バランス・スコアカード ― 時代が求めるマネジメントシステム(2)

~ 上司と営業マンの会話 ~

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上司:「A君、先日紹介した『バランス・スコアカード構築』の本は読んだかな?」

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A:「はい。難しいところもありましたが、とても勉強になりました。時代の変化がバランス・スコアカードを創り出したことが、わかりやすく説明されていました。」

上司:「そうだね。日本がバブルの時代には、このような手法は必要なかったからね。バランス・スコアカードを策定する前に、会社が今後、どのような方向に進んでいくのかを定義しておく必要がある。すなわち、ビジョンだ。せっかくバランス・スコアカードを用いても、将来の認識が甘く、現状の延長線上を目指していては、努力の割に成果が出ないこともある。それどころか、方向性を誤った場合、衰退することだってあり得るのだ。」

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A:「企業にとって、ビジョンはそんなに重要ですか?」

上司:「もちろんだよ。たとえば、もしもキヤノンが数十年前に、写真機の技術で喜びを創り出すことだけを掲げていたとしたら、今のキヤノンはなく、ただのカメラメーカーになっていただろう。昔も今も変わらずカメラメーカーの会社もあれば、破産してしまった会社もある中で、キヤノンの発展はめざましいものだ。」

A:「そうか、優れたビジョンあっての発展だったんですね。」

上司:「他にも参考になる話がある。一般にホテルというと、お客様にゆったりとくつろいでもらい、心地よく宿泊してもらうことを目的としているね。ところが、株式会社ホロニックという会社は、神戸市に本社を置いてホテルを運営しているんだが、ユニークなビジョンで成功しているんだ。」

A:「どんなビジョンですか?」

上司:「コミュニティづくりを通じて、人々の生活を豊かにし、より良い社会をつくる、というものだよ。コミュニティを創造する企業であると標榜しているんだ。」

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A:「コミュニティの創造ですか・・・確かにホテルらしくない、個性的なビジョンですね。」

上司:「ホテルの規模と立地から、お客様が何を求めているのかを察知し、社員自らイベントを企画・実施して、コミュニティづくりを行っているんだ。その一環でホテルを利用してもらい、ホテルのファンを増やしている。」

A:「なるほど。楽しそうな取り組みですが、きちんと利益につながっているんですね。」

上司:「うん、お客様の心をつかむ、いいアイディアだね。イベントの例としては、料理教室があるそうだ。イタリアで修業した料理長が、リクエストされた食材を使って、おいしい料理を教えてくれるらしい。はては、本場のイタリア料理を味わいに、イタリア旅行までありだとか・・・。そんな調子で、この独自のビジョンを活かして、あるホテルを買収後3年で見事黒字にしたそうだよ。」

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A:「それだけ、ビジョンは企業の命運を左右するんですね。」

上司:「その会社の存在意義、あるべき姿、使命感を規定し、表現しているものだからね。どこの会社でも、トップがビジョンの策定に神経を使っているのはそのためだよ。たいていの企業は、壁にビジョンや社訓を掲げているだろう?」

A:「そうですね。今まで、訪問先の応接間などで目にしていましたが、あまり意識していませんでした。ビジョンの重要性がわかったので、これからはもっと注目します。」

上司:「そうだよ、そういうところにも、営業をうまく進めるヒントがあるものだ。ビジョンや社訓を掲示してあるのは、社員に進むべき方向を示し、絶えずそれを意識して行動するよう促すためだが、来訪者に向けての宣言の意味合いもあると思わないか?我が社はこんなビジョンを持っています、こんな方向性を目指しています、と。」

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A:「自己紹介みたいなものですね。相手をよく知ることは、商談において非常に大切ですね。」

上司:「うん、そこなんだよ。企業におけるビジョンは、基本となる行動指針だから、人間にとっての性格みたいなものだ。相手の性格もよく知らないで、重要な話を持ち込んでも、いい反応は得られないだろう。友人や恋人の性格がわかっていれば、話を持っていく手順がわかるから、スムーズに話が進むね。それと同じで、その会社の性格、大切にしている想いを理解して商談に挑んでこそ、相手の心を揺さぶることができるんだよ。」

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A:「うーん、おっしゃる通りです。今まで、他社の社訓を漠然と眺めていたのが悔やまれます。今後は、そこから訪問先の想いや姿勢を汲み取って、営業に活かしていこうと思います。それにしても、聞けば聞くほど、ビジョンの大切さを痛感しますね。全員がビジョンを意識して行動すれば、会社は大きく発展するでしょうね。」

上司:「いいことを言うね。もしも社長が聞いていたら、さすが我が社の社員だと、朝礼で話題にされると思うよ。それはさておき、ビジョンがまとまれば、次は経営戦略だ。どのようにビジョンを実践していくのか。当たり前だけれど、どんなに素晴らしいビジョンを持っていても、実践できないと意味がないからね。」

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A:「どう実践するか・・・これも、なかなか難しい問題ですね。具体的には、何から取りかかったらいいですか?」

