■ スキーのコーチによるテニスのレッスン

  よい聞き手がいない

部下やクライアントは、頭を整理するため、新しいアイディアを 生み出すために、良質のブレーンストーミングを求めています。 ただよい聞き手がいないために、その機会を失っているのです。 ティム・ガルウエイの著作に、次のようなエピソードが紹介され ています。
彼はテニスのレッスンプロとして活躍していましたが、あるとき スキーのインストラクターをしている友人にテニスのコーチを依頼 しました。

結果は予想以上のものでした。
このスキーのコーチは、プロのテニスコーチよりも教えるのがうま かったのです。実は教えるというのは正確な表現ではなく、彼はコ ーチングをしたのです。もちろんテニスの腕は素人ですが、生徒か ら「引き出す」ことや、生徒に「気づき」をもたらすことに関し ては十分有能なコーチであったわけです。

教えるのではなく質問する

彼はテニスの技術については知りませんから、教えるのではなく 生徒たちにいろいろな質問をしました。たとえば、テニスのコーチ は「ボールを見て」と言いますが、
彼は「ボールを見て」とは言わず に「ボールはどんな回転をしていますか?」と生徒に尋ねました
すると、本来見えない回転を見ようとするため、結果として、生徒 はボールをよく見ることになったのです。

もちろんそれ以前も、生徒たちはボールを見ていたつもりです。
でも、テニスコーチが要求しているボールの見方とは違うものでし た。しかしテニスコーチに、自分・が要求している見方と生徒の見方 の差を埋める技術がないため、あるいは、そのことにすら気づいて いないために、ただ「ボールを見て」という教え方になってしまう わけです。
教える側にとっては当然のことであっても、習う側にしてみれば 理解できない場合があるのです。

クライアントが目標をより早く、より大きく達成するためには、 もちろん知識も技術もツールも必要です。しかし、それを全部コー チが与えるわけでありません。コーチはクライアントと一緒に知識 や技術の棚卸しをし、どんな知識が必要なのか、どんな技術が必要 なのかを見つけ出し、それがどこで手に入るのか、どうやったら身 につけることができるかを具体的にしていきます。

つまりコーチ自身は教えるのではなく、クライアントに「目標を 達成するために必要な知識や技術、ツールを備えさせる」のです。
このプロセスをコーチングといいます。