葉っぱを2.6億円ビシネスへ

2010年1月24日に放映されたNHKスペシャル「メイド・イン・ジャパンの命運」では世界最強のブランドと言われた"メイド・イン・ジャパン"が、出口を求めて必死にもがいている様子をありありと伝えていました。

一昔、中国で生産された製品は安かろう悪かろうとのことでまかり通っていました。 しかし、現在では液晶テレビで見られるように、日本のメーカー製と何ら遜色なく、安く市場に出回っています。また、2009年には自動車でトヨタ自動車など乗用車メーカー8社の中国での生産台数が、初めて米国を上回りました。 自動車も中国シフトが進んでいます。

そこで、お客様の多様な趣向の調査と現場からの真摯な意見から、自社の製品、サービスに意義ある付加価値付けや見直しをし、お客様が期待する以上のものにすることが問われているようです。

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ミカン以外に売れるものがなかった

徳島県上勝町は山あいにある四国で一番小さな町である。人口は2000人程で、2人に1人がお年寄りだ。数十年前は、男は朝っぱらから大酒をあおり、女は陰で他人をそしる日々を過ごす、どん底の田舎町であった。 上勝町はかつて林業が主力産業だったが、安い輸入材に押されて衰退し、ミカン以外に売れるものがなかった。

しかし、1981年2月、局地的な異常寒波によりミカンの木は樹液が凍りつき、町のミカン畑の8割が枯れるという壊滅状態となった。もともと過疎化が進んでいた町が、さらに衰退しようとしていた。

その上勝町の農協に、横石氏は農業大学校を卒業して就職した。 横石氏はこの状況をなんとか打開しようとして、シイタケ栽培などを提案し、農協の売上げ回復を目指すも、高齢者にとってシイタケの原木を扱うことは重労働のためあきらめる。そして新たな売り物を模索する。

ヒラメキがおこる

そこで、友人が大阪の中央市場で働いていたので、現地に赴き、売れる農産物などについて相談するが解決策は見当たらない。その晩、友人と「がんこ寿司」で歓談をしていたとき、隣の女性客が料理の飾り葉の赤い紅葉を「きれいね。」と言って、持ち帰ろうとする姿を見た。それを観察していた横石氏はこれだと閃いた。

以前、NHKでのプロジェクトX(挑戦者たち)で、オムロンの技術者が自動改札機を開発中、大きな壁に遭遇する様子が放送されていた。切符を自動改札機の挿入口に入れると、どうしても切符が真っ直ぐに入らず、読み取エラーが発生してしまうのだ。

その技術者が息抜きとして休暇をとり川釣りに行ったとき、ふと川面を見た。 流れている木の葉が小枝にあたり、木の葉はその作用で方向を変えて、直進する様子をみて「この方法だ。」と叫んだ。

難解な問題にぶつかり、頭の中では絶えず問題意識が渦巻く中、ふとリラクッスしたときにヒントになる現象に遭遇すると、ヒラメキがおこるそうだ。

そこで、横石氏は農家にツマモノ用の葉っぱの栽培を提案したが、初めは「そんなものは売れない。」と、はなから賛同はなかった。なんとか説得して、ツマモノ用の葉っぱ(もみじ、ヒノキ葉、南天など)を集めて、単純にトレーにのせて市場に出したが売上げにはつながらなかった。

上勝町のお年寄りがいきいきと暮らせるようになるにはとの使命感がなければ、この段階で村人が言うようにやっぱり無理なんだと諦めていただろう。

とことん問題を追求

横石氏は、この問題がどこにあるのかと奔走した。 そこで、当時の月給15万円のすべてを注ぎ込んで、1回2〜3万円の料亭に通いつめ、ツマモノの意味、価値、使われ方などを徹底して学習する。 そして、ある料理人からツマモノに込められた意味合いを聞き出し、ビジネスヒントを得る。ヒントとは、葉っぱの型であるが、その葉っぱが最盛期から約45日前には市場にださないと、売れ物にならないことがわかる。

そのため、農家のおばあちゃんの知恵からビニールハウスを設置し、こまめに肥料の管理をした。その努力でツマモノの植林を早く成長させることができた。 その成果から、初年度 116万円 2年目850 万円 3年目 2000万円と順調に売上が増える。また最初、協力者は数件だったのが、次第に100件までになった。4年目3800万円 その後、毎年1000万円ずつ増える。

それには横石氏が全国の農協やレストランを回って、顧客と流通の開拓に励み、また、おばあちゃんたちに需要に応じて的確な品種を適量、迅速に出荷する体制を導入した経緯がある。 例えば、各農家にFAX網を配置して、それを利用して市場が要求している商品の情報や、作業に対しての励ましの言葉を定期的に農家に送信した。

また、専用ソフトを組み込んだPCを 用意し、おばあちゃんたちが競争心を持ち、自らの才覚で儲けられる仕組みを用意した。 出荷者はパソコン画面で市況を確認でき、自分が出荷したツマモノがその日のうちに、いくらになるのかも分かるようになった。こうしたIT環境の整備で急な注文にも対応できるようになる。

急な注文には、朝10時半から11時ぐらいにFAXで各農家に個数、種類を記したリストとして流されるLANシステムを導入した。その成果として売上は2億6000万円までに成長した。

重要な課題を克服

さて、ツマモノが事業として成り立つには重要な課題があった。 ツマモノは料理に添えて季節感を演出する。色かたちに洗練された美しさが求められる。さらに季節商品が最盛期前に展示して、消費者の購買意欲をかき立てるように、季節を先取りした時期の出荷が必要である。

自然に任せた生産では商品にならない。 企業が商品開発、生産、販売活動を行ううえで、顧客や購買者の要望、要求、ニーズを理解して、ユーザーが求めているものを求めている数量だけ提供できる体制が要求される。

そのためには市場の出荷量や商品ミックスに対するニーズに柔軟に応じられ、しかも供給するタイミングや量を調整する機能が必要である。 横石氏はこの課題を、おばあちゃんのやる気、モチベーションをあげ、ITの導入を行って解決した。

経済学者シュンペーターは「今あるものを新しく組み合わせて新しい結合である」と。「いまあるもの」が出発点だ。無いものねだりではない。この「いまあるもの」の「新しい結合」の工夫がイノベーションであると。 組織でもお互いのビジュンのもとベクトルが一致して行動ができたら、その組織は期待以上の仕事ができるのと同じである。

終わりに、横石知二氏は下記の談話を残している。 事業開始から20年余りが過ぎたいま、こうして振り返ってみると、あれこれ仕掛けた苦労はあったものの、成功できたことは、始める前から運命づけられていたのかもしれないと、不思議に思うことがある。

上勝町で働き始めて2年目の冬、異常寒波の襲来によって町の主要産業だったミカンが全滅した。歴史的な自然災害だったが、農家の必死の努力で、結果的には上勝の農業を再編成して発展させる好機になった。

これは上勝町の方向を「変えろ」という、「天の啓示」だったのかもしれない。まず、この自然災害からして運命的なものを感じる。

注:現在、横石知二氏は上勝町の第三セクター「鰍「ろどり」の代表取締役を勤めている。

参考文献:「そうだ、葉っぱを売ろう!」著者 横石知二 ソフトバンク クリエイティブ 

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