上司:「最初の課題は、事業領域(事業ドメイン)の決定だ。会社の規模、自社や競合相手を取り巻く外的要因などを考慮して、どの範囲・分野をターゲットにしていくのか・・・たとえば、どの地域でオンリーワンを目指すのかを決めるんだ。」

A:「市内でオンリーワンとか、県内でオンリーワンとか、そういうことですね。社長がときどき、オンリーワンという言葉を口にするのは、そういう意味だったんですね。」

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上司:「うん、あるいは、事業の内容にもよるけれど、インターネットを利用して、日本全国や世界を相手にするという選択肢もあるね。事業ドメイン次第で、戦略は大幅に変わってくるから、よく考えないと。適切な決定をするには、自社の強みや弱みを冷静に分析しておくことが必要不可欠だ。取り扱っている製品・商品が多様な場合には、外部要因も複雑になってくるから、調査と分析のために専門要員を配置している会社もあるよ。」

A:「そう言われて振り返ってみれば、意外と、自社の強みを知らないまま営業をしていました。でも、他社との差別化を考えたとき、自社の強みを明確にして、前面に押し出していくことが重要だとよくわかります。」

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上司:「その通り。先ほどは、相手を知ることが大切だと話したが、己を知っておくことも肝要だ。自社がいちばん力を発揮できるのはどんな場合か、一度自分で考えてみるといいと思うよ。特に中小企業にとっては、組織の存亡にもかかわるくらい大事なことだ。大きな会社と比べれば、人的資本の差は明らかだから、同じ立場で競争してもおそらく勝ち目はない。そこで、自社ならではの強みを見つけて、いかに生き残っていくか。頭の使いどころだよ。たとえば、地域に密着したサービスを展開しているのなら、下手にドメインを広げようとせず、迅速で細やかなサービスに特化したほうがいい。」

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A:「中小企業だからこその強みを武器にして、経営戦略を立てるんですね。その後は、何をしたらいいですか?」

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上司:「そう、ここからが重要なんだが、策定した経営戦略を、具体的な行動に落とし込んでいくんだ。たとえば、企業のトップが"迅速で付加価値のあるサービスで、地域のオンリーワンになる"と宣言したとしよう。これを各部署に対して、同じ言葉で述べていても何にもならないね。具体的に、それぞれの部署が何をすればいいのか、示す必要がある。このときに大切なのが、戦略と戦術に整合性があること。そして、このふたつが連携していることだ。経営戦略を戦術までブレイクダウンしたものが重点施策であり、つまりは重要成功要因の策定というわけだ。」

A:「なるほど、ここからいよいよ、バランス・スコアカードの出番ですね。」

上司:「先にキーワードを言われてしまったか。さすが、本を読んで理解していたね。」

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A:「ありがとうございます。バランス・スコアカードでは業務を、財務の視点顧客の視点業務プロセスの視点人材と変革の視点という4つの要素に分類して、さらにそれぞれの視点に対し5つの項目でアプローチするんでしたよね。実際に重要成功要因を分析し、業績評価指標へと展開すると、どんなアクション・プランができるのだろうと、非常に楽しみです。」

上司:「社員全員が君のような意気込みを持ってくれれば、バランス・スコアカードの策定はできたも同然だね。バランス・スコアカードの運用を成功させるには、全社の各部署の主要メンバーが集まって、よく話し合う必要がある。皆が内容を理解し、納得した上で、現実的に実行できるものを作らなければね。その際、特に苦労するのが、業績評価指標だ。」

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A:「本では、サウスウエスト航空の話を取り上げていましたね。」

上司:「うん、あの例はわかりやすかっただろう。顧客の視点のうち、戦略目標は定刻の離着陸。重要成功要因は、スケジュールを守ること。そして業績評価指標が、定刻30分以内の離着陸だったね。業績評価指標が具体的な数値であることで、戦略目標が実行されているかどうかを客観的に、明確にモニタリングできるんだ。」

A:「なるほど、具体的な数値で表せる業績評価指標を見つけ出すことがカギですね。」

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上司:「そうなんだよ。当社の営業支援システムでも、この指標を用いることで、誰にでも営業活動の全容がわかるようにしてある。上司は、この指標が達成されているかどうかを確認すればいい。それと、業績評価指標は先行管理と相関しているから、同時に先行管理もチェックしている。そのために、いつもダッシュボードに表示してあるんだよ。」

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A:「そうか、業績評価指標がダッシュボードに表示されているのは、常に指標の達成を意識して行動するよう、促すためだったんですね。今回、バランス・スコアカードについて勉強したことで、業績評価指標の意義をより一層理解することができて、良かったです。貴重なお話をありがとうございました。」

上司:「こちらこそありがとう。A君と話をすると、私も気が引き締まるよ。全員がバランス・スコアカードの有効性を認識し、戦略目標に真摯に向かっていけば、ダッシュボードの業績評価指標の数値に成果が現れるだろう。そうなれば、財務の視点の目標も達成でき、大きな飛躍となることを確信している。」

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