すことや、「顧客満足の創造」というスローガンをポスターにしてオフィスに貼り出す、などがあります。一方、「行動結果」には、上司からのほめ言葉や報酬などがあげられます。 この2つのうち、将来の行動に、より大きな影響を与えるのは「行動結果」のほうです。

つまり、望ましい行動を繰り返してもらおうと思ったら、「行動を起こさせるために何をするか(誘発要因)」ではなく、「その人が行動したのに対して、何をするか(行動結果)」をマネジメントすることが重要なのです。 ところが現実には、多くの経営者や上司が社員の行動に変化を起こそうとして、さまざまな「行動を起こさせるきっかけ」づくり、すなわち「誘発要因」に関する活動に力を入れてきました。

たとえば、ビジョン、ミッション、スローガン、事業計画、コンピテンシー、成果主義人事制度、目標管理制度といったものです。 このような活動は、社員が望ましい行動を起こすようにできたとしても、限られた回数しか期待できません。つまり改善が見られても短期的なもので、元に戻ってしまうことが多いのです。

だから、多くの会社は維持できたのは数週間程度、途中で立ち消えになったことが多いわけです。 たとえば、営業マンがお客様から製品の改善要望、クレームなどの意見を聞きだして営業日報などで報告があれば、上司はいい評価を伝えていくことで、営業組織の活性になります。
本当に社員の行動を変えたいと思うなら、「誘発要因」ではなく「行動結果」に力を入れる必要があるのです。
参考文献:行動原理のマネジメント 著者 中島克也 ダイヤモンド社