■ こうすればうまくい

ある営業マンがありきたりの業績を上げていた。営業スキルに問題はなく、彼の実力からすればもっと伸びてもおかしくない。
彼の行動を調べると、その理由が判明した。一週間の目標を勝手に決め、それを果たしたら喫茶店でさぼっていたのである。 さて、彼の行動パターンは、どのようなものだろうか。

上司に叱られない数字を上げ、あとはさぼる。(=行動)
叱られることなく楽ができる。(=結果)

この結果は本人にとって行動の動機づけ条件になっていた。だから、同じ行動を繰り返していたわけだ。 あるとき彼は、これではいけないと考えた。喫茶店に入るのをやめ、もっと業績を上げて収入を増やそうと思ったのだ。
ところが、新しい習慣は長続きしなかった。契約を一件取ると気が緩み、ついさぼってしまう。

なぜだろうか? 行動には「不足行動」と「過剰行動」の2つのタイプがある。

不足行動とは、これから始めよう、続けようとする行動を指す。やるべきだと思っていながら現在はまだやっていない行動だ。これを増やそうとして増やせないのが、すなわち「続かない状態」である。 過剰行動とは、やめたい行動をいう。長い目で見れば自分のデメリットになるものが多い。

一念発起してやめようとするが、なかなかやめられない。これも「続かない状態」だ。 そもそも不足行動を増やして、結果がわかるまで、長く続けないかぎり成果が得られない。だから挫折しやすいのだ。たとえば、受験勉強を一時間やるごとに目に見えて偏差値が向上していくなら、自発的な行動は継続するだろう。

さらに、すべき行動はもともと誘惑に負けやすい面を持っている。この誘惑を「ライバル行動」と呼ぶ。 前述の営業マンで言えば、「喫茶店に入ってしまう」というのが、ライバル行動である。増やしたい不足行動は常にライバル行動によって邪魔される。 ライバル行動は手軽で、しかもすぐに結果を享受できる。

営業で一日中歩き回っても契約はなかなか取れない(結果がでない)が、喫茶店は入った瞬間から確実に楽ができる(結果がでる)。誘惑に負けやすい原因はここにある。 物事を新しく始めるにはエネルギーを必要とする。習慣化されていない行動はそれゆえに心理的なハードルが高い。

ライバル行動に流れやすくなるのも無理はないのである。 では、過剰行動はどうだろう。デメリットになるからやめよう、減らそうと思いながら、なかなか減らすことができない。ライバル行動と同様の魅力を備えているからだ。 過剰行動も手軽であり、すぐに確実に結果を享受できる。

営業マンが喫茶店でさぼるのは、ライバル行動であると同時に過剰行動である、ということになる。 不確実な成果めざして時間と労力を費やすより、今すぐ確実に得られる結果を享受したほうが楽だ。
だから人は不足行動を嫌がり、過剰行動を好むのである。 この行動原理を逆手に取ると、どんな行動も継続することが可能になる。

行動科学マネジメントの視点からは、成果の不確実な不足行動に意図してメリットを作るのだ。

今すぐ成果を手にできれば、その行動が楽しいものに感じられる。つまり自発的な意欲が生じ、続けようとする努力を継続させるのだ。 過剰行動を減らす場合にはある種のペナルティを課す。
人間の行動を意図的に変えるのは決してむずかしくないのである。

成果に結びつくいい結果に直結するコトを行う。

すなわち、いい成果を得るためには、良い行動を増やすし、悪い行動を減らすかである。不足行動ならば増やす工夫をし、過剰行動ならば減らす工夫をする。 しかし現実のビンネスにおいては、どの行動を増やし、どの行動を減らすかは見つけにくい。 前述の営業マンの例のように、喫茶点でさぼる癖なら誰でも容易に指摘できるがビジネスの現場においては、そういったわかりやすいケースはそれほど多くない。

そこで必要になってくるのが「課題ポイント」を探す作業である。 課題ポイントとは、望ましい結果に直結する行動のことだ。 営業マンであれば、売り上げに直接結びつく行動、新規客開拓にストレートにつながる行動などである。

たとえば、それは「1日に○○件、訪問する」ということであったり、「効果がある商品のチラシを作る」「それを購入しそうな顧客層に発送する」という行動であったりする。
一口に「行動」と言うが、それはいくつもの連続するプロセスから成り立っている。 連続するプロセスの中には課題ポイント、すなわち結果に直結する行動が必ずある。 これさえ発見すれば結果を変えるのは簡単なのだ。

まず一連の行動を細かく分解し、一つひとつ書き出してみる。売り上げに直結していそうな行動があるはずだ。それを5つほど拾い出し、2つか3つに絞り込む。ここまでが下準備である。
次は絞り込んだ候補の検証だ。
それが本当に結果に直結しているかどうかを確かめなければならない。
たとえば、「売上高前年比10%増」という目標を決めたとする。売り上げを増やすためにクロージングの見直しを行い、3つの課題ポイントを選んだ。「予算達成の状況確認のためのアンケートを行う」「テストクロージングを3回行う」「デモンストレーションを20分間行う」などだ。

これらの行動が真の課題ポイントかどうかを探るには、業務の中でその行動を増やしてみる。結果が増えれば課題ポイントと言えるわけだ。
検証するには二つのグラフを使う。時間の経過をヨコ軸に、行動の増減をタテ 軸にとったものがひとつ。もうひとつは時間の経過と結果の増減を示すグラフである。 その行動が増えたことで、結果も増えていたら、それが課題ポイントだ。その行動は間違いなく結果に直結している。
感覚や印象だけで決めようとすると失敗しやすいので、グラフを用いて数値で判断しなければならない。何日か観察すれば相関関係が明らかになるだろう。

この検証を行うのが、リーダー、上司の仕事だ。チェックリストなどを使って部下の行動を観察するのである。 行動の習慣などはさすがに観察できないから、自己申告に頼らざるを得ないが、そうでなければ可能な限り上司の目で確認するべきだ。

「何らかの問題を無くしたい」場合も同様である。悪い結果を減らすには悪い行動を減らす。「減らしたい行動の課題ポイント」を探せばいい。 部下が遅刻ばかりする、月問目標を達成できない、品質が低下してきた。 あらゆる問題は、「良くない行動」が起こしている。思わしくない結果に直結する問題行動を減らすことで、悪い結果は確実に減っていく。 この手法を実際のビジネスに取り入れるには、大きく分けて3段階の取り組みが必要となる。

第1に企業としてのビジョンやミッションを定めること。
第2に「結果の課題ポイント」を明らかにすること。つまり、どのような結果を望むかを数値化・明文化する。
第3に「行動の課題ポイント」を見つけること。結果に直結する行動を見つけることが望ましい結果を手にする近道である。 ここまで落とし込むことで、結果が変わっていくのだ。

参考文献:「やる気を出せ!」は言ってはいけない  石田 淳著 フォレスト出版