感動を今すぐ全力で

アイデアを言葉や行動で伝えるとき、それが受け入れられないと、妥協してしまうことがあります。スティーブ・ジョブズは、ユーザー視点で思いつたアイデアを実現するため、妥協を一切しませんでした。iPodをつくる際には「これはいらない」「ムダだ」といらない機能をどんどんそぎ落としていきました。そして、電源のオン・オフボタンをなくしています。

何度も何度も見直して、一応、このくらいで完成かなといったところでも、もうひとねばり考えることが、素晴らしい結果を生み出せるかどうかの分岐点となってきます。 リーダーは最後まで粘りを忘れず、最高のものを作ろうという気持ちを忘れず、そのような組織創りをし、最後まで考え粘り抜く習慣をつけることが問われています。

特に、顧客の要求がますます厳しくなっている今、新しいサービス創りには、このような行動が求められています。

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長崎県平戸市に、口べたで人見知りする青年がいました。彼には高校時代、想いを寄せる女性がいましたが、それを相手に伝えることはできませんでした。 そんな彼が、大学進学、機械製作会社への就職、そして実家のカメラ店手伝いを経てたどりついたのが、通信販売の世界でした。

株式会社を設立して社長となった彼は、自ら商品説明を行い、そのわかりやすい解説と、少し訛りのある独特の語り口で、聞く人を魅了するようになります。 ラジオ、テレビ、折込チラシ、インターネットと、活躍の場はどんどん広がっていき、今や彼の会社は、日本のテレビ通販で第3位の売上を誇るまでに成長しました。 その人物の名は、高田 明。あの「ジャパネットたかた」の高田社長です。

人を惹きつけるトークの極意

「さあ、皆さん。今日はこのビデオカメラをご紹介します。」 テレビから流れてくる、高い声。一度聞いたら忘れられないほど、強く印象に残る巧みなセールストーク。

高田氏の商品説明を見聞きして、彼は何か特別な話術を体得しているのだろうと感じる人も多いでしょう。そのくらい、彼は視聴者の気をひく達人です。 熱心な語りを聞いているうち、さほど興味のなかった商品まで、ついほしくなってしまうから不思議です。けれども、彼はプレゼンテーションの訓練を積んだわけではありません。

「難しい表現をしていないのがいいのかもしれませんね。テレビショッピングはお客さまの年齢や性別を選べませんから。」 いつも心がけていることは上手にではなく、分かりやすく伝えることです。 たとえば100歳のおばあちゃんが見てもわかってもらえるように伝えるのが、一番大切なことだと言います。

「送り手とお客さまの間に、温度差があると思うんですよ。相手もこれくらいわかっているだろうって。」 そんな慢心を捨てて、初心者の気持ちに返ってみる。それが、高田流プレゼンテーションの要なのでしょう。この姿勢は、通信販売を始めた頃から変わっていません。

ジャパネットたかたでは毎朝、長崎県佐世保市にあるスタジオから、通販番組を生放送しています。「台本はないんですよ。たとえ新商品が5つあったとしても、その場でやってしまいます。」 録画ならあとから編集できますが、生放送ではそうはいきません。

そんな中、即興の商品紹介が成り立っているのは、制作スタッフらのチームワークあってのことです。 番組に関わる20数人のスタッフには、高田氏と同等の商品知識、そして阿吽の呼吸が求められます。高田氏が言おうとしていることを察してこそ、的確なカメラワークやテロップが可能になるのです。

本番10分前!商品選びに妥協なし

さて、その番組では毎回5〜10点の商品が紹介されますが、ここでも高田社長ならではのこだわりが発揮されます。 取り上げる商品のラインアップは、3日前には大体決まっています。

しかし最終的に確定するのは、当日なのです。その日の天候などに合わせ、半分ほど差し替えられます。「今この瞬間に、お客様が欲しいと思っている商品を紹介したい」との強烈な想いからです。 よく晴れた日に布団乾燥機を紹介しても、ほしいと思う人は少ないでしょう。そんなときはデジタルカメラに変更する、といった具合です。

明確な根拠はないけれど、なんとなく「今日はこの商品ではいかん!」という勘が働くこともあります。そのタイムリミットは、オンエアのずばり本番10分前です。 直前になって商品を変えることは、大きなリスクを伴います。話す内容を考え直すのはもちろんのこと、テレビ局への連絡や在庫確認も必要で、スタジオはてんてこ舞い。放送中にハプニングが起こるかもしれません。

そうまでして商品にこだわるのには、理由があります。少しでも「ま、いいか」と妥協してしまうと、その時は楽でも、良い結果が出ないのです。 本番中も「やっぱり、あっちにすれば良かった」と気になってしまいます。 面倒でもハイリスクでも、ぐっとこらえてがんばる。

そうすると、仕事はだんだん楽しくなり、お客さまからの反応もあるのだと言います。様々なリスクを乗り越えてこそ、お客さまに想いが伝わるのです。

ひらめきが降りてきた!

生放送10秒前にいいアイディアが浮かんで、とっさに演出方法を変えたこともあります。

そのときはポータブルタイプのカーナビの紹介でしたが、魅力的なアピール方法が思い浮かびませんでした。 普通に説明したのでは面白くありません。ギリギリまで悩んだ結果、スーツのポケットに入れて取り出してみせようと思いつきました。

「そうすれば、いかにこのカーナビが持ち運びに便利か、ばっちり伝えられると思ったんです。」 本番直前に演出を極端に変更すると、思わぬ放送事故の恐れもあります。それでも高田氏は「ポケットから出すから、全身のショットから入って」とカメラマンに指示を出しました。

結果は大成功。前回紹介したときの5倍もの注文が舞い込んで、スタッフ一同とても盛り上がったそうです。 「明日から、「ま、いいか」と口にしたり、思ったりする代わりに「これで本当にいいのか」「他の方法はないか」と考えてみてください。きっと、仕事に対する想いが変わってきますよ!」

生活シーンを提案する

高田氏にとって、いい商品であることを伝えられれば、媒体や手法は関係ありません。の商品を顧客が手にするとことで、どんな便利なことがあり、どんな快適さが得られるか、こんな新しい生活が待っている。だから、この商品をおすすめしたい。」と機能ではなく便益を伝えています。 彼が売っているのは製品・商品・広告品ではなく、「生活品」なのでしょう。

「ライフスキル」というマーケティング用語は「生活の術を会得すれば暮らしがハッピーになる」という概念ですが、彼が視聴者の購買意欲を高めるのに長けているのも、まさにそこにポイントがあります。

この商品があれば、こんなにいいことがありますよ、こんなこともできますよ、と熱心に語る高田社長を見ているうちに「たぶんこの商品は、私の生活も豊かにしてくれるだろう」と、いい意味で錯覚し、期待するのです。 そうして、生活シーンに落とし込まれることで、商品はただの「モノ」から、生き物へと変わります。それが、ジャパネットたかた成功の秘密であり、人の心を動かす秘訣です。

参考文献: 「日経ビジネス・オンライン 2009年6月16日」

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